「天地」は、紙、本、荷物などの「上と下」のこと。ならば、「無用」は?
ひょっとすると、「上下を気にしなくてもよい」という意味だと思った人はいませんか。それは、正しい意味ではありません。
正解は、「上下を逆にしてはいけない」です。
「無用」は、してはならないこと。若い人ほど、意味を間違って覚えています
ただ、そう考えたからといって、恥ずかしがる必要はありません。実は「天地無用」の意味を取り違えている人はかなり多いのです。
文化庁は毎年、「国語に関する世論調査」ということばの調査を実施しているのですが、2013年度の調査で、「天地無用」の意味を正確に理解している人がどの程度いるのか調査したことがあります。すると、若い人ほど「上下を気にしなくてもよい」と答えた人が多いという結果になったのです。
「天地」は、紙、本、荷物などの上部と下部のことですが、この場合は上下をひっくり返すという意味です。あまり一般的な意味ではないかもしれませんが。「無用」は、してはならないこと、必要でないことといった意味で、ある行為を禁止するときに使います。
「問答無用」「解放無用」も同じ意味
たとえば、「問答無用」「立ち入り無用」「開放無用」の「無用」も同じ意味です、つまり、「天地無用」は、上下を逆にしてはいけないという意味になるのです。
意味を取り違えている割合が高いので、このように、矢印を加えている表示も増えています。
運送業など専門の人たちが「天地無用」を使うのは、なんら問題ないと思います。でも、一般向けに使用するのであれば、「逆さま厳禁」などのように、わかりやすい表現を用いた方が確実に意味が通じると思います。
記事執筆
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。