幼児期から学童期において、「人気の習い事ランキング」の上位といえば、ピアノ。音楽の習い事は家庭での練習が必要ですが、近年では共働きでサポートする時間的余裕がないことや、中学受験のための塾通いにより音楽の習い事を始めるハードルは高まり、小学校高学年で中断する人が多いといった話もよく聞きます。
豊かな人生を歩んでほしいと願う親として、音楽の習い事とどのように向き合ったらいいのか、今回、アノネ音楽教室代表の笹森壮大先生に話を聞きました。
アノネ音楽教室とは?
花まる学習会の音楽教育部門としてスタート
教育者の集団の音楽教室をつくりたいと、2015 年に花まる学習会の音楽教育部門「花まるメソッド音の森」としてスタートした音楽教室です。
2019年に花まるグループから独立し「アノネ音楽教室」として二子玉川やお茶の水に校舎を構えています。「本物の芸術に触れ 楽しみながら音楽を学び 豊かな感性を育む」という理念を掲げ、音楽を通じて育んだ感性で「目の前の人を幸せにできる大人」を育む教室です。
アノネ音楽教室の大きな特徴とは?
教育者としてのスキルを兼ね備えた集団の音楽教室であるところです。子どもの発達段階や特性を理解し、ICTやオリジナル教材を活用した楽しいレッスンで子どものやる気を引き出し、「学習観」を育みます。そして本物に触れることで感性を育てていく他にない音楽教室です。
音楽の習い事を始めるオススメの時期や楽器
音楽を始めるの時期は早い方がいいのでしょうか?
始めるタイミングはいつでもいいと考えています。プロを目指す場合は早く始める方が有利に働くこともありますがほとんどの人はが音楽は、心を豊かにしてくれるものであり楽しみとして存在していると思います。そうではない。そういう子にとっては始めるタイミングは関係ないと思っています。
逆に、低学年までとても上手でもあるからこそ、幼児的万能感から脱却できず高学年以降伸び悩む子もいます。逆に、中学受験で精神面や集中力、思考力などを鍛えられ、小学校のときに上手だった周りの子をどんどん追い越していく子もいたりします。
どんな子であっても「伸びるタイミング」というものがある。それぞれの精神年齢やタイミングでぐっと成長するときがあり、そこまで続けられるかが大事なのです。
始める楽器はどう選んだらいいのでしょう?おすすめの楽器は?
できるだけ多くの楽器を試してみてください。おもちゃの楽器であってもいいです。
例えば、食べたことがないスイーツを、食べたいとは思わないですよね?ですからまずは子どもが体験してみることが大切です。
でももし親から見てわが子に向いていそうな楽器があるのであれば、子どもが「やりたい!」と思えるようなストーリーを作ってあげましょう。やらされたのではなく、自分が選んだと思えるようにするところまで親がしてあげてるといいと思います。
教室・先生の選び方。体験レッスンで気を付けるポイントとは?
子どもの意欲を伸ばしてくれるかどうか。
子どもに対してネガティブな言葉を使わないことはとても大切です。子どもは先に先に進む特徴がありますし、振り返りが苦手です。そして忘れるのも早いです。
先生が子どもの発達段階や特性を理解し声掛けしてくれているか、子どものやる気がアップしているかがポイントです。
先生のプロフィールや受賞歴よりも大切ですが、それ以上に子どもの教育に関心があるかどうかが大事
音楽講師の多くが、演奏活動の傍らで講師業をしていることが多いということがこの業界の実情です。先生の技術だけでなく、どれだけ「子どもの教育」に関心があり、注力しているかはとても大切です。なぜなら、自分が演奏できることと、幼児を相手に教えることは、別の仕事だといってもよいぐらいどちらも専門性が必要だからです。今や世界のスポーツ業界では、「名選手が名監督にあらず」という言葉の通り、指導者側に立つときには指導者ライセンスやコーチングスキルなどを学ぶことが当たり前となっています。音楽業界もいずれそのように指導者としてのスキルを切磋琢磨する時代がくると予想しています。
親とコミュニケーションをとろうとしてくれる先生かどうか
アノネ音楽教室では、日頃から「ちょっとしたことでもお子さんのことを教えてください」と話しています。中には「今日学校の習字でこんなもの書いてきました!」と連絡をくれる親御さんもいますよ。
また、「旅行に出かけていた」「風邪をひいて寝込んでいた」など、子どものこの1週間の過ごし方を事前に教えてもらえると、当日のレッスンでの声のかけ方も変えられます。
1週間の様子がわからず、練習不足の子どもに、「なんで練習してこなかったの?」と聞くより「今週風邪だったのにこんなに練習も頑張ったの?」「旅行に行った分、今日レッスン頑張ろうね!」と伝えられたほうが、子どもも安心して、先生を信じてレッスンに臨むことできるでしょう。
先生自身に『自責』の考えがあるかどうか
昔は、自宅で練習ができないのはお母さんの責任という風潮がありました。ですが、今は共働きの時代で、親と子の二人三脚が難しい場合が多いです。親御さんご自身が子どもの習い事を「辛い」と思ったら継続することは当然難しくなります。
その時に講師自身が、生徒が練習ができないのは自分の伝え方が悪かったのかもと考えられるかどうか。「自分にも責任があるのでは?」とまず自分のすべきことがなかったかを振り返ってくれるかどうかは、親御さんを責めず信頼関係を強くするという点でも大切なことだと思います。
自責で考えることの良さは、原因が自分にあるので問題解決のために常にチャレンジし続けられることです。子どもが伸び悩んでいれば、諦めずにすみます。「子どもが練習しないから上達しない」「親が練習をみないから伸びない」と他責にした瞬間に、講師として解決のための打つ手を諦めたことになります。つまりそこで実力は伸びないということです。
「好き」が何よりも強い、続ける原動力になる
10年以上続けるためには才能より〇〇
音楽において「才能」や「センス」が大事だと言われることもあります。ですが、「興味関心」がやはり大切で、好きなことを継続できるポイントになります。
モチベーションを維持する方法
毎日の練習をするうえで「好き」という内発的動機付けで練習ができればが理想です。が、しかしそのような生徒は、教室内に数1%もいないのでは?と思います。
勉強が好きだからと言って、毎日宿題を率先して何時間もやる子どもも少ないですよね。他のモチベーションとして、「人の役に立つか」や、「誰かと競争して勝ちたい」といったこともあります。モチベーションは、性格や年齢、タイミングによっても変わるものなので、周りの大人は「今、この子のモチベーションがどこにあるのかな?」ということを見てあげることが必要です。
特に高学年以降になった時に大事なのは「コミュニティ」「仲間」です。そのためにも低学年のうちから「友達作り」を意識してあげることが大切です。
音楽の習い事と中学受験との両立は?
小学校6年生で音楽をやめる割合は約7割
一般的な統計で、中学校に上がる前で音楽の習い事を辞める割合は約7割だと言われています。中学受験、宿題や勉強のため練習時間の確保の難しさ、他の物への興味関心が音楽の習い事に勝るということが理由の多くを占めています。
それに対して、アノネ音楽教室は高学年でも辞める生徒は約2割。多くの子が学業と両立しています。
受験との両立はできるのでしょうか?
学業との両立はできると考えています。子どもの集中力はずっと続くものではありませんので、毎日のスケジュールの中に、音楽を組み込むことはできるのです。
1時間勉強したら10分バイオリンを弾くといったことも可能ですよね。「好き」という気持ちと勉強習慣がしっかり身についていれば学業との両立も可能です。
--音楽を通して人生を豊かなものにしてほしいと子どもに願う親は多いと感じます。この記事が、音楽の習い事を始めるときの楽器選びや教室選びのヒントとなり、お子さんの音楽人生が豊かなものになれば幸いです。
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お話を伺ったのは
著書に『感性と知能を育てる 音楽教育革命』『幼児期だからこそ始めたい 一生ものの音楽教育』がある。
撮影/五十嵐美弥 取材・文/石井千賀子