アンデルセン童話『おやゆびひめ』はなぜ怖いと言われるの? あらすじや教訓、登場人物を解説

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多くの子どもがきっと一度は読んだことがある『おやゆびひめ』のお話。今回は『おやゆびひめ』のあらすじや教訓、登場人物、「怖い」といわれる理由からおすすめ書籍までをご紹介していきます。

『おやゆびひめ』ってどんなお話?

まずは、『おやゆびひめ』がいつどこで誰によって書かれた物語なのか、その背景を押さえておきましょう。

『おやゆびひめ』はアンデルセン童話

『おやゆびひめ(原題:Tommelise)』は、1835年に、デンマークのハンス・クリスチャン・アンデルセンによって発表された作品です。アンデルセン童話集収録作のひとつとして世に出されました。

作者のアンデルセンってどんな人?

ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805~1875年)は、デンマークを代表する作家。子どもの頃から空想力が豊かで、お話好きだったとされています。元々は舞台俳優を目指していましたが、その夢は挫折し、代わりに戯曲や詩集が評価されていきました。

アンデルセンの肖像(1869年)Thora Hallager – museum.odense.dk, Wikimedia Commons(PD)

数々の挫折や父親の死など、辛い経験も多かったため、貧しさや苦労が童話の中に表現されたと考えられています。

グリム童話のような民俗説話からの影響はあまりなく、創作童話が多いこともアンデルセン童話の特徴です。

『おやゆびひめ』のあらすじと教訓

ここからは『おやゆびひめ』のあらすじと、本作から読み取れる教訓を見ていきましょう。「詳しいバージョン」と「簡単なバージョン」の2種類にまとめました。

詳しいあらすじ

むかしむかし、ある女の人が「子どもがほしい」と魔法使いにお願いしたところ、大麦の粒をもらいました。そこから芽生えたチューリップの花の中には、親指ほどの大きさしかない女の子が座っていて、この子は次第に「おやゆびひめ」と呼ばれるようになりました。

平和に暮らしていたある日、おやゆびひめはヒキガエルに誘拐されてしまいます。可愛らしいおやゆびひめを息子のお嫁さんにしようとしたのです。

魚たちの助けによってどうにか逃げ出したおやゆびひめですが、ふたたび、その美しさに引き寄せられたコガネムシにさらわれて、今度は置き去りにされてしまいました。

おやゆびひめは、夏の間はひとりで生き延びることができましたが、秋になるとそれが難しくなります。そして行き着いた先は、野ネズミの家でした。隣の家のモグラの巣穴で、死にかけたツバメを介抱しながら過ごしていたおやゆびひめですが、今度は裕福なモグラと結婚させられそうになってしまいます。

「もう陽の光を見ることができない」とモグラとの結婚を嘆くおやゆびひめ。しかし、結婚式の日、ツバメがおやゆびひめを助け出してくれたため、おやゆびひめは遠くの花の国へと逃げ出します。さらに、おやゆびひめは、そこで花の国の王子と出会い、結婚することにしました。

おやゆびひめのことが大好きだったツバメは、おやゆびひめとの別れを悲しがりながらも、今度は遠いデンマークへと旅立ちました。ツバメはお話がうまいおじさんの家のそばでおやゆびひめの話を歌っていたので、この話はひろく広まりました。

あらすじを簡単にまとめると…

チューリップの花から生まれた、親指ほどの大きさのおやゆびひめは、ある日、ヒキガエルにさらわれてしまいます。その後も、逃げてはコガネムシに誘拐されたり、モグラと結婚させられたりしそうになったり……。ついにモグラとの結婚式の当日、おやゆびひめを助けてくれたのは、おやゆびひめが介抱したツバメでした。ツバメに連れられ花の国へ行き、おやゆびひめは、花の国の王子様と結婚しました。

教訓

本作からは、「目先の損得よりも、自分が心から求めるものを選ぶことの大切さ」のような教訓が読み取れるのではないでしょうか。

さまざまな試練を越えた終盤、おやゆびひめは今度は裕福なモグラと結婚させられそうになります。裕福なモグラと結婚すれば、もう何者かにさらわれることも、厳しい環境に放たれる心配もありません。けれども、もう陽の光が見られないことを憂いたおやゆびひめは、ツバメの助けを受け入れて逃げ出しました。そして、そのことによって、その先にあった花の国で王子様と出会うことができたのです。

ほか、なにかと見た目で判断されるシチュエーションが多い本作。「人を見た目で判断することの危うさ」のような教訓も受け取れますね。

主な登場人物

ここでは、主な登場人物を押さえておきましょう。

おやゆびひめ

チューリップの花のなかから生まれた、親指ほどの大きさの女の子。

ヒキガエル

おやゆびひめを息子のお嫁さんにするために誘拐するヒキガエル。

コガネムシ

ヒキガエルから逃れたおやゆびひめを、新たに攫ってしまうコガネムシ。

野ネズミ

おやゆびひめが冬の寒さから逃れるために住み込んだ家の持ち主。

モグラ

野ネズミの隣の家に住む裕福なモグラ。おやゆびひめをお嫁さんにしようとする。

ツバメ

モグラの巣で瀕死状態だったところを、おやゆびひめに介抱してもらったツバメ。

花の国の王子様

ツバメが連れて行ってくれた花の国の王子様。

『おやゆびひめ』が怖い・嫌いと言われるのはなぜ?

『おやゆびひめ』は、時には「怖い」「嫌い」といった感想を持たれることもあるようです。どういった理由から、このように思われてしまうのでしょうか?

ツバメはかわいそう?

『おやゆびひめ』が「嫌い」な理由のなかでも多いのが、「ツバメがかわいそうだから」というもの。

おやゆびひめがモグラと結婚させられそうだったところを救い出したツバメは、おやゆびひめを遠くの国へと連れて行きます。そして、旅先の自分の巣の下の花におやゆびひめを住まわせるのですが、おやゆびひめはそこで出会った王子様と結婚してしまうのです。しかも、渡り鳥のツバメは季節が変われば、また違う土地へと移動するため、その土地で結婚したおやゆびひめとはお別れをしなければなりません。

そのため、多大な貢献をしたにもかかわらず、なんだか報われないツバメの境遇が、人によっては「おやゆびひめに利用された」ように思えてしまうようです。ツバメが「おやゆびひめを大好きだった」という描写もあるからこそ、献身的なツバメが「かわいそう」に思えてしまう場合も。

最も怖いのはおやゆびひめ?

なかには「結局、最も怖いのはおやゆびひめなのでは?」と感じる方も少なくないようです。

可愛らしい見た目で周囲を虜にしてしまうおやゆびひめは、その見た目を理由にさまざまな危機に直面すると同時に、周囲からの助けも得ることができます。そのため、多くの助けを得ながら最終的には幸せを掴むおやゆびひめの様子が、自分の魅力を活かした“あざとい”立ち回りに見えることもあるようです。

これらのことが、「結局おやゆびひめ自身が一番怖い」といわれる所以のひとつと考えられます。

「おやゆびひめ」を読むなら

ここからは、『おやゆびひめ』を読むのにおすすめな書籍をご紹介。読み聞かせに適した絵本と、一人読みに適した書籍をそれぞれ集めてみました。

おやゆびひめ(世界名作おはなし絵本)

おやゆびひめ (世界名作おはなし絵本)

子どもにも読みやすい舟崎克彦さんの文章と、永田萠氏のあたたかい絵が魅力的な一冊。悪役として登場するカエルやほかのキャラクターたちもやさしい絵柄で描かれているので、怖がりな子も安心して読むことができます。

完訳 アンデルセン童話集 1 (小学館ファンタジー文庫)

完訳 アンデルセン童話集 1 (小学館ファンタジー文庫)

アンデルセン童話全156話を翻訳家の高橋健二さんが、原典の趣そのままに完訳したシリーズ。第一巻には、『おやゆびひめ』はもちろん、『人魚ひめ』など、13篇もの名作が収録されています。原作の雰囲気を楽しみたい、小学校中学年以上のお子さんにおすすめです。

教訓もある一方で、ネガティブ意見も多い本作。あなたはどう感じる?

今回は、『おやゆびひめ』のあらすじや書かれた背景、「怖い」といわれる理由、おすすめ書籍を中心にご紹介してきました。「怖い」「嫌い」と言われることも少なくない本作ですが、みなさんはどのように感じられましたか? お子さんとも感想を交換しながら、ぜひ話し合ってみてくださいね。

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文・構成/羽吹理美

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