キャッシュレス化で子どもたちの金銭感覚が変わった?実際にあった小学生のお金トラブルとマネー教育の具体例

キャッシュレス化が進み、お札や小銭を使う機会が減ってきていますよね。そんな中、小学校の教員として小学生と関わってきた筆者は、子どもたちの金銭感覚が変わってきているように感じています。小学生によくあるお金トラブル・お子さんに合った金融教育についてご紹介します。

小学校の元教員が「子どもたちの金銭感覚が変わった⁉」と感じたとき

筆者が、「小学生の金銭感覚、昔と変わってきているな」と感じたのは、教員時代、ある授業をしたときでした。私はどの学年を担任したときでも、1月前半に、お金の使い方に関する授業を行っていました。
お正月にお年玉をもらった子どもたちが、最もお金に関心を持つ時期だと感じていたからです。

子どもたちがお金を扱う経験が減っている

例えば、低学年の授業では、子どもたちに身近な品物を例に挙げながら、お金や買い物について考えます。
「自分の持っている金額で買える品物かどうか、値段を確かめる」
「欲しいものと必要なものは違うことがある」
「買ったのにほとんど使わないなんて、もったいないことだから、よく考えてから買う」などのテーマで、子どもたちに合った内容にフォーカスします。

しかし5年ほど前から、どうも子どもたちにしっくりこないようなのです。
15年ほど前なら「ゲームが欲しい!」「貯金してるんだよね」など、話が盛り上がって脱線するほどだったのですが、最近の小学校低学年の子どもたちにお金や買い物の話をしても、あまりリアクションがありません。子どもたちのお金事情をよくよく聞いてみると、お金を扱った経験が大きく減っているようでした。筆者が担任した、小学1、2年生の様子をご紹介します。

小学2年生に「自分で買い物(支払い)をしたことがあるか」と質問したところ、15年ほど前は8割程度の子どもたちが手を挙げました。しかし2~3年前は、半分の子が「親と買い物に行ったことはあるけど、自分で支払いをしたことがない」と答えました。

また、小学1年生に「本物のお金を触ったことがあるか」と質問したところ、15年ほど前は「当たり前じゃん!」と言う声がほとんどでした(お金を触ったことがない子はクラスに一人くらい)。
しかし、2~3年前では、クラス30人の中で4〜5人の子はお金を触ったことがないというのです。

自分でお金を使った経験は少ないけれど、目に見えないお金であるキャッシュレスを扱うことは増えてきている現代。お子さんはどんな金銭感覚を持っているでしょうか。

友だちが絡んだお金トラブル

小学生同士のお金トラブルで最も多いのが、友だちにおごるトラブルです。まだお金の価値を十分に理解していない子の場合、折り紙を1枚あげる、あめ玉を1つあげるのと同じような感覚で、“買ったお菓子をあげる”“100円玉をあげる”ということもあります。

また、学年が上がると、本人たちにその気はなくても、“ゆすり”や“お金の絡んだいじめ”とも見受けられるようなトラブルも出てくることがあります。そんなリアルなお金トラブルについて、筆者が小学校で先生をしていたときに対応した事例を3つご紹介します。

「欲しい」と言われたからあげちゃった!

 小学校1年生の女の子3人組。普段から仲良しで、学校から帰った後は、よく近所の公園や児童館で遊んでいました。いつもは、家からクッキー・チョコなどのお菓子を持ち寄って交換したり、シェアしたりしていました。しかし、3人のうちの1人のおうちが“おこづかい制”になり、公園で遊ぶときにお金を持ってくるようになりました。すると…。

Aちゃん:「わたし、今日はおこづかい持ってきた!」

Bちゃん:「わたしはグミとポテトチップス持ってきたよ。」

Cちゃん:「いいなあ。わたしは家にアメしかなかったよ。わたしもおこづかい欲しいなあ。」

Aちゃん:「アメしかなかったの? じゃあわたしの100円あげるよ。」

このように、お菓子を交換する感覚で、お金をあげてしまっていたのです。「あげたはずのおこづかいが、どうも減っているな…」と不思議に感じたママが、お子さんに尋ねてみたところ、何のためらいもなく「Cちゃんにあげたよ!」と話してくれたとのこと。困っている友達をの力になりたい、という想いだったようですが、気軽にお金をあげてしまうのは、困ったものですよね。 

高価なものをおごってしまった

こちらは、3年生の男の子にあった事例です。1月後半のある日、Dくんのママから学校に連絡がありました。

Dくんのママは家であるものを見つけました。それは、買い与えたことのない新作のゲームソフト! どうしてうちにこのゲームソフトがあるの?と不思議に思ったママは、学校から帰ってきたDくんに話を聞きました。するとDくんは、「新しいゲームの話で盛り上がって、『欲しいよねー』と話していたら、次の日にEくんが買ってくれた」と言うのです。「そんなことあるの⁉ 本当なら、お代をお返ししなくちゃ」と感じたママは、Eくんのご家庭に連絡しようと思ったのですが連絡先が分からず、「Eくんの家の連絡先を教えてほしい」と学校に連絡してきたのです。

ご家庭同士でのやりとりを、後日うかがってみたところ、Eくんがゲームを買ってあげたのは本当のことでした。お正月に親戚からお年玉をたくさんもらって、Eくん自身はすでに新しいゲームソフトやおもちゃを買い、気持ちが満たされていたとのこと。そんな時に友達が「新しいゲーム欲しい」と言っていたのを聞き、「お年玉、まだ余ってるから買ってあげよう!そうしたらいっしょにゲームができるから、ぼくも楽しい!」と思い買ってあげたんだそうです。Eくんのママは、「お金の管理を本人に任せていましたが、まだ親の見守りや確認が必要なんですね」と話していました。

「何度かおごってくれたから、今日も買ってくれると思った」

日々の遊びの中で、 「友達におごる」ことが何度か続くと、「買ってくれるとうれしいな」という期待がエスカレートしていくことがあります。

「○○くん、今日もお菓子買ってくれないかな」

「ねえねえ、今日はいくらまで買ってくれるの?」

「なんでお金持ってきてないわけ?うちらのおやつ買えないじゃん!」

ここまでくると、“ゆすり・たかり”“お金の絡んだいじめ”とも思われるレベルですよね。
こうなる前に、お金の使い方について、ご家庭で教えておきたいものです。

ICカード・ゲーム・ネットで知らないうちに、こんなに使っていた!

実際の“お金”が減っていく様子が見えないだけに、“お金を使っている”という実感をもちにくいのが「ICカード・ゲーム・ネット」です。そんな現代っ子ならではのお金トラブルを3つご紹介します。


日常的にICカードを使っているお子さんは注意!

電車やバスで学校・習い事に行くお子さんには、交通系ICカードを持たせているというご家庭も多いですよね。実は最近、そのICカードで、親の知らないうちにたくさん買い物をしていたというトラブルが増えてきています。ここ数年キャッシュレス化が急激に進み、コンビニやスーパーをはじめ、ICカードでお会計ができるお店が増えてきました。そこで、ICカードを持っているお子さんが、気軽に買い物できることに気づき、どんどん使ってしまうケースがあるのです。

特に注意してほしいのは、ICカードの残額が少なくなると自動でクレジットカードからチャージされる“オートチャージ”を利用している場合です。お子さん自身が「残額が減ってきて心配」という感覚をもちにくく、「どんどん買えてラッキー!」と感じてしまう場合もあるようです。オートチャージには限度額が設定されていることもありますが、その額は決して子どもが気軽に使うような金額ではないことも! 翌月に請求額を見てびっくりしたママパパもいたようです。

 

親の知らぬ間に、ゲームソフトをダウンロードしていた!

特に、小学校中学年以降で所持率の高い、ゲーム機。一人でプレイするだけではなく、オンラインでフレンドとつながることができるのも、子どもたちが楽しめるポイントの1つになっています。今の子どもたちは、そもそも習い事などで忙しくて友達と遊べる時間が少なく、コロナ禍では集まって遊ぶことが難しかった時期がありました。そんな中、オンライン上で友だちと遊べるというのは、新しいコミュニケーションツールとして子どもたちに浸透してきました。

お子さんにゲーム機を与える場合、多くの保護者は“子どもが安全に使うための設定”をしています。使用制限のレベルや使用時間を親が設定できるのです。ソフトをダウンロードする際にも、親がパスワードを入力しなければならないように設定していることが多いようです。しかし、子どもがパスワードを覚えてしまい、親の知らぬ間に何本もソフトをダウンロードしてしまったという事例がありました。クレジットカードも紐づけていたので、親が確認せずとも子どもだけでダウンロードできてしまったようです。

パスワードを入力するとき、後ろからこっそりお子さんがのぞいているなんてこと、ありませんか?

 ネットゲームでの課金額がとんでもない!

こちらは、お子さんにスマホを持たせているママパパに多いお悩みです。ネットゲームの中には無料ダウンロードできるものがたくさんありますよね。ただ、プレイしていくうちにレベルが上がり、「勝つためのアイテムが欲しい」「ガチャがなかなか当たらない」など課金してプレイしたくなることがあります。

1回の課金額は100円~200円程度とお手頃ですが、ゲームをしていると「もっと欲しい!」「もっとやらなきゃ!」という気持ちになってしまい、たくさん課金してしまうのです。

まとまった請求額が「こんなに!?」と思うような金額になっていることもあるようですので、お子さんにスマホを持たせる際には気を付けてくださいね。

子どものマネー教育、家庭でできる実践例は

こんなにトラブルがあるなら、いっそ全く使わせない方がいいのかも…と思う方もいるかもしれませんよね。しかし、いずれ自立して社会に出ていくことを考えると、適切にお金を管理して、適切にお金を使えるように子どものころから練習させていくことが大切だと感じます。お子さんの年齢や状況、ご家庭の考え方に合わせて、「我が家の金銭教育」を作っていきましょう。


お家でお買い物ごっこをしよう

お金やお買い物に興味があるお子さんなら、親子でお買い物ごっこをするのがおすすめです。厚紙で「10円玉」「50円玉」などを作り、おままごとセットの食べ物に「10円」「50円」などと値段をつければ、お買い物ごっこができます。無料のダウンロード素材でもお金シートがありますし、100円ショップでもお金セットのおもちゃが売られていますので、活用できますよ。

「いらっしゃいませ」「何円です」「ありがとうございました」という店員さんのやりとりも、お子さんが楽しめるポイントです。店員さんとお客さんの役割を交代しながら、やってみましょう。慣れてきたら、文房具屋さん・本屋さん・お洋服屋さんなど品物の幅を広げ、品物の値段を変えるのも楽しいですよ。

親と一緒に“お金を使う”体験をさせる

お買い物ごっこに慣れてきたお子さんなら、まず“お金を使う”ことを体験してみましょう。普段のお買い物の中で、物を買う対価としてお金を支払うことを体験します。例えば、コンビニで飲み物を買う、商店街で果物を買うなど、お子さんに身近なものを買う場面がおすすめです。はじめは、品物1つだけ、100円など小銭1つだけで支払えるものだと挑戦しやすいですね。

お子さんがレジに品物を出してお金を払うと考えると、大人よりも時間がかかります。レジに行列のある時間帯は避け、ゆったりと対応してもらえそうな場面でチャレンジしてみましょう。

小さいうちはお金そのものが見える状態で

小学校の1,2年生ごろは、自分の目で見えるもの、触れることのできるものについて考えられる段階と言われています。小学校の算数でも、算数ブロックなどを使って実際に動かしながら足し算引き算の学習を進めます。

逆に言うと、見えないもの・体験したことのないものをイメージして理解するにはまだ難しい場合があるということ。

ですから、小学校1,2年生ごろは、キャッシュレスではなく、実際のお金を扱うことがおすすめです。使えば減っていくということが目で見てわかります。ただ、紙幣で支払った場合、おつりの貨幣の枚数の方が多くなり「増えた!」と勘違いするお子さんもいます。このように重さや枚数のみで判断している段階でしたら、お金を使う際に親の同伴であった方が良いでしょう。

使いすぎた場合は、自分で責任をとらせる

小学校高学年やそれ以上になると、スマホやゲーム機などをお子さんのものとして持たせることが増えてきますよね。その中で、課金やダウンロードでお金を使いすぎてしまった場合には、「自分のお金から支払わせる」経験をさせるのがおすすめです。課金やダウンロードだと、お金そのものは見えないけれど支払いが行われています。自分が使ってしまった分の料金が、実際に自分のお小遣いや貯金から減ってはじめて「たくさん使ってしまった!」と感じられることもあるでしょう。

スマホやゲーム機などを自分で持つということは、それくらいの責任が伴うものである、良く考えて使うことが重要であるという実感を持たせられるようにしたいですね。

お子さんの金銭感覚を観察しよう

小学生のお金事情を中心にご紹介しましたが、金銭感覚はお子さんによって様々です。お子さんの年齢だけで判断せず、どんなことが分かっていて、どんな感覚を持っているのか、お子さんをじっくり観察してみてくださいね。どんな金融教育からスタートするべきなのか、それから考えてみましょう。

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構成・文/yurinako 

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