いまではすっかり耳馴染みにある言葉となった「発達障害」。わが子や家族の気になる言動に「もしかして?」と不安になったり、子どものクラスメイトのようすが気になったりすることがあります。もしも発達障害だった場合、どんな支援が受けられるのでしょうか?
目次
発達障害者支援法とはどんな法律?
まずは、発達障害者支援法について説明します。
発達障害者支援法の定義と対象
発達障害は2005年年4月より施行された「発達障害者支援法」で「自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されました。それまで、発達障害者への支援は、知的障害の有無により判断されており、知的障害と伴わない発達障害は「軽度発達障害」などと呼ばれ、支援の対象外でしたが、この法律により、知的障害を伴わないアスペルガー症候群やADHD、学習障害なども支援の対象となりました。法制度のはざまで取り残されてきた発達障害者たちは、学校や就労先などで、さまざまな困難を抱えながらも支援を受けられない状況が長く続いていましたが、この法律のおかげで「発達障害」の認知度があがり、支援やケアの対象であるという意識が社会に広がりました。
*診断基準の改定により、自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害について、現在は「自閉スペクトラム障害」といわれますが、定義の内容は現在の診断基準に一致するものです。
2016年の改正で変わったこと
発達障害者支援法は、発達障害のある人の早期発見と支援を目的に施行され、それぞれの障害特性やライフステージに応じて支援を行うことが国民の責務となりました。子どもだけでなく大人まで、地域の支援をつないでいくには、医療、保健、福祉、教育、労働などが互いに連携を取ることが必要です。また、2016年には法改正が行われ、理念と支援体制について、さらに強化された内容となりました。改正のポイントは下の7つです。
- 発達障害者の支援は「社会的障壁」を除去するために行う
- 乳幼児期から高齢期まで切れ目のない支援。教育・福祉・医療・労働などが緊密に連携
- 司法手続きで意思疎通の手段を確保
- 国および都道府県は就労の定着を支援
- 教育現場において個別支援企画、指導計画の作成を推進
- 支援センターの増設
- 都道府県および政令市に関係機関による協議会を設置
参照:https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/190/pdf/s051900361900.pdf
発達障害がある人も共に暮らしやすい社会へ
この改正のポイントは、「社会的障壁」を取り払おうと強調されたこと。つまり、発達障害がある人の特性を受け止め、周囲が工夫や配慮をすることで、彼らが生きやすい環境を作るのも社会の責任であると明言したのです。具体的には学校による「個別指導計画や指導計画」の作成、就労支援だけでなく就労定着の支援など、子どもから大人まで、ライフステージにあわせた支援を求めています。また地域格差が大きかった支援体制を改めるため、各都道府県と指定都市(人口50万人以上の都市)には、発達障害のある人の総合的な支援を行う「発達障害者支援センター」の設置が義務付けられました。発達障害者支援センターは、地域での支援体制づくりの中心的な役割を果たします。
発達障害は、乳幼児健診で指摘されることもある
日本には世界に誇る乳幼児健診システムがあります。自治体により若干の違いはありますが、1カ月、3〜4カ月、6〜7カ月、1歳、1歳半、3歳健診を実施しています(2歳、4歳、5歳、6歳児健診を実施するところも)。なかでも、「1歳半健診」と「3歳児健診」は母子保健法に定められた健診で、全国で実施されています。そして、最近ではこの2つの健診が、発達の遅れやアンバランスさに気づくきっかけになることが多いのです。
1歳半健診ですぐに発達障害の診断につながることはまずありませんが、保護者が気になっていることなどを相談できます。健診には医師だけでなく、保健士や栄養士、心理士などの専門家がいて、子どものようすを観察し、言葉の遅れや気になる目線の動き、年齢に比べての発達の遅れなどがあると、専門の病院や相談機関につないでもらえます。
じっくり相談して納得のいく選択肢を選ぶ
健診前から「うちの子はもしかして?」と思っている保護者にとっては、医師や心理士などの専門家に、気になることを相談できる場となりますが、ふだん特に気にしていなかった保護者にしてみれば、寝耳に水で驚き戸惑うことでしょう。急には受け止められないのは当然のことなので、納得するまでよく話を聞いてみてください。1度で受け止めきれないこともあります。一刻を争うような病気ではないので、どうぞ、何度かカウンセリングを受けたり、グループワークに参加して他のお子さんとわが子の様子を観察するなどして、保護者が納得してから次のステップに進んでください。納得できないままに専門機関や医療機関につながると、あとで不信感が残ることがあるのであせらないで、じっくり相談を重ねてください。
専門機関での相談を積極的に活用しよう
相談機関とは複数あり、地域により呼び名や機能が違います。
・保健センター
・児童相談所
・子育て支援センター
・発達障害者支援センター など
相談機関では、その地域で受けられる支援や療育サポートについてアドバイスしてもらえます。療育とは、発達に遅れやアンバランスさがあるお子さんについて、生活での苦手や困難さを減らすようにトレーニングや教育を行うサポートです。療育を受けることで、子どもの気になる特性がなくなることは難しいでしょうが、家族の関わり方や、家庭での環境の作り方など、家族のサポートの仕方を学べることがメリットです。子どもを訓練する場というより、お子さんが生きやすくなる環境や支援をどうするかを家族で考える場として、活用するといいでしょう。発達障害の子どもたちは「できない」ことを積み重ねて、自己肯定感が低くなりがちです。そこに「なんで、できないんだ!」と、家族や教師などが追い打ちをかけるような関わりを続けると、不登校や非行などの二次障害につながる心配があります。そうならないために、家族がお子さんとの関わり方を早期に学ぶことに療育の意義があります。
児童発達支援を活用するには「受給者証」が必要
なかには公的施設で療育サポートを受けられる自治体もあります。また、2012年の児童福祉法改正でスタートした制度で、障害のある未就学の子どもたちが、住んでいる地域で療育や支援を受けやすくするために設けられている下記施設を利用する方法もあります。
・児童発達支援事業所
・児童発達支援センター
これらの施設を利用するためには、「受給者証」を取得する必要があります。受給者証のなかでも下記の申請には、必ずしも医師の診断書は必要なく、保護者や自治体の窓口に専門家の意見書などを添えて申請すれば大丈夫です。
・障害児(通所、入所)受給者証
・日中一時支援受給者証
「受給者証」を取得すると、1割負担でサービスを受けられます。また、前年度の所得に応じてひと月の負担額の上限が決められ、それ以上の負担が発生しません。自治体によっては、独自の助成金がある場合もあります。
診断を受けるかどうかは家族で納得してから
発達障害の診断を受けるかどうかは、義務ではありません。特に3歳未満の場合は、発達過程での変化もあるため、診断がつかないことが多いでしょう。ただ、はっきり診断を受けた方が通園する幼稚園や保育所などに説明がしやすくなることや、社会的支援が受けやすくなることがあります。また、「特別支援学級」や「特別支援学校」など、就学先を選ぶ際には、医師の診断書が必要となることもあります。そのため、最近では就学前に診断を受けるケースが増えています。いずれにせよ、保護者がしっかり納得したうえで、診断を受けるかどうか選ぶことが大事。人にすすめられたからとか、他の人がやっているからではなく、わが家はどうしたいのかをよく考えて決めることをおすすめします。
構成/江頭恵子