米中関係は激しい応酬が予想される
2024年11月、米国大統領選挙ではトランプ氏が7つの重要な州で勝利し、ハリス氏に大差をつけて圧勝しました。同時に行われた連邦議会選挙でも、共和党が上院と下院で多数派となり、トランプ次期大統領にとっては最高の結果だったと言えるでしょう。既に関係各国はトランプ次期政権の発足に向けて着々と準備を進めています。
一方、トランプ次期政権で最も注目されるのが、米中関係の行方です。トランプ次期政権が中国に対してどのように対応するのかに世界が注目しています。
これまでのところ、トランプ次期大統領は対中強硬派を外交・安全保障面で起用することを発表しており、米中関係は激しい応酬が予想されます。
国務長官には対中強硬派のマルコ・ルビオ上院議員が選ばれ、彼は新疆ウイグル自治区の人権問題や台湾防衛を重視しています。安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ下院議員が任命されており、中国海軍の軍備増強に対抗するため、米海軍の強化を訴えています。
中国は、トランプ氏の保護主義的な姿勢を非難
では、中国は今日どのようにトランプ次期政権に対応していくのでしょうか。
中国はトランプ次期政権の対中姿勢は既に織り込み済み。トランプ氏は政権1期目の時、対中貿易赤字を打開する目的で中国製品に高関税を課しましたが、中国も報復関税で応じ、両国間の貿易摩擦が激化しました。
来年以降、貿易摩擦は高い確率でエスカレートすることが考えられ、中国もトランプ次期政権が発動した関税制裁にはそれ相応の対抗措置を講じていくでしょう。
しかし、それだけではありません。中国はトランプ氏との第一ラウンドでの教訓から、中国ではなくむしろトランプ氏の保護主義的な姿勢が世界経済にとって脅威だと訴え、諸外国との関係を強化する姿勢に拍車をかけるかもしれません。
実際、習近平国家主席は11月にブラジルで開催されたG20首脳会議で、国際協力の重要性を強調し、保護主義に反対する立場を示しました。同首脳会議は米国大統領選後に開催されたことから、名指しはしなかったものの、トランプ氏を意識した発言と読み取れます。
中国はアメリカ以外の国との貿易関係に注力
新型コロナの感染拡大も影響し、今日の中国経済に以前のような勢いはなく、経済成長率の陰りや不動産バブルの崩壊、若年層の高い失業率など、経済的な課題が蓄積。中国政府は、この状況でトランプ次期政権による関税制裁に直面することに警戒しています。
トランプ次期政権のもとで米中経済を安定させることは難しいことから、今日の中国政府が考えることは、日本や欧州、グローバルサウス諸国との経済、貿易関係を最大限安定的なものにすることです。
トランプ次期政権の関税発動や保護主義的な政策は、中国だけでなく日本や欧州にとっても懸念事項であり、中国はトランプ次期政権の姿勢こそが自由貿易に対する脅威と内外に示すことで、自らに都合のよい国際環境づくりに徹することでしょう。
この記事のポイント
①トランプ次期大統領は対中強硬派を外交・安全保障面で起用し、米中の貿易摩擦は激しくなる見込み
②中国は、トランプ氏の保護主義的な姿勢は世界経済にとって脅威だと訴えている
③米中関係の好転が見込めない中国は、アメリカ以外の国との貿易でよい関係づくりに励むだろう
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。