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成長しても、自然に頭のかたちが治らない子は多い
「赤ちゃんのあたまのかたちクリニック」を開業したのは2019年です。
赤ちゃんの頭のかたちに悩む親御さんは、以前からいたのですが、ひと昔前は乳幼児健診や小児科などで相談しても「成長すると髪の毛が増えて目立たなくなる」「はいはいしたり、歩いたりできるようになると、だんだん目立たなくなる」というアドバイスで終わっていたことが多かったのです。また、以前は、病気でない限り、頭のかたちを深刻に考える医師も少なかったです。
米国ではSIDS予防で仰向け寝が推奨されてから、頭のかたちの問題が多発
アメリカでは、1992年に米国小児科学会が乳児突然死症候群(SIDS)の予防を目的として、乳児をうつ伏せ寝でなく、仰向けで寝かせることを推奨するキャンペーン(Back to Sleep campaign)を開始しました。このキャンペーンでSIDSは減少したものの、赤ちゃんの頭の変形に悩む親が増えました。
そのためアメリカではさまざまな治療方法が模索され、乳児のうちに頭蓋矯正を受けることが急速に広まりました。
矯正ヘルメットは、乳児期に長期間にわたってかぶるため、正常発育を妨げる可能性を危惧したアメリカ食品医薬品局(FDA)が製品の認可を行うことになり、1998年に初めてCranial Technology社が認証を取得しました。現在までに53品目の矯正ヘルメットがFDAから医療機器としての認可を受けています。
アメリカでは、赤ちゃんの頭のかたちの治療は一般的
アメリカでは1998年以降、赤ちゃんの頭の形を治すのにヘルメット治療の有効性が確認され、一般的な治療方法として認知されていましたが、日本ではそのような治療法は確立しておらず、当時はアメリカに行って治療を受ける日本人の方もいました。
頭のかたちがいびつだと、子ども自身のコンプレックスにもつながります。重度の変形がある場合は、耳の位置が左右非対称になることもあります。
「アメリカに行かなくても、日本で適切な治療が受けられるようになれば…」という思いから、国立成育医療研究センターで「頭の形外来」に創設メンバーとして参画しました。そして、もっと多くの赤ちゃんを診るため、自ら専門クリニックを立ち上げることにし、週5日、頭蓋矯正治療と乳児発達支援に取り組んでいます。
頭の変形は、向き癖、発達の遅れなどが主な原因
頭の変形の一例。向き癖が原因の場合は、向き癖がある側の後頭部片側の平坦化が見られる。上から見るとソラマメのような形をしているVのタイプは、月齢が進むにつれ治療効果が得にくくなるので、とくに早期の治療が必要。
乳児の頭が変形する原因には、主に次のことがあります。
- ●向き癖
- ●首すわりが遅いなどの発達の育れ
- ●ベビーカー、バウンサーなどの長時間使用 ほか
また、ママのおなかの中にいる間に向き癖があったり、切迫早産などで長期にわたり安静入院をしていたり、子宮筋腫などでありおなかの中で赤ちゃんの動きが制限されることで、頭のかたちに影響が出ることもあります。
病気が原因のこともあるので、気になるときは専門医に相談
病気が原因で、頭が変形することもあります。
たとえば「頭蓋縫合早期癒合症」もその1つです。
「頭蓋縫合早期癒合症」は、2500人に1人ぐらいの割合で発症して、通常は2歳ごろに閉じる頭の骨と骨のつなぎ目が、早期に閉じてしまう病気です。早期に閉じることで、頭が変形して発達や視力、かみ合わせなどに影響が出ることも。放っておくと症状が進行するので、気になるときは専門医に相談してください。
治療は生後3ヵ月過ぎから始められ、治療期間は約半年が目安
矯正ヘルメットによる治療は、生後3ヵ月過ぎ(首がすわることが目安)から始められます。生後10ヵ月ごろになると矯正ヘルメットをかぶることを嫌がるようになりますし、頭囲の成長もゆるやかになり、治療効果があまり期待できません。そのため治療を希望する場合は、生後6ヵ月までに始めたほうがいいでしょう。
治療前に知っておいてほしいことは、次の通りです。
- ●矯正ヘルメットは1日23時間かぶり続けることで矯正効果が得られるものである
- ●治療期間は、個人差があり、開始時期によっても異なるがおおむね5~6ヵ月程度
- ●自由診療(治療費の目安は約50~60万円/診察、検査費用を含む。かぶり初めに生じる、ずれや回転を抑える2ヘルメットタイプの場合は100万円程度)
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矯正ヘルメットには、さまざまな種類が
- 矯正ヘルメットは、1人ずつの赤ちゃんの頭のかたちに合わせて作られるオーダー製です。米国ミシガン大学リハビリテーション科で開発され、アメリカFDAに認可された「ミシガン頭蓋形状矯正ヘルメット」、グンゼが自社開発し国内製造している「リモベビー」、Berry社のベビーバンド3や、山口補装具のプロモメットなど、いくつか種類あります。矯正ヘルメットは、親御さんの希望を聞いて、赤ちゃんに合うものを選びますが、医療機関によって、取り扱う矯正ヘルメットは異なり、複数種類のヘルメットを取り扱っていないところもありますので事前に確認しておくとよいでしょう。
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痛みは伴わないが、頭が蒸れやすいのがデメリット
- 矯正ヘルメットをかぶせて頭のかたちを治すというと、矯正ヘルメットで頭を押さえつけて治すイメージがあるかもしれませが、それは違います。矯正ヘルメットは赤ちゃんの頭の成長を見通して作られていて、かぶり続けることで頭のかたちが整います。痛みもありません。しかし1日の大半、矯正ヘルメットをかぶるため頭が蒸れやすく、あせもや湿疹ができることもあります。
- さまざまな頭蓋形状矯正ヘルメット>>>「赤ちゃんのあたまのかたちクリニック」サイト掲載
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治療を始める前に、パートナーとよく話し合って
- 前述の通り、矯正ヘルメットは1日23時間を目安にかぶるため家族の理解は不可欠です。
- なかには治療を始めてから「寝るときもヘルメットをかぶせるなんて可哀想」などとパートナーから言われて悩む方も。そのため治療を始める前に、パートナーとよく話し合うことが大切です。
- また「外に行くときは暑いし、人目も気になるのでヘルメットをはずしたい」と言う親御さんもいます。しかし前述の通り、矯正ヘルメットは1日23時間かぶり続けないと高い治療効果が得られません。上の子がいたりして外出することが多い家庭は、矯正ヘルメットを継続してかぶせられるか、よく考えてから治療を決断しましょう。
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記事監修
高松亜子先生|「赤ちゃんのあたまのかたちクリニック」院長- 医学博士。日本形成外科学会認定専門医。慶應義塾大学医学部形成外科 非常勤講師、国立研究開発法人国立成育医療研究センター勤務などを経て、現職。日本形成外科学会小児形成外科指導医。https://atamanokatachi.com/
取材・構成/麻生珠恵