特別支援教育の専門家・星山麻木さんは、子どもたちはお互いが助け合うことができる「セーブパーソン」になれると言います。それは、いわゆる定形発達と言われる子どもたちが、「私たちには障害がないから、あの可哀想な子を助けてあげよう」という思いを抱くことではありません。大人の私たちも子どもをサポートするときや、大人同士で支援をするときに、そんな気持ちになりがちではないでしょうか?星山さんに、「セーブパーソン」を理解する道筋をおしえていただきました。
「グレーゾーン」ではなく、子ども達は「虹色」
誰もがいろいろな色を持つ虹色です
発達が気になる子どもたちのことを語るときに使われる「グレーゾーン」という言葉。
これは、白は障害がなく、黒は障害があり、その間にある子どもたちのことを、白と黒が混ざり合った「グレーゾーンの子」という意味で使われるようです。グレーには濃淡があることから、障害の連続体の象徴として、この言葉が多く使われているようです。
しかし、もし人を色で表現するのであれば、少数派は決して黒ではなく、誰もがいろいろな色を持つ虹色なのだと思います。私たちはさまざま色のスペクトラム(連続体)であり、虹色の濃さや配分は、ひとりひとり違います。たとえ多数派と少し異なる発達であったとしても、それぞれの色は誰もが少しずつ持っているものだったり、混ざり合うことでより美しくなる組み合わせだったりします。
「虹色な子どもたち」のことを理解しやすいように、子どもたちの特性を、以下のように7色の虹色にわけて解説しています。
・正義の味方の「レッドくん」
・心やさしいあわてんぼうの「オレンジちゃん」
・すばやく動く人情家「イエローちゃん」
・繊細なきちんとさん「グリーンくん」
・孤高の天才「アクアちゃん」
・ゆっくりおおらか「ブルーちゃん」
・甘えん坊のさびしがりや「パープルちゃん」
それぞれ自分の違う色を大事にしながら、お互いにどうやって助け合えるのかを考えてほしい
少数派の子たちを、いかにして多数派の子に順応させるか?という考え方は、もういい加減にやめてほしいと思っています。
「○○法」で訓練を重ねて、たとえその場ではできたとしても、子どもたちは結局、子ども同士の世界で生きていきます。そこで、いじめられたり傷つけられたりしては、生きにくさは変わりません。だからといって、「この子は可哀想な子なのだから助けてね」「あの子には障害があるから、仕方がないんだよ」と教えるのでは、いつまでも上手くいきません。
障害がないと思っている、いわゆる定型発達の子どもも大人も、みんなそれぞれに得意なことと苦手なことがあります。みんなが違う色を持っているのだから、それぞれの違う色を大事にしながら、お互いにどうやって助け合えるのかを考えてほしいのです。
「セーブパーソン」とは、自分を理解し、守ってくれる本当の友達です
自分の子どもや、友達が持つ色を理解するには、まず、自分自身が何色なのか?を理解することが大切です。
特別支援教育を先進的に推進しているある市では、通常学級の子どもたちが、「自分自身の取扱説明書」を作る授業を行っています。一人ひとりが「自分はこういう時に困っているから、友達にはこうしてほしい」と書くのです。それをクラスのみんなで見て「そうだったんだね」と互いを理解しあいます。
家族だけではなく、子ども同士がお互いに支え合えるように
それができると、子どもたちが互いに支えあえるようになる「セーブパーソン」になるのです。そうなれば、特定の誰かが、例えばお母さんやお父さんなどの家族だけが子どもを支え続ける必要がなくなるのです。
「セーブパーソン」とは、自分を理解し、守ってくれる本当の友達です。困っていることを理解し、そっと支ええてくれる存在。一般的には親や兄弟姉妹、先生などが「セーブパーソン」となるケースが多いのですが、特定の誰かだけが担ってしまうと、助けるだけの側の人がいつか疲れきって潰れてしまいます。 誰かに対しては助ける側だった人も、別の面では苦手なことがあり、それはまた別の人が助けてくれる。そうやって互いが「セーブパーソン」になれるのです。
自分を見つめ直し、相手を受容するきっかけになる
自分が虹色の中の何色なのか、友達は何色なのか?などを理解しあうワークショップは、子ども向けだけでなく、大人たちにも実施していて、保護者向け、地域向け、そして先生たちの研修でも行っています。
あるPTA総会の研修で実施した際には、参加者の1/3くらいが保護者たちが涙して、自分自身を見つめ直し、そして相手を受容するきっかけになりました。先生同士の研修でも「俺は真っ白だ」という先生に対して、周囲が「全然違うよ」と大笑いしたことがありました。大人が自分自身のことがわかっていないのだから、子どもの気持ちがわかるわけがありません。お父さんもお母さんも先生もみんなが何色だよと理解して、お互い助け合うことを、大人がまずやってほしいのです。
障害がある人もない人も、多様な価値があり、助け合える
すると、誰もが助けてもらうだけでなく、助けてあげられる立場になれるとわかります。障害があるのだから助けてもらって当たり前ではなく、障害があっても人を助けることができるのです。
セーブパーソンは、お互いさまという考え方で循環しています。ADHDの子もASDの大人も、知的障害がある人も、みんな多様な価値があり、助け助けられます。偏差値が高いとか、運動ができることだけが価値ではないことは、すでに誰もが知ることですね。それを色に見立てて考えることで、大人の受容力が増し、子どもたちを理解しやすくなります。
互いの特性を知り、助けあえる仲間がそばにいること
みんなが自分の特性を知り、お互いの特性を知り支えあう。それが理想の「セーブパーソン」です。それは特別なことでなく、実は自然とできていて成功している事例はたくさんあります。
小さい頃からの仲間だった幼馴染みが理解しあい、こいつはここを触っちゃダメだとか、ここは代わりにやってやろうと、互いにわかっている人同士でチームを作り成功している事例はたくさんあります。
エジソンやアインシュタインのように、世界的に有名な起業家や研究者などの中にも、周囲のセーブパーソンがいたからこそ、花開いた人がたくさんいます。共通しているのは、身近に仲間やチームがいることです。
同世代の仲間の中に「セーブパーソン」を見つけたい
この子のここは苦手だけど、ここが優れているというパズルの組み合わせができれば、自分がどう変わるかより、何倍もの力を発揮できます。それを家族の中だけで支え合おうとすると、きっとパンクするので、横につながっていく方がいいでしょう。できれば地域の子どもたち同士の輪ができるといいですね。もし保育園や小学校でいい先生に出会えたとしても進学するとその先生とは会えなくなります。つまり、大人は世代が変わるといなくなってしまうので、同級生や同じクラス、一緒に学ぶ仲間と支え合えるのが理想です。地域に居場所を作っていくためにも、仲間を作ることは大切にしてほしいです。
お話を伺ったのは
明星大学教育学部教育学科教授。保健学博士。一般社団法人「星と虹色なこどもたち」会長。一般社団法人「こども家族早期発達支援学」会長など。東京学芸大学音楽課卒業後、養護学校で音楽教師を務め、退職後、横浜国立大学大学院博士課程(障害児教育)修了。東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻(母子保健学)博士課程修了。メルボルン大学客員研究員(早期介入)。鳴門教育大学障害児教育講座助教授を経て現職。中央大学文学部兼任講師。文部科学省大学設置専門員、教育委員、教育振興計画策定委員なども務める。著書に「星と虹色なこどもたち」(学苑社)など。
取材・構成/江頭恵子