目次
子どもを迎えたからには、すべてを払ってもやるべきことがある
――pecoさんが子育てをする上で大切に思っていることはありますか?
pecoさん:世の中には、いろんな形の家族があります。パパとママと子どもがいる家が一般的には多いのだろうけれど、それが「正しい」わけじゃなくて、ママと子どもだけのおうちもあるし、パパとパパと子どもというおうちもあるだろうし、養子縁組で子どもを迎えたおうちもあるだろうし。
ただ、どんな家族だったとしても、子どもをこの世に迎えたからには、すべてを払ってでもわが子のためにすべきことがあるって私は思っているんです。いろんな考え方があって、アメリカのように親と子どもを切り離して考えて、ママもひとりの人間として生きるのも素敵だけれど、私がすべきことは、親になった時点で子どものことを一番に考える、ということ。
pecoさん:何か大きなことがあったときに自分の感情を一番にするべきじゃなくて、どうしたら子どもにとって一番いい状況をつくってあげられるかを考える。それは絶対に譲れないと思っています。だからこそ、ryuchellに変化があったときには、自分のことよりまず息子のためにどうしたらいいか考えました。そして、何度も何度も話し合いました。
ryuchellのジェンダーのことは、子どもにそのまま伝えた
――ryuchellさんが「『夫』という立場がつらい」と告白しましたが、「新しい家族のかたち」を実践するには、お子さんにも影響が大きいでしょうし……、どう伝えましたか?
pecoさん:そのまま伝えました。3歳半か4歳くらいのときでした。隠したりごまかしたりするほうが、息子にとってよくない環境になると思ったのです。ryuchellが私にカミングアウトした直後には言わなかったけれど、ある程度落ち着いたときに、ゆっくり分かるように話しました。当時の息子には「結婚」っていう言葉の意味はわからないだろうから、ディズニーの物語にたとえました。
「ダダとママはプリンスとプリンセスで、大好きと思って結婚したんだよ。そしてあなたが生まれてきてくれたの。ダダとママにとって、あなたが生まれたことは、何よりもうれしいことだった」って。そして、「その気持ちはまったく変わらないけれど、ダダがかわいらしくなっていきたい、女の子みたいになりたいと思っていて……」と。
pecoさん:もうちょっとあとにも、少し詳しく話して、息子に質問したことがあるんですよ 「ママは大阪で生まれて、ダダは沖縄で生まれて、高校生が終わって東京に来て出会って大好きって思って、プリンスとプリンセスになって生まれてきてくれたのがあなただよ。けれどダダはずっと男の子のことが好きっていうのもあったんだって。あなたは男の子が男の子を好きってどう思う?」って。
ダダは、なりたいダダになればいい
pecoさん:そうしたら、こう言ったんです。「ぜんぜんいいと思う」。
「ママもぜんぜんいいと思うんだよ。でもそうは思わない人もいるんだよ。ダダはママが悲しんじゃうと思ったから、男の子のことが好きだっていうことをずっとヒミツにしてくれていたんだよ。そしてあなたが生まれてきてくれたの。けれどダダはかわいくなりたいなっていう気持ちが大きくなって、めっちゃめちゃ勇気を出してママに教えてくれたんだよね。ママは、話してくれてありがとうって思った。そして、ダダがなりたいダダになればいいって思っているんだよ」って、私は自分の気持ちもそのまま伝えました。
pecoさん:この話を息子にしたのは、ryuchellの見た目がグイッと変わって、世の中にそのことを発表するときでした。どんどん進化していくダダの姿に、戸惑いを少しでも少なくしてあげられるようにと。
ああそうなんだっていう感じでした。そして、「聞きたいことがあったらなんでもダダに聞いていいんだよ」って言いました。ryuchellには、息子にこう話したことを伝えていました。
そのあと1週間くらい、毎日ではないんですが2,3日に1回くらい、「なんでダダは変わったの?」って聞いてくれて。毎回同じ質問をするので、まったく同じように答えを返しました。
pecoさん:カウンセラーをやっているママ友がいたので聞いてみたんです。「息子が何回も同じことを質問するんですが、私のこの対応、あっていますか?」って。そうしたら、「子どもって100%腑に落ちていないことは何回も同じことを聞くんだよね。同じ質問をして毎回違う答えがかえってきたら混乱するけれど、何回しても同じ答えをしたらそれなんだなってわかるから。だからあなたの対応は大丈夫だよ」って教えてくれてホッとしました。それからも同じ質問に対して、同じ答えを返しましたが、その後1週間くらいで言わなくなったかな。
「人と自分はみんな違う、違うことがすばらしい」
――息子さんは今、インターナショナルスクールに通っているのですね。なぜインターナショナルスクールを選んだのですか?
pecoさん:肌の色とか髪の色が違う子がいて、いろんな子がいる環境で育ってほしいなと思ったんです。私は「人と自分はみんな違う、違うことがすばらしい」っていうのが根本にあって。
ごはんをたくさん食べてハートをもっと強くする!
――pecoさんがそういう考え方だから、息子さんもごく自然に家族のことを受け止められたのでしょうね。ryuchellさんが亡くなった2023年7月から1年以上たった今、息子さんはさまざまな事柄をどう受け止めていますか?
pecoさん:ダダがいなくなったことはちゃんとわかって受け止めています。ちゃんとダダのことを心に留めながら前向きに過ごしてくれていて、本当に強いなって思うんです。
いつだったか、なぜダダがいなくなったのか、息子が私に聞いてきたことがあるんですよ。 それで、私は逆に息子に聞いたんです。「人って、ハートがすごい強い人と、パリンってすぐ割れてしまう人がいるんだよね。ハートが強い人と割れやすい人、どっちがいいってないけれど、あなたはどう思う?」って。
pecoさん:そうしたら、「僕のハートはすごく強い」って。「ママも強いよね」って言ってくれました。「そうだよ、大正解。あなたとママはハートがすっごい強いほうなんだよ」って。「ダダはハートがパリンって割れちゃいやすいんだよね。そしてとっても優しいの。ダダはね、ハートの割れたところに“心のバイキンさん”が入って、しんどくなっちゃったんだよ」
そうしたら、息子はいいました。「そうか。じゃ、僕はいっぱいごはんを食べて強くなって、バイキンさんが入らないようにするから」って。頼もしいなぁって思いました。大きくなったなぁって。
前編ではryuchellさんとの出会い、カミングアウトの時のpecoさんの気持ちなどを伺いました
著書をチェック
撮影/五十嵐美弥 取材・文/三輪泉