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いろいろなスポーツを体験できる場を作りたい
――「TRIDA」を立ち上げた経緯について教えてください。
最初のきっかけは、アスリートの引退後のキャリアに選択肢が少ないことでした。アスリート自身が自分の価値を客観的に見ることができず「自分はスポーツしかできない」と思い込んでしまうことが多いんです。そんな中で「アスリートとファンがもっと自然に交流できる場を作れたらいいよね」という話も出てきました。
一方で、僕の周りの同年代や少し上の先輩たちが子どもを持ち始めて、「子どもにどんなスポーツを習わせたらいいか分からない」という話題があがるようになり、「いろいろなスポーツを体験できる場を作れたらいいな」という発想が出てきました。
そこで、スポーツだけではなく、芸術なども含めて「子どもの『好き』が見つかる体験プログラム」として「TRIDA」を立ち上げました。
――「未経験者向け」とのことですが、なぜ初心者向けのプログラムにされたのでしょうか?
「0から1を作る」という部分が大切だという想いからです。今、スポーツ未経験の人が増えてきています。今後、AIなどの技術が発展すると体を動かさなくても生きていける社会になってしまうかもしれません。でも、健康でいたいと思う気持ちは変わらないはずです。
大人になってからスポーツを始めることもできますが、小さな頃に経験していたほうが身体感覚が身につきやすい。子どもの時に体を動かす楽しさを実感できれば、余暇としてスポーツを楽しめる人が増えると思います。
スポーツに関わる人口が増えれば、試合を観に行こうと思う人や、子どもに習わせようと思う人も増えていく。しかし、子どもの頃にスポーツを嫌いになってしまうと、その後まったく関わらなくなってしまうんですよ。 だからこそ「TRIDA」では「楽しさ」を優先できるプログラムにしています。
オリンピックメダリストなど一流の講師陣
――講師はオリンピックメダリストなど日本を代表する一流の方々ですね。
子どもたちは、本物に出会う体験をすると、スポンジのように吸収していきます。「TRIDA」に何度も来てくれている子どもたちを見ると、目の輝きが違うなと感じていて、純粋な子どもたちに一生忘れられないような体験を作ってあげたいなと考えています。
一方、講師であるスポーツ選手も、普段はファンサービスの機会があまりなかったり、ファンに対する意識が高くなかったりするのですが、「子どもたちが喜んでくれて嬉しかった」「こちらも学びがありました」と言ってくれ、子どもたちだけでなく講師陣にも価値を提供できることを実感しています。
――さまざまなプログラムがありますが、これまで特に反響が大きかったものはありますか?

ひとつはトランポリンです。最初は怖くて飛べない子も多いんですが、少しずつ飛べるようになって、最終的には技ができるようになり自己成長を実感しやすいんです。できなかったことができるようになった子どもたちは、終了後も跳び続けるくらい熱中していました。
もうひとつ人気だったのは、パルクールですね。パルクールってまだ馴染みがないと思うんですけど、跳んだり走ったりする競技で、視覚的にもかっこよく、体操やダンスの要素もあります。終わった後に「通いたい!」と言ってくれた子もいました。

また、フェンシングではパリ・オリンピック金メダリストの飯村一輝選手が講師だったのですが、金メダルを見せてくれました。子どもたちはすごく盛り上がりましたね。
――パルクールやレーシングカートなど、マイナースポーツのプログラムも多いですね。
野球やサッカーなどのメジャースポーツはチャレンジできる環境が多くありますが、パルクールやフェンシングといったマイナースポーツは「どこで始めればいいのか?」と迷ってしまうことが多いですよね。ですから「TRIDA」ではマイナースポーツを積極的に取り入れています。
フェンシングに限らず、オリンピック競技の中にもマイナーなものがたくさんありますので、もっと広めていければと思います。
勝てるから好きになったフェンシング
――そもそも太田さんがフェンシングを始められたきっかけは何だったんですか?
僕の場合は、父親がフェンシングの経験者で、子どもにやらせたかったようです。 兄と姉がいるんですが、2人ともすぐに辞めてしまって、僕が最後の1人。「 フェンシングをやるなら、スーパーファミコンのソフトを2本買ってあげるぞ」と言われ、釣られました(笑)。
父親は小学3年生のこどもの日からフェンシングを始めさせると決めていたそうです。父は「1、2年生から始めると、幼すぎて遊びになってしまう。逆に5、6年生からでは遅い」という持論を持っていて。
確かに、競技によってスタート時期の適齢期は違います。卓球や体操のように幼少期から始めることが有利な競技もありますが、フェンシングは道具を扱う筋力が必要なため、3、4年生はちょうど良かったですね。
始めてみると父の熱量が高くて驚きました。それまでほかの習い事をしていたときは練習しなくても何も言われなかったんですが、フェンシングだけは初日から毎日練習で。最初のころは嫌すぎて、無意識に剣をベッドの中に隠してしまったくらいです(笑)。
半年くらいたった時、練習では勝てない相手に試合では勝てるようになってきて。「自分は本番に強いんだな」と自覚した瞬間に、意識がガラッと変わりました。急にやる気が出て、練習にも前向きに取り組むようになりました。勝てるから好き、という感覚だったので、フェンシング自体が楽しいと感じるようになったのは、20歳を過ぎてからですけど。
子どももひとりの人間。対等に接しています
――太田さんは1歳と5歳のお子さんがいらっしゃいますが、ご自身がフェンシングに出会えたように、お子さんたちにも「何か」に出会ってほしいという思いはありますか?
そうですね、それはすごくあります。上の子は、本人がやりたいと言うのでダンスを続けているのですが、僕はすごくいいと思っていて。ダンスって言葉がなくても世界中の人と一緒に楽しめるじゃないですか。将来、そういった経験をするきっかけになる習い事っていいなと思っています。
競技として「これをやらせたい」と思うことはないですが、子どもたちと一緒にアクティビティを楽しみたいという気持ちはあります。僕はスキーが好きなので、将来的には家族全員でスキーを楽しめたらいいですね。
去年、私と娘、そして父親と久々にスキーをしたんですが、3世代で同じスポーツを楽しめるのは素晴らしいと感じて。妻とは結婚当初から「家族はチームだ」という考えを共有しているのですが、家族で同じスポーツををすることで、家庭内のチームワークも良くなると思っています。
――子育てで心がけていることはありますか?
子育てに対する我が家の方針の一つに、「子どもをひとりの人間として接する」ということがあります。そのため、時には厳しいことも言いますが、子ども扱いしすぎないのが大きな方針かもしれません。娘は僕のコミュニティに参加するし、オリンピックの現場にも連れて行きました。
また、とにかく「あなたを心から愛しているよ」と伝えることを大切にしています。もちろん、僕らも人間なので子どもに叱ることもありますが、最終的に「自分は親に愛されて育った」と思ってもらえるようにと思っています。
スポーツや勉強で有名な大学に行くことよりも、親が最後まで味方でいてくれたと思えることのほうが大切かなと。子どもたちに「好きだよ」「愛してるよ」と言う回数は、一般的な家庭より多いかもしれません。
スポーツ習慣を根付かせ、社会貢献をしていきたい
――今後「TRIDA」で実現していきたいことはありますか?
今「TRIDA」では小学校3~6年生が対象ですが、「もっと小さい頃から幅広い経験をさせたい」というニーズもあることが分かってきたので、今後は年齢層に応じたスポーツ体験を用意していきたいと考えています。
また、今後はより多くの子どもたちにさまざまな体験をしてもらえるように、施設を持っている企業と組んで常設の施設で定期的に開催したり、特別なイベントを企画したり、より参加しやすい環境を作っていきたいと考えています。
僕らは、スポーツを通じて社会課題の解決を目指しています。高齢者の健康寿命を延ばすためにスポーツを習慣化させることができれば、寝たきりの期間を短縮できるかもしれません。将来的に、「TRIDA」を通じて社会への貢献ができたらいいなと思っています。
TRIDAのプログラムをHugKum読者が体験!
「TRIDA」では実際にどのようなプログラムが行われているのでしょうか。2025年2月に森永製菓inトレーニングラボで行われた空手道のプログラムを取材しました!

当日の講師は東京オリンピック空手形銀メダリストの清水希容さん。初めて体験するという子がほとんどのなか、道着の着方や挨拶の仕方から始まり、空手で大事な身体の軸の使い方についても丁寧に指導されていました。
参加したしゅうすけくん(小学校5年生)は最初は緊張の面持ちでしたが、体験が進むとともに真剣な表情に。お母さまもしゅうすけくんの目つきが変わってきたと驚いていました。

2時間の体験後半では、空手の基本の技となる突きの動作や蹴りの動作を体験。
しゅうすけくんは「だんだん気持ちも乗ってきてミット打ちの蹴りの動作が楽しかった。また機会があればやってみたい」と話してくれました。
体験のあとには清水さんの演武披露も。その迫力に子どもたちも釘付けでした。メダリストの実際の演武を間近で見るという貴重な体験は、子どもたちの忘れられない体験になるとともに、新たな可能性のきっかけになったかもしれません。
「TRIDA」の詳細はこちらをチェック≫
取材・文/酒井千佳 写真/五十嵐美弥(太田さんポートレート、インタビュー写真)