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「”汗をかけない・かきにくい“病気」があるのを知っていますか?
生まれつき“汗をかけない・かきにくい”病気には「ファブリー病」、「無汗/低汗性外胚葉不全」「先天性無痛無汗症」「Rapp-Hodgkin症候群」の4つがあり、いずれも希少難病です。ファブリー病以外の疾患は発汗障害と同時に、 髪の毛や皮膚に異常が見られたり、骨折などの症状で比較的診断がつきやすい疾患です。
一方、ファブリー病の子どもは「汗をかけない、かきにくい」ために、熱がこもりだるさや痛みを訴えたり、運動をいやがったりすることがあります。それを病気と捉えずに、「体が弱い」「運動が苦手」など“子どもの体質”として見過ごしてしまうことが多い病気です。そのため、そのような子どもは、長い間、原因不明の倦怠感や高熱・手足の激しい痛みに苦しみながら、周囲に理解してもらえない苦しい思いを抱えて生活をしていることが多いのです。
ファブリー病と類似する症状をもつ疾患が、「特発性後天性全身性無汗症(AIGA)」です。 AIGAの発症年齢は10歳代から30歳代に多いのですが、幼児での発症例もみられます。
AIGAはファブリー病と同様に発汗障害と痛みの症状があらわれます。AIGAでは運動や暑熱環境で誘発される皮膚のピリピリする痛みの症状があらわれるのが特徴です。
一方ファブリー病とAIGAでは、痛みの発現部位が異なります。ファブリー病では手足に激しい痛みがあらわれるの に対して、AIGAは発汗誘発時に一過性に前胸部や背部といった体幹部にチクチクした痛みがあらわれます。 痛みの発現部位がファブリー病とAIGAとを見分ける重要なサインなのです。
これらの病気の中でも、最も気付きにくいと言われている「ファブリー病」について、詳しくお話を伺っていきたいと思います。
ファブリー病って?
ファブリー病は、厚生労働省の指定難病であるライソゾーム病の一種です。ライソゾームはヒトの細胞の中にあり、不要な物質を分解する役割を担っており、分解に必要な酵素が多数存在しています。ファブリー病は、そのうちの一部の酵素の働きが低下しているために、不要な物質が体の組織に貯まってしまうことで様々な症状を引き起こす遺伝性、先天性の病気です。
ファブリー病の症状
ファブリー病の症状は下痢・腹痛、難聴・めまい、尿たんぱくに始まる進行性の腎障害、不整脈、脳血管障害など全身に渡ります。症状は年齢によっても異なり、幼児期・学童期には「汗をかきにくい・汗をかけない」といった発汗障害や手足の激しい痛みなどの症状がありますが、30歳頃になるとこれらの症状は軽快するといわれる一方、腎障害は20歳頃、心障害は30歳頃から進行するとみられています*1 。
- ●ファブリー病に特徴的な症状*1 (必ずみられるとは限らず、人により症状の出方や時期が異なる場合があります。)
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子どもは汗っかきに見えて、実は発汗機能が低い!
- 思春期の子どもは汗腺をはじめとした体温調節能力が まだ十分に発達していません。汗腺の数は多いのですが、 単一汗腺あたりの汗出力は成人に比べて半分以下。
- 夏の高温・暑熱環境下では、発汗が熱放散の唯一の手段となります。そのため、子どもは深部体温を一定に維持する能力が低くなります。
深部体温が40度まで上がると全身けいれん、42度で多臓器不全になる可能性が高まると言われており、深部体温の上昇は命に危険を及ぼすほどです。 - 思春期前の子ども(10〜11才と成人(21〜25才)の汗腺数と単一汗腺あたりの汗出力の比較(Shibasaki et al,. 1997a)してみると、汗腺数は子どもの方が多いが、単一汗腺あたりの汗出力は明らかに小さいのです。 子どもの発汗能力が低い原因は汗腺の未発達に起因していると考えられます。
- ** ; 成人との有意差(P<0.01)、 c, b ; 胸部および背部との有意差(P<0.05)。
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「汗をかけない・かきにくい」、「手足の激しい痛み」に注意!ファブリー病チェックリスト
- ファブリー病の特徴的な症状は、幼児期・ 学童期には「汗をかきにくい・汗をかけない」 といった発汗障害や手足の激しい痛みなどがあらわれます。お風呂が苦手で、お風呂に入るのをいやがるのも特徴です。また、皮膚に赤い発疹があらわれることもあります。お子さんや、ご両親・親せきの方に同じような症状が子どもの頃にあったということはないでしょうか。
チェックリストであてはまる症状がないか確認してみてください。 -
ファブリー病チェックリスト
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ファブリー病かな?と思ったら…
Q:チェックリストで我が子がファブリー病かと思ったら、何科を受診すれば良いのでしょうか?
A:一般的な疾患と同様にお子さんが中学生以下なら小児科、高校生以上なら内科です。(開業医を受診された場合には、診断のための特殊な検査ができないので大学病院や総合病院を紹介されると思います。)ファブリー病は頻度の少ない疾患ですので、ファブリー病を診断されたことがある先生は少ないです。また、一般的な診察や検査では異常がないので、ファブリー病を疑って診察しないと見逃されがちです。受診時には「ファブリー病を疑っている」とはっきり伝えた方がいいと思います。
Q:早期発見することで、症状の悪化を防げると聞いたのですが、どのような治療をするのでしょうか。具体的にどんなお薬を飲むのか。治療すれば治るのでしょうか。
A:足りない酵素を補充する点滴治療を行います。点滴は定期的に病院に通って行うことになります。ただし、一部の患者さんでは飲み薬が可能な場合もあります。また、手足の痛みに対して鎮痛剤を投与します。酵素補充療法と鎮痛剤で症状の進行と疼痛緩和が得られます。
Q:ファブリー病の子が注意すべき点はどんなことですか?
A:高度の発汗障害では夏季、運動時に容易に体温上昇、うつ熱になり熱中症のような症状を引き起こしますので十分に身体を冷やす必要があります。ただし、手足の疼痛は暑いだけでなく寒いときや精神的緊張などでも発作性に増悪します。決して精神的に弱いからではないので、お子さんの症状をよく聞いて理解してあげることが重要です。
注意して子どもの体を観察して
大人になるまで気づかずに、つらい症状を我慢しているお子さんもいるかもしれません。もし運動を嫌がり、さらには手足の痛みや発疹が出ているようなら、大きな病院などを受診してみると安心できますね。
なかなか知られていない発汗に関する病気「ファブリー病」。特に汗をかきやすい季節は、注意して子どもの体を観察してあげたいですね。※ファブリー病について詳しく知りたい方はこちらへ→https://www.fabrytree.jp/summer_cp/
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記事監修
中里 良彦(ナカザト ヨシヒコ) 先生
埼玉医科大学 医学部 脳神経内科 教授
2009年7月 埼玉医科大学 医学部 神経内科 准教授 2019年4月 埼玉医科大学 医学部 脳神経内科 教授 2022年8月 埼玉医科大学病院 副病院長、病院診療部部長[所属学会] 発汗学会理事長,神経学会代議員,自律神経学会評議員,脳循環代謝学会評議員,神経感染症学会評議員,神経治療学会評議員,老年医学会代議員,頭痛学会評議員
文・構成/鬼石有紀