子育て中に感情がコントロールできないときは共感の言葉「キリン語」を使おう!コスタリカに移住してワンオペ子育てしたkokoさんが教える「非暴力コミュニケーション」の育児術

子どもとの関係に悩む親御さんは多く、叱ってしまってから後悔することは日常茶飯事。でも親の心の持ち方や声かけの方法で、子どもの心も変わっていきます。そんな非暴力コミュニケーション(NVC)について、コスタリカ共和国で学んだというkokoさんに教えていただきました。NVCでは「キリン語」を使うというのですが…?

  異国でワンオペの育児に苦しんでいた私が変わった

私は娘が4歳のときに、パートナーと別々の道を歩むことになり、コスタリカ共和国に移住して子育てすることになりました。最初は私も、理想の子育てとはほど遠い生活だったんです。海外では生活をしていくだけでも大変で、娘に当たってしまうことが多くなりました。「何やってんの!」とか「こんなことして、悪い子ね!」という言葉をかけては、猛反省する毎日。いけないと思っても感情がコントロールできず、言葉が止まらなかったんです。

そんなとき「子育てにいいよ」と聞いていたNVCを知って、わらにもすがるつもりで講習に参加しました。そこで、声かけに「ジャッカル語(暴力的なコミュニケーション)」と「キリン語(非暴力コミュニケーション)」があることや、コミュニケーションを取るときに4つのポイントがあることを聞きました。講習から帰って早速実践してみたら、いつも「やだ」としか言わなかった娘が、私と向き合って話をしてくれるようになったんです。それに感動して、ぜひ皆さんに知ってほしいと思うようになりました。

NCVと聞くと、英語三文字で何だか難しい話に感じてしまうかもしれませんので、まずはよくあるシーンで、「どんな風に使うのか?」実例をご紹介し、詳しく説明していきたいと思います。

どんなときに使う?シーン①朝の忙しい時間に、子どもの支度が遅くて怒ってしまう

たとえば、朝の支度をしていて、自分ももう出かけなくてはいけない時間なのに、子どもが言うことを聞いてくれないときはイライラしますよね。「早くしなさい」「どうしてできないの」と言ってしまう。これをNVCでは「ジャッカル語」と言っています。このジャッカルというのは、不安で神経質で攻撃的な動物の象徴としてたとえられています。暴力的な「ジャッカル語」に対して、物事を高い視点から見渡し、おっとりした思いやりのある言葉を「キリン語」と言っています。

ジャッカル語は相手を責める言葉

まず、ジャッカル語を言いそうになったらひと呼吸、自分がどんな状態なのかに目を向けます。ああ、いまイライラしているな、怒りたい気持ち、情けない気持ちだなと認めます。それから、子どもを原因として物事の改善を急ぐのではなく、あくまで親のニーズがあって、子どもに協力してもらうというというところにフォーカスします。

とはいえ朝の時間は余裕がないとは思うので、時間をおいて夜の落ち着いた時間に、お子さんとお話してみてください。

キリン語は共感、お願いする言葉

「朝はお仕事があって、間に合わないと思ったら、ママはイライラしちゃうんだ」
「もっと遊んでいたいんだよね」
「前の夜に準備をしておくっていうのはどうかな?」

こういった共感やお願いをする言葉が、キリン語です。

「ママは、朝は心に余裕を持って行動することが大切」これが叶えたいニーズです。

「自分はどう感じているのか」「何を大切にしたいのか」という自己共感を意識すると、ジャッカル語よりも、キリン語で子どもと話せるようになってきます。

どんなときに使う?シーン②ごはんの時間に遊んでしまって、ちゃんと食べてくれない

もうひとつ、例をあげてみましょう。ママが子どもにご飯を食べさせようとしても全然食べてくれないことがあります。つい「食べないと遊べないよ」「これを食べないなら、デザートはあげないよ」と、罰を与えるような言い方になりがちです。
ママだって一生懸命なんですよ。定時にご飯を食べることは当たり前のことで、親は子にそういう社会的順応を願っています。

でも、そうすると子どもは、お母さんに怒られないために食事をすることになります。健康のためではなく、社会的順応という理由で、子どもに食べることを強制していないでしょうか。

NVCでは、犯人捜しをするのではなく、宝探しをすることを推奨しています。誰が間違っているのか、相手や自分を責めるのではなく、満たされていないものは何かを探す習慣をつけるのです。

この時間は食事をするべき、ということが正しいわけではなく、子どもが「今遊びたい」と思っている気持ちも大事です。でもママが作ったのに、食べてくれないと悲しい気持ちになっていることも大事なのです。両方のニーズは、同じぐらい大事なんだよということを話していくようにします。子どもはそうやって話すことで、自分がリスペクトされていると感じ、相手のこともリスペクトする気持ちを学んでいきます。

もちろん、話をしても自我を押し通されることもあるでしょう。でも「あなたの体が心配だな」「お菓子だけじゃなくてご飯も食べてほしいな」と長く言い続けることで、子どもの意識が変わる瞬間というのがあります。子どもが親のことを理解して、自分がどうしたいのか、自分の行動が他の人にどう影響するのかを学ぶきっかけになるのです。その成功体験を増やしていくことで、子どもも親も少しずつ成長していきます。

どんなときに使う?シーン③友達のおもちゃを取って、喧嘩してしまった

では、こんな場面ではどうでしょうか。子どもが園で友達とトラブルを起こしてしまったとき。「どうしておもちゃを取ったの」「仲良くしなさい」と介入したくなります。
でもこれもよく考えると、親が「友達によく思われたい」「集団に受け入れられたい」と思っているのだということに気づきます。子どもの「1人で遊びたい」「ひとりじめしたい」という気持ちを押さえつけて、親のものさしで判断しているとも言えます。

こういうとき、私はまず見守ります。それから、喧嘩している2人に自分の素直な気持ちを話します。喧嘩したことにソワソワして、残念な気持ちになったことを伝えます。

そして、仲裁をする場合は「あなたはひとりじめしたかったんだね」「あなたは取られて嫌な気持ちになったんだね」「どっちも大事なニーズだね。両方のことを大事にするには、どうしたらいいかな」と考えさせるように声かけをします。そのときどきで結果は変わると思いますが、そうやって自分も相手を思いやる気持ちが、平和で思いやりのある世界を作っていくのです。

大人の世界も同じなんですよ。イスラエルやパレスチナの戦争では、双方が勝ち負けにこだわり、自分の正義を振りかざしています。NVCは、お互いを大事にする練習の場でもあると思っています。仕事先で、両親や夫などの家族との場で、私は日々NVCを使っています。

強制や押し付けでは、いつか話を聴いてくれなくなる

NVCのコミュニケーション術は、これをやれば子どもが言うことをきく、というものではありません。ほかの大人に「子どもに甘すぎる、ちゃんとしつけしないと」と言われることもあるでしょう。相手の言いなりになるのではと、とまどいや怖さもあります。それでも諦めずに、関わり方を改めていくことで、親と子が支配関係でなく心でつながれるようになります。誰よりも子どものことを大切に思っているのに、どうしてわかってくれないんだろう?と苦しさを抱えている方に、ぜひ試してほしいと思っています。

子どもと会話するときは、4つのポイントを意識する

NVCには、相手を責めるジャッカル語を言いそうになったときに、実践してほしい4つの要素があります。観察、感情、ニーズ、リクエストです。

1.観察

何が起こっているのかをカメラで撮ったように忠実に捉える。目に見えるものを中立的に評価する。「いつも遅いよね」といったイライラ感は入れずに、数字で具体的に淡々と話す。「8時までと約束したけれど、用意できたのは8時15分だったね」

2.感情

自分がどういう気持ちなのかを推測し、共感する。深呼吸して、意識を下におろす。自分は心配なのか、困っているのか。体が熱くなっている、モヤモヤするなど、感情を表す語彙のリストを増やしながら、自分を冷静に表現する。「遊びたかったんだよね。でも8時までにできるって信じてたから、ママは心がきゅうっとして、残念な気持ちになったな」

3.ニーズ

感情の大元にはニーズがある。満たされていないのは、どういうニーズがあるからなのかを考える。大切にしたいもの、自分の価値観を意識する。誰かのせいという意識がなくなり誰も攻めなくなるので楽になる。「時間を約束したら、5分前には遊びをやめて、準備を始めてほしいな」

4.リクエスト

ニーズをかなえるために、協力してもらえるか相手にお願いする。命令系でなく、最後に必ず「?」がつく。観察と同じように、具体的で肯定的な言葉を使う。「ママの話を聴いてどう思うか、教えてくれる?」

あるあるシーンでのNCV言い換えアドバイス

具体的によくあるシーン、「床に物が散らかっている子どもの部屋」を見た時…にはどんな言い換えができるのか、ご紹介します。

『親と子どもが心でつながる「キリン語」の子育て NVC 非暴力コミュニケーションワークブック』(koko著)より

子どもを支配するのでなく、愛情でつながる

私はNVCを学んでから、子どもと向き合うときに毎回この4つ「観察・感情・ニーズ・リクエスト」を心の中で唱えるようにしています。子どもが思ったように行動しないとき、子どもを変えようとするのではなく、理解し合うことがとても大切だからです。

いままで命令や脅しの言葉ばかりかけてきた親が、自分の話を聴いてくれると感じたとき、変わる子どもがたくさんいます。「本当は、私はこんな気持ちだったんだ」「私はいま〇〇してほしい」と話してくれるようになった事例がたくさんあります。

ほかのコミュニケーション・メソッドにも、共感や感情まではよくあるのですが、NVCのようにニーズやリクエストまで掘り下げていくと、腑に落ちる感覚がより濃くなります。場面場面に応じたワークがあり、実践していく中で、私は自分が楽になっていきました。

誰かのせいでイライラするということがなくなり、自分も他者も大事にした上で、ニーズが見えてくるからです。子どもの表情が変わったという方は多く、ぜひ関係性が良くなる体験を繰り返して、味をしめていただきたいなあと思っています。

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kokoさんが伝授。NVCを子育てに活用する、日本初のガイドブック

著/koko 丹羽順子1650円(税込)

月刊誌『幼稚園』で3年間に渡って連載された「【NVC(=非暴力コミュニケーション】を学ぼう kokoの『今ここ』子育て術」をベースに作られたワークブック。「どんな育児本より即効性があった!」「心に敵をつくっていたのは、自分だったことに気づいた」「子どもとの絆が深くなった気がする」など、感想多数。巻末に、お子さんと遊べるよう、「感情」と「ニーズ」のカードつき。

koko(丹羽順子)さんって?

koko(丹羽順子 にわ・じゅんこ)/1973年、東京都生まれ。NVC、瞑想、ブレスワーク、セクシャリティーのガイド。2017年、アメリカ最大のNVCの団体「BayNVC」主宰の年間リーダーシップ・プログラムを修了。対面とオンラインで多くの人たちにNVC講座を開催している。ヨガとサーフィンを愛し、平和環境先進国家コスタリカ共和国と日本の二拠点生活中。

kokoさんのホームページはこちら>>

文・構成/日下淳子

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