意識したい「足底接地」
足底接地(そくていせっち)とは、足の裏をしっかりと地面につけることですが、食事中の足底接地が非常に重要であることを示す研究を紹介しましょう。
日本歯科大学の研究グループの報告によると、おむすびを食べた時の咀嚼回数を3種の姿勢別(正座、足接地、足ブラブラ)に調査しました。つまり、
①正座をした状態
②椅子に座って、足を接地した状態
③椅子に座って、足をブラブラさせた状態
という異なる座り方で実験を行ったのです。
その結果、平均の咀嚼回数は①92回、②77.8回、③65.8回となり、不安定な姿勢では噛む回数が少なく、背筋が伸びやすい正座が最もよく噛める姿勢であることが明らかになりました(図1)。
ところで、ファストフード店など飲食店のカウンター席にある座面の高い椅子ですが、足が接地しないために落ち着くことができず、食事時間が短くなると言われます。
結果として、客の回転率が高くなって売り上げが伸びる、といった経営戦略の一つとしても椅子と食事姿勢の関係は応用されているのです。
姿勢の悪い子は多い?
岡山大学小児歯科の研究グループが岡山県保育協議会と実施した研究報告では、岡山県23保育園の1213名を対象として、食事の際の椅子に座る姿勢の良し悪しなどについて調査を行いました。
その結果、足が床に接地しないまま食べている園児は約30%にも及び、不安定な姿勢で食事をしている子どもが決して少なくないことが判明しました(図2)。
足底が地面に着かない食事が習慣化すると、足の指などにかかる力が不十分になります。その結果、土踏まずが形成されにくくなり、運動能力の発育に支障が出やすくなる可能性があります。
また、不安定な姿勢では、片側の歯で噛むのが癖になって歯並びや噛み合わせに不具合が起きたり、猫背や体の左右差が生じたりするなど、体が歪んでいくリスクもあります。
ですから、特に影響の出やすい幼少期の食事姿勢は、足底接地して重心を安定させることが大切だということを認識しましょう。
足ブラブラと噛む力の関係は?
スポーツや力仕事では、足元がしっかりしていないと思うように力が入りません。
同様に、食事中に足が床に着いていないと噛む力が弱くなります。全身が安定する姿勢は、よく噛み、よく味わうための基本です。
日本歯科大学の研究グループの報告によると、足を着けて食事をした場合の噛む力(咬合力)は531(N/㎠)となり、ない場合は461(N/㎠)となりました(図3)。
つまり、足を着けないで食事をすると、噛む力が15%近くも低下することが明らかになったのです。
一方、噛む力が増加すると食物を噛み砕く咀嚼能率が向上し、消化・吸収率もアップします。その結果、食事からの栄養バランスが良くなり、成長・発育や健康維持に大きくつながります。
“地に足のついた”堅実な食事習慣を心掛けることが大切なのです。
悪い姿勢で食べると、窒息の可能性も
2019年に昭和大学の研究グループが行った調査では、しっかり足底接地がある人とない人との間で、嚥下(飲み込み)に働く筋肉の筋活動を比較しました。
その結果、しっかりと足底接地した人のほうが効率的な嚥下ができていることが明らかになりました。
嚥下は食事に不可欠な動作ですが、動きが不十分になると食事中に疲労したり、うまく飲み込めずに食渣(食べかす)がのどに残ったりするだけでなく、誤嚥(食物や水分が本来流れるべき食道に行かず、気管に入ること)を起こしやすくなります。
特に誤嚥は高齢者においては肺炎発症の大きな原因であり、誤嚥性肺炎は死に至ることもある怖い病気です。
もちろん子どもでもその可能性はありますし、のどの狭い子どもは嚥下(飲み込み)がうまくできないと、食物を詰まらせて窒息するリスクが高まります。
ですから、体の安全や命を守るためにも、安定した姿勢で食事することは大切なのです。
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正しい姿勢で食事するための提案
ダイニングテーブルでは、子どもの成長に合わせて足が着く工夫を
子どもが小さい頃はベビーチェアなどを利用して足のぶらつきを防ぐことができますが、ベビーチェアが使える年齢は限られるため、子どもの成長に応じて大人用の椅子へ移行することが大切です。
しかし、小さな子どもがダイニングテーブルで大人用の椅子に座って食事すると、足が着かずブラブラさせてしまいます。また、背中が背もたれに届かないため、上半身が不安定になりがちです。
とは言え、小学生のように身長の伸びが著しい時期に毎年椅子を変えたりするのは、経済的な負担が少なくありません。
ですから、大人用椅子に替えた後は、クッションなどで座高などを調整したり、椅子が高くて足が床に着かない時は、足台を置いたりするなどの工夫をしましょう。
足台として既製品のステップ(踏み台)や折りたたみ式の小さな腰掛け等を活用するのもいい方法ですが、古い電話帳などの厚みのある本や箱を重ね、自家製の足台を子どもと一緒に作るのも楽しいかもしれませんね。
座卓でも、体が傾かないように心掛けて
椅子に座らない座卓でも、姿勢には注意が必要です。座卓の場合、子どもの座る姿勢が斜めに崩れやすいため注意しましょう。
正座のように体の軸が真っ直ぐになる姿勢を意識して心掛けることが基本ですが、小さな子どもに背筋を伸ばして座らせるのは難しい場合があると思います。
しかし、あぐらは猫背になりがちですし、片膝を立てるような座り方も体の軸が傾きやすいため好ましくありません。
もし正座が苦手ならば、座布団やクッションを敷くなどして、足の負担を和らげる調整をしてください。
テレビの位置など、食事環境も要注意
親子で食卓を囲んでテレビを見ながら食事するのは、よくある日常風景だと思います。
しかし、食卓に向かって座りながら、頭や体をひねってテレビを見る姿勢で食物を咀嚼するのは、噛み合わせのアンバランスが生じる可能性があります。
ですから、正しく咀嚼できるように、できる限り体の正面にテレビ画面が向き合うようにテレビの向きや椅子の配置などを工夫しましょう。
また、テレビを見ながら、スマホを見ながらなど、いわゆる「ながら食べ」は食事への意識・集中力をなくし、姿勢も乱れて不十分な咀嚼になりがちです。その意味でも、テレビを見ながら食事をする際には気を配りたいですね。
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以上より、食事中に足をブラブラさせたりするのは噛み合わせなどへの悪影響だけでなく、食事マナー的にも好ましくありません。正しい姿勢の食事習慣で子どもの健やかな成長を見守りたいですね。
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記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・丸茂義二:人生を豊かにする「噛み合わせ」の話.朝昼晩(日本歯科医師会)36,3-6,2015.
・岡崎好秀ほか:発達期における咬合の変化.デンタルライフデザイン,2023.
・倉治七重:健全な永久歯列を獲得するために必要な幼児期における日常生活について.歯科審美11(1),1998.
・Uesugi Y et al: Sole ground contact and sitting leg position influence suprahyoid and sternocleidomastoid muscle activity during swallowing of liquids. Clin Exp Dent Res 5(5); 505-512, 2019.