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地震ごっこは止めず、見ていて怖がる子はほかの遊びに誘って
震災後、少し時間が経つと「地震ごっこ」を始める子どもの姿が見られるようになります。地震ごっことは、たとえば段ボールで家を作り、その中に入って外から大きく揺らしたり、積み木を崩して地震の場面を再現したりする遊びです。
子どもは、地震ごっこを通して怖かった気持ちを整理しようとしています。そのため止める必要はありません。しかし、地震ごっこを見て怖がる子もいます。怖がる子には「こっちおいで! 何して遊ぶ?」と、その子の好きな遊びに誘ってあげてください。
また地震ごっこを見守っていて、「逃げよう」と避難する展開になるときはいいのですが、ずっと揺らしているだけのときは、「少し休もう」「のど乾かない? こっちでお茶を飲もう」と声をかけ、遊びを中断して気持ちを切り替えてあげてください。
そのとき「ちょっと運動しよう」と言って、親子でストレッチ体操をするといいでしょう。ママ・パパが子どもを後ろから抱きしめて、そのまま後ろに反るなど、スキンシップを交えながらストレッチ体操をすると心身の緊張がやわらぎます。
背中をまっすぐ伸ばして、息を吸いながら肩を上げて、息をゆっくり吐きながら肩の力を抜くのもおすすめです。
怖かった思いは、無理に吐き出させないで!
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、被災した子どもたちの心のケアとして怖かった思いを吐き出させることで、心の整理をする手法がとられました。子どもが描いた震災の絵を見た方もいるのではないでしょうか。しかし大人主導で、怖かった思いを吐き出させても、子どもの心のケアにはならないことがわかりました。
大切なのは、子ども自ら「聞いて!」と怖かった思いを遊びや言葉で表現しはじめたときの対応です。ママ・パパはそのときを待って、子どもが話し始めたら「そうだね…。ママ(パパ)も怖かったよ」と同調しながら、じっくり話を聞いてあげてください。
トラウマ反応を軽減する4つのステップ
トラウマとは、災害や事故など生死に関わるような恐怖体験をしたときに負う、心の傷のことです。強いトラウマ体験をすると、サイレンの音や「地震」という言葉などに敏感になり(トリガー)、トリガーをきっかけにフラッシュバックを引き起こすなどトラウマ反応が見られることがあります。しかしトラウマ反応は、適切なセルフケアで軽減することができます。環境面などが整い始めたら、次の4つのことを順番に行って心のケアをしましょう。
Step1 安心感を得る
震災によるトラウマ反応は、誰でも起こる正常な反応ということを教えたり、防災対策で防げることを学んで安心感を得ましょう。ママ・パパと一緒に防災対策を見直すことも、安心感につながります。
Step2 絆を育む
ママ、パパ、きょうだい、おじいちゃん、おばあちゃん、担任の先生、スクールカウンセラー、医師などと信頼関係を結び、絆を育みましょう。会話は、日常会話や趣味の話などでOKです。無理につらい話をすることはありません。
Step3 表現する
子ども自身で表現したいと思うときが来たら、遊びや絵や文章などでトラウマ体験を表現しはじめます。その表現にパパやママ(ないし信頼できる大人)が寄り添い、ねぎらうことで、怖かった体験を整理していくでしょう。
Step4 挑戦する
「あのときのことを思い出したくない」という気持ちから、ずっと行かなかった場所に行くなど、避けていたことに少しずつ挑戦しましょう。友だちやママ・パパと一緒に行ってもいいです。
この4つのことを、時間をかけて順番に行っていくと、トラウマ反応が軽減できることがわかっています。
幼い子には、ドラえもんを例にして説明
子どもにトラウマ反応の説明をするのが難しいときは、子どもたちがよく知っている「ドラえもん」を例にするといいでしょう。「ドラえもんはねずみに耳をかじられたから、ねずみという言葉を聞くだけで驚いたりするよね? 〇〇くんが地震と聞くと怖いと思うのは、それと同じだよ」と説明すると、幼い子でもわかりやすいと思います。
トラウマ反応を起こしたら、現実世界に目を向けて安心させて
しかしなかには、震災から時間が経っても心の傷が癒えずに、トリガーにおびえたり、トリガーをきっかけにフラッシュバックを引き起こす子がいます。そうしたときは「大丈夫だよ」と言って安心させてあげてください。「大丈夫、まわりを見て。揺れてないよ」「地面を見て。ちゃんと歩けるよ」などと声をかけて、現実世界に目を向けさせることで落ち着きを取り戻します。
なかにはトリガーを避けるために、引きこもりがちになる子もいます。気になる様子があるときは、早めにスクールカウンセラーや専門医に相談しましょう。
阪神・淡路大震災では、震災から約10年後にPTSDと診断されたケースも
震災後の子どもの心のケアは重要です。阪神・淡路大震災のときは、震災から約10年後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されたケースがあります。その子は中学1年生で被災し、2歳上の姉を亡くしています。小さな音でもサイレンの音が聞こえると何もできなくなってしまったり、震災や姉の話になると体が固まって、過呼吸になり倒れたことも。また「姉を助けられなかった」という罪悪感にも苦しんでいましたが、適切な治療を受けることで回復しました。
震災後は、ライフラインが復旧し、次第に地域は再建されていきます。しかし心の不調は、少し落ちついたころにあらわれ、回復には時間がかかることをママ・パパには知ってほしいと思います。
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記事監修
取材・構成/麻生珠恵 写真/繁延あづさ