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人が幸福に生きることを、科学的に検証する「幸福学」
――前野先生は、「幸福学」を研究されているのですね。どんな学問なのですか。
世の中には幸せを感じる人もいるけれど、幸せを感じていない人もいます。どんなにお金をたくさん持っていても偏差値の高い学校や有名名会社に入っても自分は幸せでないと感じている人がとても多いのです。
では、どうしたら幸せになれるのか。そもそも幸せとは何なのか、どうしたら自分の人生に満足できるのか‥。それらを分析し、検証するのが幸福学です。脳の傾向やクセ…、その他さまざまな現代の知見を結集して人が幸福に生きるとはどういうことかを科学的に検証していくのです。
近年、幸福学の研究は進み、世界じゅうから1年間に1000編もの研究論文が発表されるほどです。私の場合は現在、大学院で幸福学の研究をしながら、講演をしたり学校で幸せの授業をするなど、幸せに生きていくための方法をみなさんに伝えています。
すぐ消えるhappinessより持続するwell-beingを目指したい
――「幸福」って抽象的なもののような気がしますし、何を幸せとするかは人それぞれですよね。科学的に定義することってできるのでしょうか。
たしかに、幸せについての価値観は人それぞれです。ただ、幸福学では、ある程度幸せの定義を明確にしています。
おいしい食事をしたときやゲームで高得点を出したときなどに満足感や爽快感を感じたりしますよね。そんなふうに感情的に幸せな状態のことを、英語ではハピネス(happiness)と表現します。こうした「楽しい」「うれしい」という感情は、それほど長く続くものではありません。
それに対してウェルビーイング(well-being)と言う言葉があり、これは身体面と精神面が満たされた広い範囲での幸福、長続きする幸福を示します。ウェルビーイングな状態というのは、気持ちが落ち着いていたりチャレンジ精神にあふれていたり、周りに感謝していたり、だれかと一緒にいる幸せをしみじみと感じているような状態です。
すぐ消えてしまうhappinessよりも、長く続くウェルビーイングを目指すのが幸せの第一歩です。
自分はいま、どれくらい幸せ?幸福度をはかる17のチェック項目
――では、どうしたらウェルビーイングな状態になれるのでしょうか。
まずは、ご自身が今、どの程度幸せを感じているかを、調査によって測ってみましょう。
――ぜひ読者のみなさんとやってみたいです。どんな調査ですか?
幸せに関するアンケートに答えてもらうものです。ここでは簡易的に17問の質問に答えていただき、各項目ごとにあてはまる「感じ」を選んでもらいます。それぞれ1~7点までの点数を□の中につけてみてください。あまり深く考えず、直感的に答えれば大丈夫です。
点数を書き込みましたか? 次に、この表にご自身の点数を書き込んでみましょう。右端は全国平均の点数です。
*この17の項目は㈱はぴテックと一般社団法人ウェルビーイングデザインの共同開発による「幸福度診断 well-beiing Circle」の一部です。フルバージョンの診断は
https://well-being-circle.com/
で無料診断できます。
幸福度は変化する。自分がどう幸福になるか、未来を楽しみにしよう
――結果を見て、どう感じたらいいでしょうか。
日本人の多くは真面目なので、低いところを見て、「ここが自分の悪いところだ、ここを治さなきゃ」と思ってしまいます。実は私もそうなんですよ。この診断を見て、「ここは平均より低いのか」などと思ってしまう。
でもそんなふうに思わなくていいんです。そもそも日本人は謙虚で、欧米人よりもこうしたアンケートでは低い点数が出る傾向にあります。全国平均はあくまで目安。項目を見て、「自分が高めたいと思うところをどう伸ばすか」をポジティブに考えましょう。
また、今はその結果だったとしても、次に同じ診断をしたら、違う結果が出るかもしれません。家族とのケンカの仲直りができている、子どもが学校に慣れて楽しめるようになってきた、など、自分の状況や周囲の人、環境に変化があれば、診断結果は変わります。状況は変わらなくても、ご自身の気持ちの変化があれば、また変わってきます。幸福度の違いや変化も楽しみながら、自分の幸福度を高めていけるといいですね。
この前野先生のお話の「前編」に続く「後編」もぜひ参考に。育て中の保護者の方々が、どうしたらウェルビーイングな状態を保つことができるのか、その具体的なヒントをお伝えします。
お話を伺ったのは
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。同学ウェルビーイングリサーチセンター長。1962年山口県生まれ、広島育ち。84年東京工業大学卒、86年同修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授などを経て現職。著書に『幸せな大人になれますか』(小学館)『「幸福学」が明らかにした幸せな人生を送る子どもの育て方』(講談社)など多数。
取材・文/三輪 泉