映画『朝が来る』の特別養子縁組で「親になること」と「親であること」について改めて考える

©2020「朝が来る」Film Partners

コロナ禍において、映画業界の救世主となった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が“鬼ヒット中”の今、ファミリーで映画館に足を運ばれた方々も多いのでは。私自身も「鬼滅」はドハマリしていますが、今週は、ママやパパたちの心にぐさりと“刃”が刺さるような大人向けの感動作『朝が来る』をご紹介します。

メガホンをとったのは、樹木希林主演映画『あん』(15)の河瀬直美監督で、原作は直木賞作家・辻村深月のヒューマンミステリー小説です。「特別養子縁組」というシステムを通して、親になるとはどういうことなのか、また、親子とは何なのか?という普遍的なテーマを描いていきます。

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主人公は、不妊治療をしていた栗原佐都子(永作博美)と清和(井浦新)夫婦ですが、実の子を持つことを諦め、「特別養子縁組」で、14歳の中学生・片倉ひかり (蒔田彩珠)が産んだ男の子を養子に迎え入れます。佐都子たちは、朝斗と名付けた養子と共に、幸せな日常を過ごしていましたが、ある日、朝斗の産みの母親だと名乗る女性から「子どもを返してほしい」と迫られます。

河瀬組ならではの“役積み”という特殊なアプローチとは?

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海外での評価も高く2020年東京オリンピック公式記録映画の指揮官でもある河瀬監督は、もともとドキュメンタリー畑出身です。自ら16mmのカメラを回した監督デビュー作は、生後まもなく生き別れた自分の父親を探し、自らの出自を問うというドキュメンタリー映画『につつまれて』(92)で、この頃から「家族とは」「親とは」という深遠なテーマを掘り下げていました。

今回も自らカメラを回していますが、とにかく切り取る画が非常にリアル。そんな河瀬組に出演する俳優陣には、“役積み”という、特殊なアプローチを求められます。各キャストは、撮影前の準備期間に、役としていろいろな経験を積み、そこから役を作っていかなければなりません。

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例えば、主演の永作博美さんや、夫・清和役の井浦新さんは、結婚前のデートや不妊治療での医師とのやりとり、特別養子縁組の説明会など、実際にはカメラが回ってないところでも、ちゃんとそれらを自ら体験しているんです。また、撮影が始まってからは、すべて時間軸に沿った順撮りが行われていきます。

永作さんも井浦さんも、共に子を持つ親であるからこそ、子どもを授かりたいという夫婦の気持ちや、愛する子どもを取られてしまうかもしれないという恐怖や悲しみに対し、かなり実感を持って演じられたのではないかと。もともと演技派である2人ですが、そこに役積みと順撮り効果も加わり、完成した映画では、心の揺れがなんとも生々しく映し出されています。

「特別養子縁組」というシステムを通して描かれる親と子

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もともと原作でも丁寧に描かれている特別養子縁組制度ですが、河瀬監督も本作を撮影するにあたり、徹底したリサーチを行い、養子縁組にまつわる様々な団体を尋ねたそうです。また、実在のNPO法人「Babyぽけっと」を通して紹介されたという方々も劇中に登場します。

浅田美代子演じる浅見静恵が代表を務める「ベビーバトン」は架空の団体ですが、劇中で養子を迎え入れた養親の方々が、経験談を口にするシーンなどは紛れもなく“本物”です。このドキュメンタリーパートの撮影時は、永作さんたちも非常に心を打たれたそうですが、観ている側の琴線も大いに揺さぶります。

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日本では、まだまだ馴染みのない特別養子縁組制度だけに、劇中での新鮮なやりとりに驚かされることもあります。例えば、佐都子はまだ6歳の朝斗に対して、自分という母親以外にも、朝斗を産でくれた母親と、「ベビーバトン」を運営する浅見さんという2人の母親がいるということを、ちゃんと説明するシーンは、実に感慨深かったです。

そして、最大の見せ場は、佐都子VS「片倉ひかり」を名乗る女という2人の母親による対決シーンですが、最初とクライマックスの2回に分けられて展開される点がミソ。きっと徐々に明かされていく真実に、熱いものがこみ上げてくるはず。

不妊治療から、養子縁組をした後の生活に至るまで、とても丁寧に追っている本作では、メインとなる佐都子夫妻や、ひかりだけでははく、娘の妊娠に狼狽するひかりの両親の目線も含め、いろいろな親の葛藤が描かれています。そして、観終わったあと、“親になること”と“親であること”の両方の責任感について、いろいろと考えさせられそう。ぜひ、HugKum世代のママやパパたちに観ていただきたい秀作です。

『朝が来る』は10月23日(金)より全国公開中
監督・脚本・撮影:河瀬直美 共同脚本:高橋泉 原作:辻村深月『朝が来る』(文春文庫)
出演:永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子、佐藤令旺、田中偉登/中島ひろ子、平原テツ、駒井蓮/利重剛…ほか
公式HP: http://asagakuru-movie.jp/

文/山崎伸子

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