「不登校児へのNGワードとは」「声かけはCCSとCCQで」不登校の背景を探る【BPSモデル】について、元当事者で不登校研究の立命館大学大学院教授に訊く

HugKumでは、これまで何度も取り上げてきた「不登校」。今回はその経験者であり、研究や教育を通じて「不登校」と長く関わってきた立命館大学大学院教職研究科教授・伊田勝憲先生のオンラインセミナーを取材。不登校の背景にあるさまざまな要因、教授が思うNGワード等についてリポートします。

不登校の背景にある要因

問題行動の発端は「小さな困難の蓄積」

ある心理学者の説によれば、人は、ほんの些細な出来事、それがたとえ小さな困難であっても、一度にいくつも降りかかったり、何度も繰り返されたりすると、焦点を絞って対処していくことが難しくなり、結果、蓄積されたダメージから逃れられずに、問題行動へ向かってしまうといいます。

不登校の原因もまた、そうした小さな困難の蓄積にある、というのが今回のセミナーを主催した伊田勝憲先生のご意見。

「不登校の背景にある要因は一人ひとり違います。また、その中身も非常に見えづらく、理解されにくい。ですから、ボリュームゾーンに着目しているだけでは見えてこないところがあるのです」

コールマンの「焦点理論」とは

青年心理学者コールマンの「焦点理論」から当事者の困難さを見積もると… [図表提供:立命館大学教職研究科 伊田勝憲]

Aさんは1つの大きな問題に直面しているが、焦点を絞って対処できるため比較的乗り越えやすい。また、問題が大きく見えやすいため、周りからの理解や支援も得られやすい。

一方、Bさんのように小さな問題が一度にいくつも重なって起こったり、何度も繰り返されたりすると、焦点が絞れず対処や解決が難しくなる。さらに、一つ一つが些細なことであるため、周りからはCさんのように見え、そのこと自体ももう1本の矢となって負荷が増す。

結果、気づかないうちにダメージが蓄積、増幅され、どうすることもできずに問題行動へつながってしまう。3人の中でダメージが最も大きいのは、Aさんではなく、Bさんである。

児童生徒の課題を「BPSモデル」で実態把握する

実際、子どもたちを取り巻く環境には、家と学校、また教室でも授業中、休み時間、給食や掃除の時間、放課後など、さまざまなシーンがあり背景があります。そのため複数の背景から要因を考えていく必要もあり、その整理・分析のために活用されているのがBPSモデルです。

BPSモデルとは

2022年改訂の「生徒指導提要」にも採用されているBPSモデルは、児童生徒の課題を生物学的要因(Bio=B)、心理学的要因(Psycho=P)、社会的要因(Social=S)という3つの観点から検討するもの。

不登校の児童生徒の場合は以下のようになります。

生物学的要因(B)

発達特性、病気等
社会的要因(S)、心理学的要因(P)との相互作用がある場合も

心理学的要因(P)

認知、感情、信念、ストレス、パーソナリティ等
具体的な“行動”として表れるもの。その行動が生物学的要因(B)、社会的要因(S)を探るきっかけにも

社会的要因(S)

学校や家庭の環境や人間関係等
(おもに学校+家庭・地域)

教授が考える不登校児のBPSモデル

以下に挙げるのは、不登校の背景として見逃されやすい要因の例です。いずれの要因もそれだけで不登校に直結するものではなく、BPSの区分をまたがって複数の要因が連鎖していることを想定します。

  • ■生物学的要因(B)の例

・わずかな刺激で興奮しやすい(虐待による脳への影響を含む)
・感覚過敏、感覚鈍麻(音、光、温度、色など)
・聴覚情報処理障害
・起立性調節障害、過敏性腸症症候群
・シックハウス症候群
・薬物の影響
・摂食障害、食に関する困難さ
・内科的疾患等(偏頭痛、貧血、甲状腺疾患、腫瘍、新型コロナ“後遺症”)

  • ■社会的要因(S)の例

・合理的配慮の不提供(連携や合意形成の不足、“弱み”にばかり着目)
・ユニバーサルデザインに欠ける環境、学校スタンダードの運用による事実上の排除
・いじめ(未発見、法的定義の認識不足)
・ヤングケアラー(児童生徒本人)、ダブルケアラー(保護者)等への理解・支援の不足
・学校をめぐる保護者の不安に寄り添う支援者の不在
・アセスメント不足等にともなう“不適切な指導”全般
・引っ越し、転校、家の建て替え等、環境面での大きな変化
・コンプライアンスの欠如等を許容してしまう学校風土・地域性など

  • ■心理学的要因(S)の例

・相当期間の欠席・不登校(休んでしまっていること自体が休み続ける要因に)
・学習意欲低下全般(度重なる課題未提出、授業中の居眠り、立ち歩き)
・学業不振(発達特性、境界知能、体調等の事情や環境がある場合も)
・いつもと異なる動き方を求められて混乱
・口頭による指示・注意が入りにくい
・グループワーク等についていけない

▼上記行動面の背景にあるかもしれない心理学的(内面的)要因

PTSD(事件、事故)、複雑性PTSD(被虐待、相性の問題)
・統合失調症、解離性障害
・その他、未受診・未診断のケースを含む知的障害、発達障害、精神障害等

家と学校以外のもう一つの居場所「サードプレイス」の存在が大事

学校と家以外の場所「サードプレイス」の必要性

サードプレイスの重要性

こうした分析は、実態の把握とともに児童生徒に対する理解を深め、長所や可能性を見出したり、問題解決に役立つ人や機関・支援について考えていくために行われているもの。

実は伊田先生も、小5の冬から中1までの2年間ひきこもりだったという不登校の経験者。ご自身の場合は、趣味で知り合った鉄道仲間の存在が、外に出ていくきっかけになったといいます。

不登校児やその家族にとっては、理解者とともに、そうした家と学校以外のもう一つの居場所、サードプレイス(第3の居場所)を持つことも重要です。

また、教育現場でも、子どもの“弱み”にばかり目を奪われず、“強み”を発見し生かしていく姿勢で臨んでほしいとのこと。

教育現場で使ってほしくないNGワード

今回、教授ご自身の研究と経験をもとに作成した「使うと思考停止&排除に陥りやすい“NGワード集”」も公開いただいたので、ぜひ参考にしてみてください。

見立て編

「わがまま」「ジコチュー」「反抗的」「だらしない」「怠けている」「努力不足」「やる気がない」「気合が足りない」「病は気から」「根性なし」「幼稚」「甘えている」「被害妄想」「自己責任」「我慢が足りない」「勘違いしている」「調子に乗ってる」「常識がない」「頭でっかち」「社会に出たら通用しない」「規範意識が低い(足りない)」「勉強だけできても人間性がないとダメ」「そんなこともできない(わからない)のか」「みんな(普通)と違う(からダメ)」「周りの生徒に示しがつかない」

手だて編

「初動・初期対応のミス・失敗」←初動だけの問題ではなく日常すべてが問題かも
「毅然とした対応」←言葉だけのゼロ回答になっていないか?
「(悪いこと・逸脱を)許さない/撲滅しよう/ダメ。ゼッタイ。」←問題の背景を見ずに思考停止になっていないか? 体罰・不適切指導に至るなら本末転倒

CCSCCQを意識して声かけを

問題解決のための対話は、励ましや癒し、相互理解が大切。追い詰める声かけにならないよう注意

最後に、トラウマ・インフォームド・ケアの観点からもうひとつ。

被虐待児など心に傷を抱えるセンシティブな子どもへの接し方、特に叱ったり指示的なことを伝えたいときの方法についてもうかがったので、あわせてご紹介します。

指示する「内容」はCCS

Clear 明瞭に
Concrete 具体的に
Short 短く

指示する「方法」はCCQ

Calm 穏やかに
Close 近づいて
Quiet 静かに

上記は、ペアレント・トレーニングの考え方に出てくるポイントで、上の項目を意識することで子どもの不安・緊張が緩和され、困難な状況や課題に向き合う心理状態が整いやすくなると考えられます。

ときどき学校では、おいコラ~!と「激しく」「遠くから」「大声」で指導される先生もいらっしゃいますが…。CCQはこれとは真逆になりますのでご注意を。

連鎖する要因に多角的に対処するために、学校・家庭・社会の連携を

ここまでBPSモデルと、その周辺から導き出される児童への接し方について触れてきましたが、BPSの3区分はそれぞれ独立したものではなく、相互につながった循環的なものと考えられます。

不登校の問題をこのBPSモデルで考える場合、学校現場ではP(心理学的要因)ばかりがフォーカスされがちですが、P(心理学的要因)の背景にはB(生物学的要因)やS(社会的要因)が必ず隠れていて、複数の要因が連鎖しているという前提で「見立て」と「手立て」を併行していく必要があると、伊田先生は呼びかけます。

そのためにも、不登校等の子どもの問題には、学校・家庭・行政とが相互に連携をとりながら向き合っていくことがより一層求められています。

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記事監修

伊田勝憲(いだ かつのり)| 立命館大学教職研究科教授
1976年、北海道札幌市生まれ。弘前大学教育学部卒業後、名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士課程・研究生、松阪大学/三重中京大学専任講師、北海道教育大学釧路校准教授、静岡大学教育学部・教育学研究科准教授を経て現職。小5から中1の約2年間不登校・ひきこもりを経験するも、 高校3年間は無欠席・無遅刻・無早退の皆勤賞と、振れ幅の大きい青春を過ごす。 時刻表検定1級 & オセロ1級。

構成/増田ひとみ 協力/立命館大学

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