社会保険って何?基本を押さえよう
社会保険とは、わかりやすくいうと、私たちが病気やケガに見舞われたとき、老後や失業した場合など、誰もが起こり得るリスクに対して備えるための制度で、社会保障のひとつです。
社会保険制度の目的
社会保険とは、そもそも何のためにあるのでしょうか? それは、私たちが遭うかもしれないリスクに備えるためです。
どんなに元気な人であっても、病気になったり、ケガをしたりして働けなくなることも考えられます。また誰もが年を取るものですし、介護の必要性が出たり、途中で失業したりすることもあり得るでしょう。これらのリスクは、誰にでもあるものです。そこで、これらのリスクについて社会で備えようとするのが社会保険制度の目的です。
社会保険の種類と役割
社会保険には、広義では次の5つの保険があります。
- 健康保険:病気やケガをしたときに利用できる医療保険制度
- 年金保険:老後の生活に備えて生活資金をためていく制度、および障害を負ったときや不幸があったときの遺族への保証制度
- 介護保険:介護が必要になった人の費用負担を軽減するための制度
- 雇用保険:失業したときや、就労のための教育訓練を受ける際に給付等の制度
- 労災保険:仕事中に病気、ケガになったときに保険を給付する制度
また狭義では、特に健康保険、介護保険、年金保険の3つが、社会保険にはあてはまります。この3つは、企業に入社したときに手続きを行う必要があります。また企業に就職する人が入る年金保険は、厚生年金保険になります。
「国民皆保険」の決まりとは
日本には、国民皆保険(こくみんかいほけん)という制度があります。これは日本国民は誰もが公的な医療保険に入る制度です。これは働き方や年齢によって加入するところが異なりますが、以下の5つのいずれかの健康保険に加入します。
- 国民健康保険:自営業者、74歳までの高齢者などが加入します
- 全国健康保険協会:中小企業に勤務する人とその家族が加入します
- 組合保険:大企業に勤務する人とその家族が加入します
- 共済組合:公務員、公立学校・私立学校の教職員とその家族が加入します
- 後期高齢者医療制度:75歳以上の高齢者が加入します
日本は世界的に「健康保険制度が優れている」といわれています。日本では、すべての国民が安価で医療を受けられる制度が整っているからです。
社会保険への加入条件をチェック
社会保険に加入するための条件と適用範囲について確認してみましょう。
加入条件と適用範囲
社会保険は、事業所(会社)単位で適用されることになります。法人組織、会社、団体等は、必ず社会保険に加入しなければなりません。
100人以下(2024年10月1日より50人以下)の企業の場合、週所定労働時間および月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の従業員はパート・アルバイト等も含め、加入対象となります。
101人以上(2024年10月1日より51人以上)の企業の従業員の場合は、下記の条件を満たせば、社会保険加入対象となります。
・週の所定労働時間が20時間以上ある
・月額賃金が8.8万円以上ある
・雇用期間が2か月以上見込まれること
・学生ではない
任意加入と強制加入の違い
社会保険の加入は、必ず加入しなければならない「強制適用事業所」と、それに当てはまらない「任意適用事業所」に分けられます。
「強制適用事業所」は、国や地方公共団体または法人の事業所と、5人以上の従業員を常時雇用している事業所のことで、必ず従業員を社会保険に加入させなければなりません。株式会社や合同会社のような法人は、従業員が1人であっても社会保険に入る義務があります。
それに対して、強制適用事業所に当てはまらない「任意適用事業所」では、従業員の半数以上の同意があれば、厚生労働大臣の認可を受けて社会保険加入の適用事業所になることができます。
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社会保険の壁について
社会保険の加入や扶養に関しては「●●万円の壁」というものが存在します。特にパートやアルバイトで働いている方は、これらを理解しておかないと、手取りが減ってしまったり控除を受けられなくなったりします。それぞれについて解説しましょう。
130万円の壁
会社員が社会保険に加入するとき、一定の要件を満たせば、家族を「被扶養者」として保険料を負担することなく社会保険に加入できます。このとき、一定の条件のひとつに「年収130万円」があるのです。
つまり夫の被扶養者として妻が社会保険に加入していたとき、妻のパートやアルバイトでの収入が年130万円を超えると、その扶養から外れることになります。妻自身が保険料を負担して社会保険に加入となると、保険料を支払う必要があり、結果として手取りが減ってしまうことから「130万円の壁」とよばれているのです。
106万円の壁
2022年10月に改正された社会保険制度によって、社会保険の加入対象となるパートとアルバイトの範囲が拡大されました。それによってできたのが「106万円の壁」です。以下の要件に当てはまる場合は、扶養から外れて社会保険に加入する必要があります。
- ・週の所定労働時間が20時間以上ある
- ・雇用期間が継続して2か月以上見込まれる
- ・月額8.8万円以上の賃金がある(年106万円以上)
- ・学生ではない
- ・従業員が101人以上いる
また2024年10月からは「従業員が51人以上いる」場合に変わり、さらに対象が拡大されます。
103万円の壁
「103万円の壁」とよばれるものは、所得税の壁のことです。妻の年収が103万円までは基礎控除があるため、実際の所得税はかかりません。しかし103万円を超えると、所得税がかかることになります。
150万円の壁
「150万円の壁」は、配偶者特別控除に関するものです。配偶者特別控除とは、所得から満額で38万円が控除され、実際の所得税が抑えられる制度です。
妻の年収が103万円を超えると所得税がかかることをご紹介しましたが、妻の年収が150万円までなら「配偶者特別控除」を受けられます。しかし150万円を超えると配偶者特別控除が減り、201万円を超えると配偶者特別控除はゼロになります。
社会保険料の計算方法や控除について
社会保険料はどのくらいかかるのか計算してみましょう。
保険料の計算基準と方法
社会保険の計算には「標準報酬月額」を使います。これは給与の平均額をキリのいい数字にして、区分された等級に当てはめたものです。
・健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率
・厚生年金保険料=標準報酬月額×18.300%
・介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率
年末調整の社会保険料控除について
会社員は毎年必ず、「年末調整」を行います。これは毎月給与から引かれる社会保険料について、その支払った分を所得から控除するためのものです。もし、給与から引かれる社会保険料のほかに、個人で社会保険料を払っていたり、同一生計とする家族の社会保険料を払ったりしていた場合は、その申告を年末調整で行います。
社会保険の種類と加入条件を知っておこう
社会保険は、私たちに万が一のことがあったときのために守るための制度です。しかし会社に勤めて、なんとなく社会保険に入っている人も多くいます。社会保険はどのような目的の制度で、加入するための条件は何なのか、保険料はいくらかかるのかといったことを知っておくのには大きな意義があるのです。
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記事監修
代表 堀川眞也
英語対応できる社会保険労務士として手続業務、企業研修講師~幸せ働き方講師®~として職場風土を改善する「コミュニケーション力アップ研修」等を行う。また、すべての人が働きやすい職場環境作りのための「制度設計」や、がん等傷病治療、育児・介護と就労の「両立支援」、ダイバーシティ&インクリュージョンにも取り組む。個人のお客様には、障害年金申請相談・手続を行う。無線機器電気設計技術者として外資系メーカーで22年、その後日系企業2社で10年の勤務を経験し、その働き方の違いや、人事評価の考え方の違いなどの体験を通じ、海外での経験、製造業での経験を活かしながら、経営者、従業員双方を支え「働くことが幸せ」といえる社会づくりに貢献している。
社会保険労務士事務所フェリシアンス
文・構成/HugKum編集部