「うちの子宿題やらないんです…」が解消する! 脳科学に基づいた子どもの“やる気スイッチ”を入れる方法【親野智可等先生に訊く|前編】

新学期も半ば、そろそろ宿題の習慣をつけようと思っているご家庭や、なかなか習慣にならずに悪戦苦闘しているご家庭もあるかと思います。そこで、公立小学校で23年間教師を務め、現在は教育評論家として活躍している親野 智可等先生に、宿題にまつわるお悩みを質問してみました。
前編では、主に子どもが自ら進んで宿題に取り組める方法を教えていただきました。

宿題に取り組むタイミングは子どもに決めさせる!

各ご家庭の生活スタイルやお子さんの個性などにもよるので、一概に「このタイミングがベストです!」とは言えません。その子に合わせたタイミングを探りましょう。

帰宅直後にすぐやる子もいますが、ちょっとのんびりしてからやりたい子、夕食前にやる子、夕食の後にやる子などさまざまです。朝にやるのが好きな子もいます。面倒なことを先にやるタイプの子もいますし、好きなことを先にやりたい子(宿題を後回しにしたい子)もいます。それは生まれつきなので、無理のない時間帯がいつなのか、お子さんと話し合うようにするのがベスト。

宿題のはかどるタイミングは、お子さんによって違います。

ポイントは“子どもが決める”こと。

病院で患者さんの腕に注射をするときに「右腕にしますか? 左腕にしますか?」と聞いてから打つようにすると、患者さんの注射に対する意識が、自分で選んだことによってポジティブになると言う心理学の実験があります。それと同じで、宿題のタイミングもお子さんに選ばせることで、宿題に対してポジティブになりますよ。

そして、お子さんが「この時間にやりたい!」と言ったら、無理があるかな? と思っても、とりあえずはその時間にやらせてあげてください。一度決めてうまくいかなければ修正していけばいいのです。最初に決めたことは絶対と思わずに、お子さんと相談しながら試行錯誤してみてください。

やるべきことを“見える化”すると自己管理能力がUPします!

子どもが進んでできるようになるファーストステップは、やる時間を決めることですが、やるべきことを“見える化”させることも重要です。大人にはスケジュール帳やto doリストなどがありますが、子どもにはありません。

そこでおすすめなのが、家庭内時間割です。ホワイトボードなどにやることを書き出して、それを「いつ」やるのか可視化してあげてください。

家庭内時間割の例

やることを視覚化してあげると、見通しをつけた行動が取れるようになってきます。子どもたちは、大人と違って、明日学校へ行くまでの時間が膨大にあると思っているところがあります。時間感覚が全く違うので、やることを“見える化”し、自分でいつやるのか選ばせてあげましょう。

自分で宿題をやる時間を決めることは1年生からでもできます。子どもがなかなかできないのは、時間を扱うツールがないから。ホワイトボード以外にもカレンダーや手帳、スケジュール帳などでもOKです。時間を扱うツールを与えることで自己管理能力が育っていきますよ

子どもの集中力のカギは“安心感”! 場所にはこだわらない

宿題をやる場所も、お子さんによって集中できる場所が違います。ですが、低学年のお子さんの場合は、リビングのほうが安心を感じて集中しやすいのではないかと思います。子どもは大人と違って、一人でいると不安を感じる子が多いんです。不安感があると集中力は絶対に上がらないんです。

余裕があれば、お子さんの宿題を見てやれると◎。

ベランダでやりたい、今日は階段下でやりたいなど、大人の“ノマド”のように場所を変えてやりたいというお子さんもいます。高学年くらいになると勉強の中身によって変えたいという子も出てきますよ。

リビング学習の注意点は、明るさと椅子の高さ

リビングで勉強していて、兄弟で遊んだりケンカしたり、ついペットと遊んでしまったりなどはよくあることです。誘惑になるものや邪魔になるものが気になったら、移動式のパーテーションで区切ってみたり、リビングの一角にプライベートスペースを作ったりしてみてください。

学習デスクではない場所で勉強するときに注意してほしいのが、以下の2点。

①手元の明るさ
②椅子の高さ(姿勢)

学習デスクのメリットは、手元が明るく、お子さんに最適な椅子の高さに設定できることですが、場所によってはそれが難しい場合もあります。手元が暗いと集中力に影響しますし姿勢が悪くなってしまうので、お子さんがやりたい場所の手元の明るさや椅子の高さなどにも注意してあげてください。

手元の明るさと椅子の高さ(姿勢)に注意。

学習デスクは個人の確立に◎

リビングテーブルで学習しやすいよう開発された、文房具などを収納する移動式のカートなども多く販売されている時代です。学習デスクは絶対必要というわけでもありませんが、勉強する場所というよりパーソナルスペースの役割と捉えることもできます。

学習デスクではなくても、リビングの一角やお家の中のどこかに自分専用の場所を作ってあげるとよいと思います。好きなものを飾ったり趣味をやったりする場所としてパーソナルスペースがあると、精神的成長に寄与する部分があります。

宿題の“やる気スイッチON!”は『とりあえず準備方式』

子どもの”やる気スイッチ”を入れる方法として私のイチオシは、『とりあえず準備方式』です!

この方法は、玄関に広くて浅い箱を玄関に置いて、帰宅したらランドセルをひっくり返して全部出してもらいます。ランドセルの中には、当然宿題に必要なものが入っていますよね。それが外に出て見えるようになることで、手に取りやすい=取り組みやすくなるんです。ゴールに一歩でも近づいてから遊びに行く! 玄関に箱を準備して、「帰ってきたら、ランドセルの中のものをここに全部出しておいて!」とお子さんに伝えてみましょう。

できそうなら、その中から宿題に必要なものをピックアップして、テーブルの上に出しておくことをおすすめします。お子さんには無理そうだったら、大人が手伝ってあげても構いません。

さらに可能であれば、遊びに行く前に「漢字1文字だけ書こう」「算数1問だけやろう」と、声をかけてください。1文字書いたり、1問やったりするときに自然と宿題の全体(量)を把握でき、大体これくらいだなという見通しがつきます。そうしておくことで、遊びに行って帰ってきたときに、取り組む心理的ハードルがグッと下がるんです(見通しがあるから)。

学校から帰ってきたら、ランドセルの中身を全部出しておく。宿題をピックアップできたらゴールは近い。

ただし、「ついでにあれもこれもやっちゃいな!」は禁句です。子どもが自分から進んで次々に宿題を進めるならばいいのですが、強制的にやらせようとすると次に宿題をやるときに、「また前のように他の問題もやらされる」と思って拒否してしまうんですよね。つい言いたくなるセリフは封印しましょう。

東京大学の教授 池谷裕二先生(脳科学者)は、「やる気スイッチというのは、やりはじめると入る」と言います。脳科学的には、脳の線条体とか側坐核など、脳の奥の方にある部分が“やる気スイッチ”を司っているそうで、そこがどういうときにスイッチが入るかというと“リトルサクセス”を感じたときです。

「漢字を1文字書いた」「算数プリントを1問やった」=リトルサクセスです。たったそれだけでやる気スイッチが入るんです! ですから、大切なことは最初の一歩のハードルを極力下げてあげることです。そうするとスムーズに学習に取り組みやすくなっていきますよ。

もっと言えば、漢字の書き取りだったら1文字ではなくて「1画だけ書こう!」でもいい。算数プリントだったら、1問とは言わず、「名前だけ書こう!」でもいいんです。心理学的にも慣性の法則というものがあって、一度はじめるとこのまま進めたくなる心理も働くので、とりあえず少しやってみることです。 もちろん「ついでにやっちゃいな!」とは言わないように気をつけましょう。

子どもは条件反射で動く! 好きな音楽を合図に

アレクサなどのスマートスピーカーをうまく使って、宿題開始の合図に。

私の教え子で、ある時間になるとオルゴールの音楽が流れるご家庭がありました。その子は、オルゴールの音楽が大好きで、その曲が流れると勉強をすると決めていたそうで、さっと机に向かっていました。毎日決まった時刻に決まった音楽を聞いて、決まった行動をするという、条件反射をうまく活用した方法です。

今は、便利なスマートスピーカー(アレクサなど)と呼ばれる便利なツールがあります。人から言われて始めるよりも、お子さん自身がはじめる時間を決めて取り組むことで前向きに捉えることができますよ。

 *   *   *

いかがでしたか? 大人もタスク管理をしたりスケジュールを立てたりして見通しを作り、とりあえずやりはじめることでエンジンがかかってきますよね。お子さんにもスケジュールやタスク管理ができるツールを用意し、はじめられるサポートをしてみましょう。

後編では、苦手な宿題への具体的な取り組み方についてお話しを伺ってみました。

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お話を聞いたのは

親野 智可等先生 教育評論家

教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。InstagramThreadsX、YouTube、メールマガジンなどで発信中。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。『子育て365日』(ダイヤモンド社)、『「自分でグングン伸びる子」が育つ親の習慣』(PHP研究所・Kindle版)など、著書も大人気。公式ホームページ「親力」

文・構成/鬼石有紀

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