チョコレートで虫歯はなりやすい?
チョコレートは基本的にカカオ、砂糖、乳成分などで構成されますが、虫歯の原因になるのはあくまでも砂糖です。
チョコレートの原料であるカカオマスの苦みを抑えたり、甘味を増して美味しくしたりするために砂糖が含まれますが、砂糖の主成分・スクロース(ショ糖)を原料に虫歯菌のミュータンス菌などの細菌が酸を産生し、石灰質の歯を溶かして虫歯ができます。
一方、チョコレートは温度にデリケートで、体温より低い30度前後の温度になると溶け始めて粘着性が生まれます。そのため、歯で噛み砕いた後も歯の表面にこびりついてなかなか離れません。また、チョコレートの中にナッツなどの固形物を含むと歯間などの隙間に残りやすく、歯磨きでも十分に取り除けない場合があります。
このようなケースでは、虫歯になるリスクは高まりますが、念入りな歯磨きによって虫歯を防ぐことは十分可能です。ですから、「チョコレートで虫歯になりやすい」というのは必ずしも真実ではないと言えるでしょう。
カカオには多彩な健康効果がある
カカオには体や歯・口などにさまざまなプラス面があるため、カカオ含有率が高いチョコレートは、以下の効果が期待できます。
1. 体の劣化を抑え、老化を予防する
カカオポリフェノールには強い抗酸化作用があり、老化やがんなどの要因となる活性酸素を分解して体を守る働きがあります。
2. 動脈硬化を予防し、血圧を低下させる
チョコレートに含まれる「フラバノール」は動脈硬化の進行を抑えるなど、血管機能を改善する効果が報告されています。
2006年にオランダの研究グループが報告した内容によると、470名の高齢男性を対象に、カカオを含む食品の血圧および血管疾病による死亡率への影響を調査しました。その結果、カカオ摂取量が増すと血圧が低下し、15年間の心血管死亡率は減少しました。
3. 精神を安定させ、リラックスに導く
仕事や勉強で疲れた時、ホッと一息入れたい時にチョコレートは効果的です。
チョコレートやココアの苦み成分であるテオブロミンはカフェインに似た分子構造のため類似の作用を持ち、集中力や思考力を高めるほか、疲労回復にも役立ちます。
また、覚醒作用が強いカフェインに対してテオブロミンは適度に気持ちを解きほぐすため、神経を鎮静させて精神のリラックスやストレス軽減をもたらします。
しかも、チョコレートの甘い香りはカカオ豆の発酵の過程で生まれますが、その香りにもリラックス効果があります。
チョコレートやココアは単なる菓子や加工食品と思われがちですが、カカオマスはポリフェノールなどの有効成分に加え、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛等のミネラル類や食物繊維といった身体にいい成分を含み、栄養バランスに優れた天然に近い食品です。
その他にもカカオには美容、便通、冷え症などに対する改善効果も報告されていますが、口の健康に対しても多くの効果が認められますので、詳しく見ていきましょう。
口の健康に対するチョコレートの効果
チョコレートは口から食べますから、カカオの効果が直接的に、かつ速やかに現れます。
1. 虫歯の予防・進行抑制
カカオポリフェノールには抗菌作用があり、ミュータンス菌にも有効です。
スウェーデンの研究グループが報告した内容によると、ハムスターの虫歯がココア粉末によって抑制されるかどうかを調べました。
この研究では、50%スクロースを含む虫歯誘発食を対照として、その20%をココア粉末に置換すると、虫歯の抑制率が84%にも及ぶことが明らかになりました。
また、ココア粉末の置換率を2%、5%、10%にすると、濃度が増すにつれて虫歯抑制率が上がることも判明しました(図1)。

さらに別の研究では、40%スクロースを含むミルクチョコレートが入った餌と、同条件のダークチョコレートが入った餌でハムスターを飼育すると、ダークチョコレートのほうが2倍を超える虫歯抑制率を示すことが明らかになりました(図2)。
この虫歯抑制率の差は、ココアの比率の違いによるものだと推測されます。

2. 歯周病の予防・進行抑制
ココアポリフェノールは歯周病菌であるPg菌やFn菌などの増殖を抑え、歯周病を予防する効果があることが報告されています。
また、カカオ豆抽出物は抗菌効果だけでなく、局所の活性酸素を減少させて歯周組織の破壊を防ぐ効果があることも分かっています。
3. 口臭の減少
カカオポリフェノールは口臭の原因となるメチルメルカプタンやVSCの産生を抑えます。VSCは主に歯周病菌が産生する揮発性硫黄化合物です。
▼関連記事はこちら

チョコレートの近年の動向と、美味しく効果的に食べる提案
近年、チョコレート市場で注目されるキーワードに「高カカオ」があります。特にカカオ含有率が70%以上のチョコレートは医学的に健康効果が証明され、健康志向の高まりとともに健康を気遣う大人が積極的に高カカオを食べるようになりました。
また、コロナ禍で新しい生活様式になり、家で間食(おやつ)を楽しむ人も増えました。
では、主に虫歯予防の観点からより良いチョコレートの食べ方を提案してみましょう。
ミルクチョコレートよりダークチョコレートを
ミルクチョコレートは全国チョコレート業公正取引協議会の規約によると、カカオ分を21%以上(そのうちカカオバターが18%以上)含むなどの条件を満たしたものです。
ミルクチョコレートはカカオマス由来の苦味や渋みがなく、口溶けがよく舌触りが滑らかなどの理由で人気ですが、ダークチョコレートに比べてカカオ含有量が少ないため、カカオによる虫歯予防効果などは弱まります。
甘さに配慮した商品を選ぶ
砂糖が少な目の商品を選ぶか、キシリトールのような虫歯にならない代用甘味料を使用した商品を選ぶように心掛けてください。(関連記事はこちら≪)
水やお茶を飲みながら食べ、食後は十分な歯磨きを
チョコレートが歯間などに粘着しないよう、適度に水分で洗い流しながら食べましょう。食後の丁寧な歯磨きは、もちろん必須です。
あらかじめ食べる量を決めておく
量を決めずに食べると、つい食べ過ぎてしまい、虫歯リスクが上がる可能性があります。あらかじめ量や回数を決めておきましょう。
子どもは3歳以降が望ましい
幼児のおやつは「第4の食事」とも呼ばれるほど大切な栄養源で、大人のおやつとは意味合いが違うので注意してください。
おやつ(捕食)は回数が増えると虫歯リスクが上がるだけでなく、日本小児歯科学会の研究報告で、3歳までに虫歯がある子どもは永久歯に生えかわっても虫歯になる確率が高いことが分かっています。
3歳までに甘い物を頻繁に口にする食習慣ができ上がると、なかなか変えることができず、虫歯になりやすくなります。おやつは野菜や果物などの自然な甘味を選び、なるべく早いうちから人工的な甘味を与えないように心掛けてください。
* * *
以上より、チョコレートを美味しく食べて、健康的に冬を乗り切りたいですね。
こちらの記事もチェック

記事執筆

島谷浩幸
参考資料:
・日本チョコレート・ココア協会ホームページ:チョコレート・ココア健康教室.
・Buijsse B et al: Cocoa intake, blood pressure, and cardiovascular mortality The Zutphen Elderly Study. Arch Intern Med 166(4); 411-417,2006.
・Stralfors A: Inhibition of hamster caries by cocoa: The effect of whole and defatted cocoa, and the absence of activity in cocoa fat. Arch Oral Biol 11, 149-161, 1966.
・Stralfors A: Inhibition of hamster caries by substances in chocolate. Arch Oral Biol 12, 959-962, 1967.
・(神奈川歯科大学)佐々木悠ほか:カカオ豆抽出物による歯周病の改善効果に関する基礎的研究.
・Gustafesson B et al: Acta Odontol Scand 11(3-4), 232-64, 1954.
・清水和正ほか:カカオポリフェノールのメチルメルカプタンに対する消臭効果.日本食品科学工学会誌48(4);238-245,2001.
・全国チョコレート業公正取引協議会:チョコレート類の表示に関する公正競争規約及び施行規則.