リニア中央新幹線の計画内容を確認
リニア中央新幹線の計画は50年ほど前から始まっています。どのような計画で進められているのかを、現状とともに見ていきましょう。
研究開始は1962年
磁石の吸引・反発の作用により車両を浮かせて推進する、リニアモーター推進浮上式鉄道の研究は1962年に始まっています。また中央新幹線が全国新幹線鉄道整備法に基づき「基本計画」に定められたのは1973年です。
リニア中央新幹線は、50年以上前から計画されていたことが分かります。JR東海が品川~名古屋間の工事実施計画について、国土交通省から認可を受けたのは2014年10月です。

まずは品川~名古屋間の工事を行い開業した後、名古屋~大阪間の工事に着手して、東京~大阪間の全線開業を目指す計画が立てられています。全線開業すると、東京~大阪間を約1時間で移動できるようになるそうです。
東京~名古屋間のルート
リニア中央新幹線は東京~名古屋間にある、東京都・神奈川県・山梨県・静岡県・長野県・岐阜県・愛知県を通るルートを設定しています。
このルート上に設ける駅は、品川駅・神奈川県駅(仮称)・山梨県駅(仮称)・長野県駅(仮称)・岐阜県駅(仮称)・名古屋駅の予定です。
2027年の開業予定は延期
東京~名古屋間の開業は、当初2027年に設定されていました。ただし着工の遅れが生じており、2034年以降にずれ込む見込みとなっています。
各地で工事の遅れや中断も発生しています。山梨県駅で地質が悪く設計に時間がかかる影響で工事の遅れが発生しているほか、長野県では資材運搬のモノレール同士での事故による工事の中断もありました。
2025年1月には岐阜県でリニア工事が起因の可能性が高いと見られる地盤沈下が確認されているとの報道もされています。
また東京~大阪間の全線開業は2045年の計画です。財政投融資により最大8年の前倒しが可能になったことから、早期開業が期待されています。
名古屋~大阪間は調査に着手
名古屋~大阪間では、東京~名古屋間の開業後に始まる予定の工事に向けて、三重県と奈良県でボーリング調査を開始しました。この調査でルートを絞り込み、駅の位置を選定していきます。
あわせてリニア中央新幹線によりどの程度環境に影響があるのかを明らかにする、環境影響評価にも着手しました。
リニア中央新幹線開業が延期された経緯
リニア中央新幹線の開業が2027年から2034年以降へ延期されたのは、静岡県の理解を得られず、品川~名古屋間で着工が遅れていることによるものです。開業延期の経緯についてあらましを解説します。

自然環境への3つの懸念
当初の計画通りにリニア中央新幹線の工事を進めると、以下に挙げる三つの自然環境への影響が懸念されています。
・大井川の水資源への影響
・南アルプスの生物多様性への影響
・トンネル発生土による南アルプスの環境への影響
これらの影響に対する対策をどのように行うのか、十分な対話が行われていないと判断されたことから、着工の遅れにつながっています。
現在は専門部会で対話中
2025年1月時点では、自然環境への三つの懸念について、地質構造・水資源専門部会と生物多様性専門部会でJR東海側と対話を進めている状況です。
主な項目として、自然環境への懸念を3分野9区分に整理し対話を続けていますが、現時点では着工のめどは付いていません。
リニア中央新幹線の開通で何が変わる?
リニア中央新幹線が全線開業すると、東京~大阪間が約1時間で移動できるようになります。東京~大阪間の移動が、東京から神奈川・千葉・埼玉への移動と同程度の手軽さになる見込みです。
これにより国内有数の大都市である東京・名古屋・大阪が一体化して、一つの大都市のように機能することをスーパー・メガリージョンといいます。
このスーパー・メガリージョンの形成によって、私たちの暮らしや仕事はどのように変わっていくのでしょうか? 四つの変化について解説します。

1.働き方が変わる
これまでにない移動速度を実現するリニア中央新幹線が開業すると、通勤・通学にかかる時間の大幅な短縮が可能です。これまでであれば、勤務先や学校の近くへ引っ越していた人が、地方から大都市へ毎日通うようになることが予想されます。
また東京~大阪間を約1時間で移動できるようになれば、これまでは泊まりがけで出張していた場所へもすぐに出向けるようになるでしょう。実際に会うことのハードルが下がれば、新たなイノベーションが生まれる可能性もあります。
2.暮らし方が変わる
リニア中央新幹線により高速で移動できるようになれば、通勤や通学にかかる時間を大幅に短縮できます。立地によっては、都市近郊のベッドタウンに住むよりも、リニア中央新幹線の駅がある地方に住むほうが、通勤・通学時間が短くなるかもしれません。
地方に住む人が増えるほか、都市部と地方の両方に家を持ち定期的に行き来する二地域居住をする人も増加が見込まれています。
またこれまでは単身赴任や家族での引っ越しが必要となっていた転勤でも、今住んでいる地域から移動することなく対応できる可能性があります。遠方にあるからと転職を諦めていた企業に勤務できる可能性もあるでしょう。
希望の仕事やキャリアを選んだとしても、家族の暮らしに負担をかけずに済みます。
3.東海道新幹線がますます便利になる
現在、東京~大阪間の移動は東海道新幹線が中心的な役割を担っていますが、リニア中央新幹線が開業すると、その役割が移行する見込みです。これにより東海道新幹線の輸送力に余裕ができれば、ますます便利になっていくと考えられています。
国土交通省 鉄道局の「リニア中央新幹線の整備状況について」では、東海道新幹線に生まれる輸送力の余裕により、静岡県内の駅への停車回数が増える可能性が示されています。
スーパー・メガリージョンの形成に加え、東海道新幹線の利便性向上も、経済波及効果や雇用効果を生む見込みです。
4.災害リスクへの対応が変わる
リニア中央新幹線が開業すると、日本の東西を結ぶ交通網が、東海道新幹線・北陸新幹線・リニア中央新幹線の三重になります。これにより、南海トラフ地震や首都直下地震による東西断絶のリスク低減が実現可能です。
また高速での移動を可能にすることで、東京に一極集中している人口・企業・中枢機能の分散が進みやすくなりますし、首都機能のバックアップ体制の整備にもつながるでしょう。
出典:リニア中央新幹線の整備状況について|国土交通省 鉄道局
【まとめ】仕事や暮らしが変化するリニア中央新幹線

50年以上前から研究や計画が進められてきたリニア中央新幹線は、当初2027年に東京~名古屋間が開業する予定でした。2025年1月時点では、着工の遅れから開業は2034年以降とされています。
名古屋~大阪間の工事が始まるのは、東京~名古屋間の開業後です。全線開業が実現すれば、東京・名古屋・大阪が一つの大都市のように機能するスーパー・メガリージョンが形成されるでしょう。
高速移動により距離が課題とならなくなれば、私たちの暮らしや仕事の仕方は、より自由度の高いものになります。万が一の災害への備えも、より万全なものとなるでしょう。
工事の遅れや中断など課題も指摘されているリニア中央新幹線ですが、開業による経済や雇用への影響も期待されています。
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構成・文/HugKum編集部