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「なんとなく」塾を決めていませんか?
一口に塾といっても、大手の進学塾から地元の個別指導塾までたくさんあり、それぞれに特徴があります。皆さんは中学受験塾をどんなふうに決めたらいいと思いますか? 頭によぎるのは「上を目指したいからうちは絶対大手」「過酷な競争よりもきめ細かく見てもらいたいから個別にしようかな」。大体そんなところではないでしょうか。
これまでたくさんの転塾者を受け入れてきた亀山先生によると、
「今の塾がどうも合わないと悩んでいる親御さんには、入塾を決める際‶とりあえずよさそうだ〟とあまり深く考えないで子どもを入れてしまったというケースがとても多いです」
と指摘します。
塾選びが難しい原因は塾の多さと近隣のうわさ
塾選びが「なんとなく」になる原因の一つが塾の多さです。
広告やメディアに登場するような大手塾は、難関校合格者数も多いので、「とりあえずここに入れれば、ウチの子も難関校に合格できるのでは」と思いたくなります。また、個別指導塾は全国展開している大手から地元の小規模なところまでたくさんありすぎて、なかなか比較検討するのは難しいでしょう。
また、塾情報のアンテナを立てると、どうしても近隣のうわさが耳に入ってきます。「知り合いの子どもがあの塾に通っていて最難関校に進学したらしい」「ママ友情報によると、今はこの塾がいいらしい」、挙句の果てには子どもに「〇〇塾に仲のいい友達が通ってるから私も行きたい」と言われ、「そこで子どもが積極的に勉強するならいいのでは」と思ってしまいます。
忙しい毎日のなかで、正直なところ「塾選びにそんなに時間をかけられない」というのも、親の本音でしょう。
合わない塾に通い続けるのは親子ともに酷なこと
そんなふうに「あまり考えずに」子どもを入れてしまったとき、どんなことが起こるのでしょう。
最大の悩みとしてよくあるのが「思うように学力が伸びない」こと。「実績がある塾に入れたはずなのにうちの子はいつもこんな点」と親も子も自己肯定感が下がってしまうパターン。そして宿題に追いつけずに親子喧嘩が絶えなくなるパターン。これもあるあるですね。受験勉強をする間、誰もがはじめは「子どものために一緒に伴走しよう」「親子で成長できれば」と思っているのに、実際は険悪で「もうやめたい」と思うようになってしまいます。そこではじめて「塾を間違ったんだろうか」と思うわけです。
最大限子どもの学力を伸ばす塾、何でも相談できる塾をさがそう
それまでの親子関係を変えてしまうほどの影響力がある塾選び。「子どもの学力を最大限伸ばしてくれる塾」「何でも相談できる塾」はどのように選べばよいのでしょうか。子どもや塾を信じて前に進むことができる受験生活にできたら、きっと終わったあともそう快感に包まれるのではないでしょうか。受験後に新たなスタートを気持ちよく進むためにも、正しい塾選びを知っておきましょう。
首都圏の中学受験塾は大きく3タイプに分けられる
まずはじめに「どんな塾があるのか」業界全体を俯瞰してみましょう。中学受験の塾には進学塾と補習塾があり、一つの塾に両方のクラスがあるところもありますが、今回は主に進学塾について考えます。
首都圏の中学受験塾を「①首都圏の大手、準大手塾」「②ローカル大手」「③個別指導塾」の3種類にざっくりと分類してみました。早速見てみましょう。
①首都圏の大手、準大手塾
【特徴】
●集団指導。
●年間カリキュラムにのっとった授業形式。
●都内に教室が多い。
●宿題や日々の課題を含め総学習量が多め。
●学年が上がるにつれて土、日曜日にもテストや補講があるところが多い。
【主な塾の例】
サピックス、日能研、四ッ谷大塚、早稲田アカデミー、栄光ゼミナール、enaなど
②ローカル大手
【特徴】
●主に集団指導。
●神奈川・千葉・埼玉・関西などに本部があり、教室も多い。
●「IT教材が充実」「特定校に強い」など特徴のあるところ、中学受験だけでなく補習にも力を入れているところも。
●カリキュラムや総学習量については、塾によって違う。
【主な塾の例】
臨海セミナー、湘南ゼミナール、スクール21、市進学院、希学園、駿台浜学園、啓明館など
③個別指導塾
【特徴】
●マンツーマンまたは1対2で授業。
●生徒の理解度に合わせた内容、スケジュールを組める。
●授業数は大手・準大手より少なめだが、かける費用にもよる。
以下は全国展開している大きな個別指導塾。地元密着型の個別指導塾も多い。
【主な塾の例】
東京個別指導院、明光義塾、スクールIE、TOMAS、トライプラス、城南コベッツ、早稲田アカデミー個別進学館など
集団と個別のどちらがいいか、子どものタイプを考えよう
「大手塾」「準大手塾」は、私立難関中学、都立中高一貫校といった偏差値の高い中学を志望する子どもたちが多く集まる傾向があり、「ローカル大手塾」は地域難関校、もしくは偏差値的にはそこまでは高くない私立中学を考える子どもたちも多いのが大まかな特徴です。この2タイプは、教室に大勢の子どもたちが集まって先生が教える一斉授業型の「集団指導塾」です。
それと対極にあるのが、塾で先生にマンツーマン(または1対2)で教えてもらう「個別指導塾」です。
子どもの性格をよく考えて
集団指導か個別指導かについては、親が決めつけずに「子どもの性格」も考慮すると良いと亀山先生はアドバイスします。
例えば、集団指導塾は「大勢の仲間のなかで切磋琢磨するほうが頑張れる子」や、「友だちと励まし合って勉強するのが楽しいと感じられる子」には向いています。
一方、個別指導塾は「みんなの前で手を挙げるのは恥ずかしい」「競争することが精神的な負担になる」ようなマイペースなタイプの子どもにはお勧めです。「?」と思う間に授業が勝手に進んでしまうこともなく、子どもに合わせたカリキュラムで質問にもその場で答えてくれます。先生との相性など必ずしもぴったり行くとは限りませんが、人数の多い集団塾よりは子どもをきめ細かく把握していることが多く、さまざまな悩みを相談しやすい環境ともいえます。
塾の「方針やカリキュラム」と「勉強の総量」の確認は必須
忙しくても塾の説明会は聞いた方がいい
子どもの性格に合うかどうかを考えるとき、それぞれの塾の特徴をよくチェックする必要があります。いったいどんな点を確認して検討するといいのでしょうか。
「その塾がどんな方針、カリキュラムで指導をしているかという全体像を確認することは何よりも大事です。‶2つか3つの塾を検討しよう〟と思っているのなら、最低でもその倍、4~6つのタイプの違う塾を実際に見て比較検討してほしいです。説明会に足を運び、教室の雰囲気や資料、塾の責任者の話を聞いてみてほしいのです」と亀山先生はアドバイスします。
予習型なのか復習型なのか、塾によって考え方が違う
例えば、大手塾のなかには「テキストで予習してくることが大前提」のところ、「予習は不要。毎回初めての内容のプリントが配布され、宿題で復習をする」など特徴があります。
前者なら失敗しないように前もってコツコツ準備できるタイプの子、後者なら未知の世界も旺盛な好奇心で楽しめるチャレンジャータイプの子が塾の方針とマッチする可能性が高いでしょう。
競争心をあおる塾なのか、仲間とがんばる空気感で進めるのか
また、テスト毎に成績順で席が決まるという大手塾もあります。それが良い刺激となって頑張れる子もいれば、そうやって決められることが辛いと感じる子どももいます。仲間と頑張れるような空気を意識してつくる塾もあります。塾の学習の進め方が子どもの性格と合っているかは入塾前の必須の検討要素です。これらは説明会で説明されるとは限らないので、終わってから先生に質問をするといいと思います。
日々の宿題量、学年ごとの通塾頻度なども聞いておくと安心
もう一つは「受験勉強の総学習量」を把握しておくことも大切なチェック項目です。
「宿題の量は子どもにとって大きな負担になります。子どもがこなせそうな宿題量なのかどうかは、やってみないと分からない部分ですが、目安として、学校の宿題と合わせてやれるかどうか、親から見て多いか少ないか、を確認しておくといいですね。とくに大手塾は宿題も多いですし、土日もテストや補講があるところが多い。習い事や家族の行事も我慢しなくてはいけないことも出てきます。入塾してから‶こんなにやらなきゃいけないの? このままだと子どもが潰されちゃう〟と転塾を考える親御さんは少なくありませんが、事前に学習量、通塾スケジュールを見ておくのと、全く把握していないのとではだいぶ違うように思います」と亀山先生。
学習や進路の相談の仕方も塾によって違う
ほかにも「教科ごとに先生がいるため学習内容の相談は教科ごとになってしまわないか」「4教科を俯瞰して相談に乗ってくれる先生がいるかいないか」とか、「学校選びなど学習以外の悩みは誰に相談できるのか」といったところもぜひ確認しておきたいところです。
入塾説明会ではざっくりとした流れが中心なので、あとで「誰に相談したらいいのかわからない」「相談に乗ってもらえない」という悩みが大きくならないよう、気になるようでしたら個別に相談されるといいと思います。そういうことを質問した時の塾の対応も参考になりますよ。
地元の個人指導塾は「塾長」を見て
小規模の個人塾は子どもの雰囲気に合うかどうかが見えやすく、きめ細かく4教科全体を見てくれる利点があります。ただ、なかなか情報を得るのが難しい地元の小規模の個人指導塾。その場合は「ぜひ塾長を見てほしい」と亀山先生は言います。
「ホームページに名前や顔が出ていることはもちろんですが、塾の方針、つまり塾長が子どもたちをどのように導いていくか、人柄はどうか、中学受験の知識や意見が豊富かどうかを確認してください。生徒の数に関係なく、どんな質問しても滞りなく答えたり提案したりしてくれる塾長であれば、その塾は信用できると思います」
塾選びでいちばん大事なのは体験授業
入塾説明会に参加して親がある程度目星をつけるのはいいのですが、「子どもに体験授業を必ず受けさせてほしい」と亀山先生はアドバイスします。
「どんなに親が気に入り、口コミや評判がよくても、子どもに体験授業をさせずに入塾させるのは無謀です。子どもと塾の相性は非常に大事。子どもはちょっとでもイヤな印象を持っていると、それを引きずってモチベーションがなかなか上がらないということが多々あります。自分が本心で〝ここなら頑張れそうだ!〟と思えるところが、その子にあった塾だと考えるほうが成功しますね」
塾の体験後は子どもに感想や手ごたえを聞こう
体験授業のあと、子どもに「なんとなく雰囲気がイヤだ」「なんか先生が変だった」などと言われると、親としてはカチンとくるかもしれませんが、それでも子どもが受けた印象を尊重するほうが最終的にはうまくいくことが多いようです。
「子どもがいかにご機嫌に勉強ができるか。塾選びはここに尽きます。言うまでもなく、塾に〝行けば〟子どもの成績が伸びるのではなく、塾が楽しくて家でも自主的に勉強するから伸びるのです。親の〝行かせたい〟より子どもの〝行きたい〟を優先させることが、学力が上がる塾選びの一番のポイントですね」と亀山先生は強調します。
転塾を考える前に確認しておきたいこと
亀山先生によると、転塾を考えたくなるタイミングとして「早い子では4年生の春に入塾して9月には転塾を考えるケースがある」そう。もちろん転塾して「心機一転、新しい塾で頑張る」ことは建設的な方法かもしれませんが、亀山先生は「安易に転塾を考えるのはちょっと待って」と釘を刺します。
「子どもの成績が下降、または停滞し続けていると、親は〝この塾ではダメかも〟と思いたくなるかもしれません。しかし子どもがニコニコしていて、塾にも楽しく行っていれば転塾の必要はありません。塾であった出来事を家で親に話す子も大丈夫です。結果はいずれついてくると信じて、子どもが気分よく勉強できるようサポートしてあげてください」
子どもが塾に行きたくないと言い出したら、まずは子どもの表情をよく見て、それが一時的なものなのか、根深いものなのか様子を見極めましょう。「それができるのは親しかいません。もし本当に塾とのミスマッチということであれば、そのときは転塾を考えてもいいのではないでしょうか」