会食恐怖症とは
人前で食事を食べるのが「怖い」「不安」と感じるのが会食恐怖症です。食べているときに相手に見られていると、強い緊張感から食べ物を飲み込めなくなったり、吐き気を催したり、手が震えて食器をうまく扱えなくなったりします。
ここでは会食恐怖症の基本的な知識をチェックしましょう。
会食恐怖症は社交不安障害の一種
会食恐怖症は社交不安障害(SAD)の一種です。社交不安障害では、人と会話をする、大勢の人前に出るなど、社交的なシーンで恐怖や不安を強く感じます。
社交不安障害と会食恐怖症の違いは、恐怖や不安を感じるシーンの範囲です。社交不安障害が社交全般で恐怖や不安を感じるのに対して、会食恐怖症で恐怖や不安を感じるのは食事シーンに限られます。
食事以外の場では恐怖や不安を感じることなく人とコミュニケーションを取れるケースもあるでしょう。
きっかけは給食の完食指導
「人前で食事をするのが怖い」と感じ始めるきっかけで多いのは、給食の完食指導です。学校で「給食を残さず食べましょう」と言われ、全て食べきるまで休み時間になっても遊びに行けなかった、食べられないでいると怒られたなどの経験をすると、人前での食事が恐怖や不安につながります。
給食のたびに「全部食べないと」「絶対に残してはいけない」と緊張するため、さらに給食を食べにくくなることもあるようです。緊張感から食べ物を飲み込みにくくなったり、吐き気を感じたりもします。
学校給食の役割
学校給食は学習指導要領で特別活動の学級活動に位置付けられています。国語や算数などのように標準授業時数に含まれるものではありませんが、学校教育活動の一つです。
完食することは食べ物を無駄にしないという意味で教育につながりますが、単に完食することだけを伝えるのでは文部科学省の方針と合致しません。文部科学省が定めている学校給食の役割を見ていきましょう。
食文化や食料事情など各教科とのつながりを学ぶ
文部科学省の「食に関する指導の手引-第二次改訂版-」には、「自然の恩恵への感謝、食文化、食糧事情などについても各教科との関連を図りつつ指導を行うことが重要です」と記載されています。
食事はさまざまな教科とつながっています。例えば家庭科では食材の扱い方や食事の作り方を身に付け、社会ではどこでどのような食材を生産しているかを知り、理科では植物や生き物として食材の理解を深めていきます。
各教科と結び付けた指導により、子どもたちの興味を引き出すことも可能です。自分で食事を作ったり、食材についての知識が増えたりすると「苦手なメニューだけど食べてみよう」という気持ちを育むことにもつながるかもしれません。
健康に良い食事の取り方を身に付ける
給食は健康に良い食事の取り方を学ぶ場としても位置付けられています。
文部科学省の「食に関する指導の手引-第二次改訂版-」にも、小学校では「主体的に望ましい食習慣や食生活を実現しようとする態度を養います」、中学校では「健康な心身や充実した生活を意識して、主体的に適切な食習慣を形成する態度を育てます」という記載がある通りです。
栄養バランスの良い食事とはどのような組み合わせなのか、調理法の違いが健康にどのような影響を与えるか、などを知るきっかけを作り、自分の健康にプラスになる食事の取り方を学ぶことも給食の目的といえます。
楽しく食事をすることを学ぶ
食事は単に必要な栄養を取ることではありません。食事を楽しんだり、食事を通して人間関係を良くしていったりすることも大切です。
このことは文部科学省の「食に関する指導の手引-第二次改訂版-」に記載されている「食事を通して人間関係をより良くすることのよさや意義などを理解すること、給食の時間の楽しい食事の在り方や健康に良い食事のとり方などについて考え、改善を図って望ましい食習慣を形成するために判断し行動することができるようにすることが考えられます」に含まれています。
食事そのものを楽しく食べること、友達と同じものを食べておいしさ・楽しさを共有し良好な人間関係を築いていくこと、などを身に付けていくことも給食の目的の一つです。
出典:食に関する指導の手引-第二次改訂版-(平成31年3月)|文部科学省
会食恐怖症対策にはリラックスした食事時間
会食恐怖症への対策として有効なのは、食事時間をリラックスして過ごせるものにすることです。給食指導で無理やり食べさせたり、食べきることを強要したり、緊張感のある時間を過ごしたりすると、子どもが食事に恐怖や不安を感じるきっかけになります。
ここでは会食恐怖症対策に有効な、安心できる給食指導のポイントを紹介します。子どもがリラックスして食事を楽しめるよう、自宅でも意識するとよいでしょう。
「ひと口食べてみたら?」など優しく声掛け
子どもが苦手な食材や調理法のメニューのときには、優しい声掛けで促すのがポイントです。具体的には「ひと口食べてみたら?」「少しだけ挑戦してみない?」などと声掛けをするとよいでしょう。
「全部食べないと終われないよ」といった声掛けや、無理やり口に食事を入れて食べさせる行為は、子どもの恐怖や不安につながり、食事への拒否感が強まりかねません。
まずは少しだけでも食べられるよう促すことで、苦手意識を減らしていくとよいでしょう。
「チャレンジできて偉い!」と頑張りを認める
優しく声掛けをした結果、子どもがひと口でも食べられたときには、その頑張りを認めます。「チャレンジできて偉い!」「苦手なのに食べられてすごい!」というように、今できたことを褒めるのがポイントです。
「ひと口食べられたならもっと食べられるよ」と一気にハードルを上げるのは逆効果になりかねません。段階を踏んで一つずつできることを増やしていくと、無理なく食べられるようになっていくでしょう。
「食事が楽しい」と子どもが思える時間にする
子どもが「食事が楽しい」と思える時間にすることも重要です。きちんと食べているか、残していないか、と常に見られている環境では子どもの緊張感が高まってしまいます。
苦手な食材でも子どもがチャレンジしやすくなるよう、楽しい食事の時間を過ごしましょう。
まずは親自身がおいしく食事を楽しんでいる姿を見せることも大切です。子どもの食事に注目するあまり自分の食事が後回しになっていると感じるなら、自分の食事も大切にしましょう。
優しい声掛けと頑張りを認めることを意識しながら、食事時間ならではのコミュニケーションを楽しむことが、会食恐怖症対策につながります。
【まとめ】会食恐怖症対策は食事を楽しむことが重要
人前で食事をすることに恐怖や不安を感じる会食恐怖症は、給食での完食指導をきっかけに始まることがあるともいわれます。学校給食を会食恐怖症につなげないためには、食事は楽しい時間だということを示すとよいでしょう。
子どもが苦手で食べにくい食材やメニューは「ひと口だけ食べてみよう」といった優しい声掛けを行い、食べられたら「食べられて偉い!」と褒めます。親自身も食事を楽しんでいれば、子どもは自然と食事は楽しいものだと理解するでしょう。楽しい時間を過ごしながら、食べられるものや量を増やしていけます。
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構成・文/HugKum編集部