前編では幼少期から中一で一人暮らしになるまでのお話を伺いました
目次
フツーがいいと思っていた中学時代。でも……
――それぞれにキャラが濃すぎる4人の家族と暮らし、やがてひとりずついなくなり中1から一人暮らしをしてきたすがちゃん最高No.1ですが、大変だった中学時代をやり過ごし、進学や就職という人生の節目を、ひとりでどう受け止めてきたのでしょうか。
すがちゃん最高No.1さん(以下、すがちゃん):中学時代までは「フツーがいい」と痛切に思っていたんです。家族みんなが変わっていて、家族としての和がぜんぜんなかったから、フツーがうらやましかったし、フツーじゃない家族のことは、友達にも学校の先生にも隠しておきたかった。
家族をまとめるのが大変すぎて東京に行ってしまった叔母のかっちゃんは、僕にいつも「公務員になってほしい、あの破天荒すぎる親父とは真逆の人生を歩んでほしい」と願っていました。だから自分も、この土地で公務員になって早めに結婚して子どもができて……、というフツーの幸せをいつも願っていました。
すがちゃん:高校は山形の私立高校に行ってたんですけれど、高2になると進路指導とかもあって人生どうする?ってなるじゃないですか。大学行くのか就職するのか、おおまかな人生のレールを考えないといけない。で、そのときになってみると、前は堅い仕事について早く結婚してって思っていたのに、そっちのほうが急に怖くなって。親父の血が強くなったんですかね……。
山形もあんなに好きで一生暮らそうと思っていたのに、急に出たいと思い始めて。
東京に来て家族のことを話してみたら、明るく笑い飛ばされた
――それで、東京の放送専門学校に通うことにしたんですよね。そこからですよね、家族のことを人に話せるようになったのは。
すがちゃん:山形にいたときは家族のことが恥ずかしかった。傷つくとかそういう感情はよくわからなかったから、恥ずかしいと思っていたんですよね。
でも、おもしろいやつらと知り合って家族の話になったんですけれど、みんな家庭が変というか、なにかしら難があって。うちよりエピソードが強かったり、そういうのをみんなで言い合ってゲラゲラ笑ったんですよね。自分の不幸な体験=おもしろい、みたいに。もちろんうちの話も大爆笑でした。道徳的にはどうかと思う内容でも、ずっと秘密にしてたとか、トラウマだったとひそかに思っていたことが、爆笑トークになるってことがめっちゃ新鮮でした。
すがちゃん:「なんだ、みんな家族のことで悩んでたのか」とか、「家族が変っていうのはうちだけじゃなかったんだ」とか。これまで「フツー」というのがうち以外、と思っていたんですけれど、意外にフツーじゃない家も多い、つまり自分のうちのこともそんなに隠すほどのことでもないんだと。
本当にいやだったこともエピソードトークにして爆笑してしまえばいいと思ったら気が楽になったんです。
父親がすがちゃんの「職場」に乱入、なにもかもバラされて
――さらにお父様がライブを観に来た時に「自分自身の恥ずかしい壁」をぶっ壊されたと著書にあります。
すがちゃん:芸人って、親に自分のネタ見られるのもいやだし、ライブに来るなんてめちゃめちゃいやなのに、いきなり来ちゃって。親父という存在も隠していたし、僕自身借金をしていたのもおおっぴらには人に言ってなかったんですよね。なのに、親父は自分のある種「職場」であるライブに勝手に入ってきてかき回すし、「お前の借金なんとかしろよ」ってみんなの前で言ってしまって。
隠しておきたいことが一気に露呈して、もうなんでもいいやって。なんにも恥ずかしいことはないなって思ったんです。
――その後、ぱーてぃーちゃんのおふたりにもお父様は会っているんですよね。
すがちゃん:会ってます。というか、自分が女の人と会いたいために、アシがほしくて、きょんちぃの車に乗せてもらうということで。「みんなで一緒にメシ食おう」と言うのはいいけれど、結局きょんちぃに女の人を家まで送らせて、親父もあっさり帰っちゃうし……。さすがにマグマが噴き出すくらい怒りがわきましたけれど(笑)、ふたりは最終的にゲラゲラ笑っちゃって。親父って本当にすごいですよね。「おもしろかったから」とか「楽しかったから」で許されてしまう。
あ、かかったお金はいつの間にか全部俺が払ってました(笑)。
家族は大なり小なり「変」。楽しく笑い飛ばせればいい
――今となっては破天荒なお父様のことも、キャラ濃いめの家族のことも好きになれていますか?
すがちゃん:いや、それはないです(笑)。俺はこの本で、家族を美化したいわけじゃないです。おもしろおかしく生きればいいんだってことを言いたいだけなので。この家族でよかったとは思っていないですよ。そりゃフツーがよかったです。もちろん個人個人には感謝はあるんですよ。親父にも。でも、家族という和になったときには最悪でしたから。
――唯一真面目だった叔母さんのかっちゃんは。
すがちゃん:かっちゃんは自己犠牲をして人に尽くし、まっすぐで生徒会長みたいな人でした。でも生徒会長なんで、悪いことは全部ダメだし、食べるものは無農薬のものしかダメだし、添加物は悪、みたいな。価値観の押しつけもあったし、相手がひどいことをするとかなり怒ることもあったので。国民が全員かっちゃんみたいだったら平和なのかもしれませんが、だれかが変なことをすると、一気に和があやしくなるから。
すがちゃん:やっぱり家族は、「こうじゃなきゃいけない」とか「こうやりなさい」じゃなくて、いいかげんでも変でも、笑い飛ばせるほうがいいな、とは思いますね。
すべてが幸せな家族もなかなかいない
――考えてみれば「まったく普通」「曇りのないほど明るい」家族なんてなかなかないですよね。読者のみなさんもご自身の家族について、人に言えない秘密があったり、人知れず苦しんだり悩んだりしている方がいるのではないかと思います。
すがちゃん:そうですね、僕も東京に来るまでは自分だけが特殊すぎるって思っていて…。たしかに特殊ではあるけれど、本当にすべてが幸せな家族ってなかなかないと思うんですよ。大なり小なり不幸はあるけれど、常に明日自分が笑えるような生き方をしてほしいなって思います。僕もそうやってきましたから。
芸人は自分の家庭や自分のこと、しょうもないこともネタにして笑かす。そうやって居場所を作ってきたというのもあります。みなさんも上手に笑い飛ばして、明るく生活できるといいですね。
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撮影/五十嵐美弥 取材・文/三輪泉