体温調節の機能はみんな同じではない
人間の体温調節機能は年齢とともに変化し、男女差もあります。これらの特徴を踏まえて、暑熱対策を考える必要があります。
年齢が異なれば、カラダの大きさや、汗の量、体温を感知する感覚といったものに差があるほか、自分の意思を伝えられなかったり、自分で水分補給できなかったり、周囲のサポートが必要な場合もあります。
自分で意思を伝えられない幼い子どもは、大人よりカラダの体積が小さいため、体温が変化しやすく、気づかないうちに熱中症になってしまう場合も少なくありません。カラダが小さいペットも同様に対策が必要といえます。
高齢者と子どもの特長について、お話ししていきましょう。
高齢者は体温調節がうまくいかず、体温が上がりやすいといわれています。また、年齢とともにのどの渇きや暑さを感じにくくなるともいわれ、いろいろな自覚症状が出ないことも。このような特徴を踏まえ、若者よりもより手厚いケアや、周囲のサポートが必要となります。
ちなみに、呼吸循環・体温調節機能に男女差がある可能性が指摘されています。女性の場合、暑熱順化(体を暑さに慣れさせること)を起こすのに、男性より少し日数がかかる可能性も。ただし、熱中症リスクに男女差はないという報告もあり、男だから、女だから、と明確に対策が変わるわけではないようです。
6~11歳は、汗による熱放散機能が未熟
子どもといっても、乳幼児と、6歳以上ではまた異なります。
乳幼児は大人と比べて体表面積や質量比が大きく、代謝量が低いため、体温が下がりやすいといわれています。体表面積や質量比が大きいということは、暑熱環境では体温が上がりやすいことも意味します。自分で衣服の調整や水分補給ができないため、大人による注意深い観察が必要です。
小児(6~11歳)は汗腺が未発達であり、汗による熱放散機能が未熟といわれています。その代わりに、皮膚血流量をより多く増やせるという特徴があります。さらに、通常は、運動トレーニングや暑熱順化で体温調節能が向上するのですが、小児では、これらの適応が起こりにくいといわれています。
体格の差についても考える必要があるでしょう。
体格が大きいということは、体温を1度上げるために必要な熱量がより多く必要になるということなので、「熱しにくい」ということになります。ただし、逆に体温が上がってしまうと、冷めにくいともいえ、最近の研究では、太っている人のほうが熱中症のリスクが高いともいわれています。
アスファルトの照り返しに注意!
子どもは背が低いので、地面からの輻射熱の影響を大人より受けやすいです。ベビーカーの赤ちゃんも、地面と近いほど同じような影響を受けやすくなります。大人の身長だと、地面付近の高温に気づかない場合があるため、このようなことを頭に入れておくことで、子どもの熱中症リスクを軽減することができます。
つまり、子どもはカラダが小さいので、「熱しやすく、冷めやすい」という特徴を持っています。
そこで注意したいのが、先のアスファルトの照り返しに加え、真夏時のクルマでの過ごし方です。
太陽光によって熱せられ、外部から閉鎖された空間に熱がこもったクルマの内部は、かなりの高温になっています。そして、外気温が高ければ、熱は外気より温度の低い体内に流入することになります。このような状況の場合、大人よりも体積の小さい子どものほうが、早く全身の温度が上がってしまいます。
また、先にお話ししたように、子どもは汗腺が未発達のため、高温になっても、大人のように大量の汗をかくことができず、汗による熱放散があまり促進されません。
このように、子どもは「熱ストレスに弱い」ということを周囲の大人たちは肝に銘じ、対策を講じてほしいですね。
専門家が教える、大人も子どももできる猛暑対策3選
その1:汗はすぐに拭き取らずにカラダで乾かす!
汗は、蒸発して初めて熱をカラダから逃がします。汗が蒸発せずに滴り落ちると、体温調節的にはムダになってしまうのでます(蒸発しない汗を無効発汗といったりします)。
そのためにも、汗をかいた状態でクーラーにあたるときは、あえて汗を拭き取らず、クーラーの風で蒸発させましょう。
うっとうしいと感じることが多い「汗」ですが、体温を下げるために必要なもの。できるだけカラダの表面で蒸発させるように工夫してみましょう。
その2:お風呂上がりに牛乳を飲むとよい!
タンパク質やナトリウムが豊富な牛乳は、保水効果にすぐれています。ただ、胃から腸へ移動するスピードがやや遅いので、素早く補給したいときには向きません。
一方で、ゆっくり吸収される分、血液の浸透圧の低下が抑えられ、尿として排泄される量が減ります。そのため、お風呂上がりに体水分をゆっくり回復させるには、牛乳がおすすめです。
その3:熱中症の対処ではカラダ全体を冷やす!
重度の熱中症が疑われる場合には、短時間で深部体温を39度以下に下げることが最も重要。そのためには、カラダの大部分を冷水に浸ける方法が有効です。カラダの一部(脇、首、手のひら)を冷やす方法では、急激に深部体温を下げることはできないので、可能な限り広範囲を冷やしましょう。
また、いうまでもありませんが、救急車の要請を躊躇してはいけません。
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記事監修
1981年6月24日大阪府生まれ。筑波大学体育専門学群卒業。大学在学中は陸上競技部に所属。その経験を活かし、運動時の呼吸・循環・体温調節に関する運動生理学的研究を数多く行っている。さらに筑波大学体育系の特色を活かし、競技パフォーマンス向上のためのスポーツ科学研究も進めている。これまでの研究成果はThe Journal of Physiology やMedicine & Science in Sports & Exercise といった運動生理学・スポーツ科学分野の一流雑誌を含め、国際誌に180報以上掲載されている。アメリカとカナダでの海外留学の経験を活かし、複数の国の研究者と共同研究を精力的に進め、国際的な賞も複数受賞している。著書に『ランナーのカラダのなか』(小学館)がある。
https://x.com/naotofuj
https://exerphysiol.taiiku.tsukuba.ac.jp/
取材・文/小学館出版局 生活編集室