新しい概念「子ども向けコーチング」は令和の子どもたちになぜ必要?立ち上げへの思いを長澤瑞木さんに聞いた

お子さんの勉強がすすまない、やる気もあんまりないみたい……。パパママは頭が痛いですよね。そんなとき、無理矢理ドリルを与えて机の前にすわらせるより、もっと前向きになれる方法はない? それを実現しようとするのが、長澤瑞木さんです。コーチングの技術を使って、子どもたちに自信をつけ、今目の前にある課題に突き進んでいく心を育てています。ではいったいどんなふうにサポートするのでしょうか? 長澤さんに伺いました。

勉強を教えるのではなく、「自分で目標を立てて実行」をサポート

――長澤さんが子どもたちを対象にしているコーチングとはどのようなものですか?

長澤:子どもたちから出てくる問い、生活の中でやりたいこと、やろうと思っているけれどなかなかできていないことを最初に設定し、それを実現させることが目標です。ゴールを設定して現状とゴールを理解したら、その距離、ギャップはどれくらいあるのかを自分で推しはかります。自分だけでは抽象的になることも、コーチの伴走があることで自ら言語化し、自覚できるのです。

 

たとえば、定期テストで5教科合計400点取りたい。前回のテスト勉強では350点だとすると、50点がギャップです。平均してならすと1教科10点高めないといけない。その10点を高めるためには次のテストまでどれくらいの期間があって、どれくらい勉強すればよさそうなのか。コーチは問いを投げかける役です。うまくいくかはわからないけれど、子どもが自分で仮説を設定してみます。

 

この、「自分で設定」が大事なんです。やらされている勉強はやる気がしないこともありますが、自分で決めると、実現しやすいですよね。

コーチングは自分に自信を持つためのスキーム

――なるほど、自主的に自分のやりたいことをプランしてDOするわけですね。

長澤:そうです。仮説を設定したらアクションプランを作り、実際にやってみて、1週間後どうだったのかを聞きます。うまくいったときもいかなかったときも、コーチと一緒に言語化します。これがたまっていくと、その子のうまくいくときの共通項と、うまくいかなかったときの共通項が見えてきます。すると、「自分はここが弱いんだな」「こうすれば克服できるんだな」と、自ら解決策が見出せます。

 

こうしたプロセスは唯一の絶対解があるわけではありません。ひとりひとりパーソナリティが違いますからね。むしろ、それぞれの個性を大事にして取り組むのです。僕が始めた事業は、子どもたちにこうしたコーチングをし、勉強そのものではなく、「課題に前向きに取り組める力」を養っていくのです。マンツーマンで行う、「課題伴走のコーチング」ともいえます。

 

「最短最速の効果」を求めすぎず自らモチベーションを高めてもらう

――なるほど。その子らしさや強みに焦点をあててコーチングすれば、自信が持て、勉強にも主体的に取り組めそうですね。

 

長澤:今、僕は国際経営学を学ぶために、アメリカ・シアトルのワシントン大学に留学中なのですが、日本では東京学芸大学大学院に在学しています(現在休学中)。大学院では教育AIプログラムの一期生で、AIを取り入れた教育を学んでいましたが、疑問がわいてしまって。AIは絶対解があるときには有効ですが、人間は多種多様です。人を教育することって、テクノロジーでは補いきれない部分があるんじゃないか、と。コーチという「人」がテクノロジーが届かない役割を担うことの意義を強く感じ始めたんですね。学習の悩みなども、なかなか人には打ち明けられないものですが、関係性を築き、信頼感がある人には打ち明けられますよね。

 

――とてもよい取り組みですね。でも、日本ではまだまだ浸透していないのでは。

長澤:そうなんです。一部の保護者の方から、このサービスについて「どんな力がつくのか、費用対効果はどれくらいなのか、はっきりしてほしい」と、言われることがあります。日本の教育社会は全体的に効率重視。「最短最速でこれをやってこれを身につけたい」というようなニーズが高いです。お考えもわかるし、保護者の立場ならそれは一つの安心材料になるなと理解するのですが、その子がどうモチベーションを上げるのかを時間でははかれません。できればじっくり取り組んでほしいですね。

 

ただ、子どもへのコーチングは、今後大きな流れになると思います。まだ小さな事業ではありますが、ビッグウエイブが来るというかなり確信的な予感があります。その波が来たときにしっかり乗れるためにも、会社を存続させ、コーチングの事業を少しでも広げていきたいんです。僕がアメリカに留学し国際経営学を学ぶのも、この目的につながります。

 

両親は教員。教え子が遊びに来る家庭で育ち教育を専門職に

――長澤さんはご両親が教員でいらっしゃるそうですね。ご両親から影響を受けたことはありますか? また、なぜ長澤さんが目指すのは教員ではなく「コーチ」なのでしょうか。

長澤:実家は北海道函館市で、都会ではないこともあるのか、両親の教え子が大きくなってからもしょちゅう家に来ていて、そのおにいちゃん、おねえちゃんにかわいがってもらっていました。母は養護教員で、子育てを考えて帰宅は45時、ゆるやかに働いていました。父は現職の教員をしながら博士課程まで進んで、教育心理学を突き詰めていました。その両親の働き方や、教え子とのリレーションがとても魅力的で、自分も教員になろうと思って北海道教育大学の教職課程に進んだのですが……。

 

日本の教育はすばらしい部分はあるけれど、子どもたちが学びに対してワクワクしているかな、自ら生み出した問いを探求学習で深めているかな、というと、現時点ではそこまでではないような気がしました。教育実習の中そうしたモヤモヤがあって、でもまだまだ不勉強だったのでそのモヤモヤをどうやって解消していくのかの術がみつかりませんでした。

 

そんな中、大学4年のときに出会ったのがコーチングの概念だったのです。子どもたち自身から出てくるものを引き出すという理念に触れて、確証はないけれど、これこそモヤモヤの解決になるのでは、と思ったんですね。両親も僕のそんな行動を黙って認めてくれていました。

クラウドファンディングで支援してもらい、世界9カ国を視察 

長澤:とにかくコーチングを子どもの教育に取り入れているところを見てみたくて、オランダやフィンランドに行きたくなりました。そこで、クラウドファンディングをしたんです。自分が視察したいからという理由のクラウドファンディングに、賛同してくれる人がどれほどいるのかと思っていたら、はじめてなのに30万円の設定を3日で達成して、最終的に70万円くらいご支援をいただけたんです。自分でやっておきながら不思議な感覚になりました()。総額で450万円の後支援をいただき、おかげさまで9カ国の教育を診てきて、そのスキームをどう実現できるか、今の事業に重ねているところです。

 

コーチが子どもと接することでコーチ自身も成長する

 ――ではそのスキームのお話をお伺いしますが、お子さんへのコーチングの方法とか料金を教えてください。

 月額18000140分のセッションで毎週1回ずつ行います。ひとりのお子さんには毎回同じコーチが伴走し、信頼を築いていきます。コーチは主に大学生ですが、コーチをしているうちに社会人になる学生も増えてきて、今はそうした若い社会人もコーチとして活躍しています。

実は、コーチは子どもたちをサポートする立場ですが、その仕事の中で、コーチも成長するんです。どうやったらその子のモチベーションを上げられるか、いきいきとさせてあげられるか。それを考えるコーチもまた自分の人生にもがいているのです。子どもに伴走することで自分のもがきの根源を考え、目標設定をして実践することが、自分自身への挑戦にもなっていくのです。ネガティブな不安とポジティブな期待とが混じり合う中、日々挑戦しているコーチが子どもとふれあう化学反応もまた、面白いと思っています。そこの部分を広げていくと、コーチ側のキャリア教育としても意味のある事業になるんじゃないかな、と思っています。

 

――40分×4回で18000円、子どもを持つパパママからみると、高いような……、でも専属のコーチがついて毎週来てくれるなら安い気もしますね。

 

長澤:もともとコーチングはアメリカで始まり、日本だと経営者や弁護士、医師、大学教授のようなエグゼクティブが利用することが多く、本来高価なのです。だから、子ども向けのサービスは多くないのですが、あえて我々はギリギリまで価格を下げてお子さんに受けていただいて、前向きに夢に向かっていける子たちを育んでいきたいと考えています。未来を築く子どもにこそ、前向きになってほしい。今はまだ浸透していませんが、必ず大きな波が来ると予感しています。僕はコーチングの技術を磨きながらも、この事業を続け、ビッグウエーブがきたときに波に乗せたい。そのためのアメリカ留学です。利益は法人向けコーチング・サービスで得ています。

 

グローバル社会で生きていく子どもたちに自信をつけてあげたい

――いずれにせよ、子どもたちが適切なコーチングを受けて、自信を持っていきいきと世界で活躍するきっかけになりそうですね。

 

日本人は能力が高いです。けれども、自分自身を過小評価しているように見えます。これは教育だけを切り取っていえることではなくて歴史や文化の背景もあると思います。でも、子どもたちが成長する頃には、もっとグローバルに生きていく時代になります。そのときに、しっかり自分を正当にアピールしていく力は絶対必要です。

 

先人が作った平和の安心感に満たされすぎていて、ハングリーさ欠けている、我々から下の若手は「そういう世代」と言われますが、自分がアメリカに来て厳しい中にいると、「世代」でひとくくりにして解決する問題ではないな、と痛感します。そこはコーチング・サービスで「自分はこういう性格だからこうなってしまうんだ……」と決めつけるのではなくて「こうなりたいから成長していけるんだ!」というマインドセットになっていけるといいですね。グローバルで活躍するお子さんたちの世代を、僕はコーチングで応援したいと思っています。

 

お話を伺ったのは

長澤瑞木(ながさわ・みずき)さん|Candle代表

1995年北海道生まれ。北海道教育大学札幌校教育学部卒業。東京学芸大学大学院 教育AI研究プログラムに在学、現在は休学してアメリカ・シアトルにあるワシントン大学で国際経営学を学ぶために留学中。5度のクラウドファンディングで約450万円の支援を集め、欧米・アフリカを中心に9か国の海外教育視察を実施。日本の教育現場におけるコーチングの必要性を感じ、20206月子ども向けのオンラインコーチングサービスCandleを立ち上げる。次いで11月に保護者や教育者がコーチングの方法や理論を学べるEdu Coaching Labを設立した。2021年3月に情報経営イノベーション大学にて客員教授に就任。

 取材・文/三輪 泉

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