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夏休みに家で挑戦!喫茶店シミュレーション
大塚善示さんの自由研究「喫茶店シミュレーション」は、家庭内で実際に喫茶店を経営してみるというユニークな取り組み。
お店の名前は、善示さんが大の鳥好きということで「喫茶人鳥」(きっさぺんぎん)です。
インタビュー当日、大塚さん親子が持参してくれたのは、お店のメニューで出していたというお菓子の数々。

お店のロゴをあしらったパッケージへのこだわりからも、 「喫茶人鳥」への愛着が伝わってきます。
きっかけは、お父さんから言われてうれしかった一言
ーーどうして喫茶店をやってみようと思ったのですか?
善示さん:家族のためにコーヒーを入れたときに「お店で出せそうだね」と褒められたことがあったので、お父さんにコーヒーを淹れて売ることを思いつきました。自由研究のテーマにすれば、商売のことを学べて、お小遣い稼ぎにもなって、一石二鳥だと思ったからです。
僕は普段から“ごっこ遊び”が好きなんです。架空の国を想像して地図を書いたり、その国の憲法や通貨を作ったり、宇宙開発をしたり。自分の作っている国や世界の中でよりリアルに再現することが楽しくて。今回の喫茶店もその延長のひとつです。

お店の開き方を学び、力を入れた開店前の準備
ーー喫茶店も、上で見せてくれた「架空の国」も、かなり本格的なごっこ遊びですね。善示さんが喫茶店をやるうえで、いちばんこだわったことはなんですか?
善示さん:楽をしてたくさん儲けることです。そのために、飲み物や食べ物の原価や市場価格を調べて、利益がちゃんと出るように価格設定をしました。それから、できるだけ簡単に提供できるメニューを考えました。
ーーいいこだわりですね。簡単なメニューとはいえ、種類が豊富でどれもおいしそうでした!

善示さん:おいしそうに見えるように、食べるときの目線を意識して写真を撮りました。メニューの視察に行ったカフェでシナモントーストを食べたらおいしかったので、これなら自分でもできると思ってメニューに入れたりしました。

もともとコーヒーはお父さんが淹れるのを見て、おもしろそうだと思ってやり方を教えてもらっていたんです。淹れる作業は楽しくて好きなんですが、実は仕事になるとちょっと大変だなと思ってしまいました……。
ーー正直ですね(笑)。価格の設定や仕入れ値、儲けなども細かく計算して表にまとめていて、目を見張るものがありました。まとめ方で参考にしたものなどはありますか?

善示さん:本当に店を出すために必要なことを調べて、それを家でどう再現すればいいか、方法を考えようと思いました。そのために、まずは図書館へ行って、カフェの開き方の本を読みました。それから、本を借りたときに図書館の人に教えてもらったサイト「J -Net21」がとても役立ったと思います。
ーーお店の支払いには架空の通貨を使っていましたね。それはなぜですか?
善示さん:現金のやりとりは生々しいかも?と思ったのと、いつもごっこ遊びでは架空のお金を作るのに慣れていたので、いつも通りという感じです。キッザニアのキッゾみたいなおもちゃのお金を作って、最終的には儲けを日本円に換算するのが、外国為替取引みたいなのでやってみたかったというのもあります。
基本は、1円=1N(Nは、善示さん考案の単位)だけど、儲けすぎたり赤字になったりした場合には、銀行役のお父さんがレートを調整できるようにしとこうと言われていました。目標は6,000円の利益を出すことでしたが、終わってみたら、12,677Nと予想以上に儲けました。その結果、お父さん銀行のレートが少し厳しくなり、100N=97円のレートで換金になりました。
喫茶店経営の難しさを痛感
ーーレートが厳しかったとはいえ、だいぶ儲かりましたね!実際に喫茶店をやってみて、難しいと思ったのはどんなことですか?

善示さん:飲み物とフードを同時に出すのに苦労しました。ひとりで手際よくできないことに気づき、途中からお母さんを従業員として雇うことにしました。人件費はかかりますが強力なサポートを得られました。
もうひとつ難しかったのは、毎日来るお客さん(お父さん)が途中でメニューに飽きてしまったことです。開店したのが夏だったので、かき氷を作ったり、和菓子と洋菓子をミックスしたスペシャルメニューを急きょ追加したりして対応しました。店の都合だけでメニューを決めるのではなく、お客さんの要望を聞いてメニューを作る必要があることにも気づきました。
あとは、お母さんからお金の計算に計算機を使うなと言われたので、その計算が大変で難しかったです。
ーー喫茶店経営には算数も必要だったわけですね。お店を経営をして、資本主義を考えるというのが研究のテーマでしたが、実際に体験して資本主義にはどんな課題があると思いましたか?

善示さん:喫茶店をやってみて、儲かる商品は、市場原理主義に基づいて作られることを実感しました。でも売れないものが不必要なわけでもない。例えば、大多数の健康な人は使わないけど、体が不自由な人だけが使うものは売れなくても絶対に必要です。それに、売れるものばかりの世界になってしまったら、みんなが同じものを使っていてつまらないとも思いました。
それから、儲かることはうれしかったですが、儲け続けるには工夫し続けなければならないということもわかりました。永遠に成長し続けるのは難しいし、競争にも勝って生き残らなければならないからしんどいと思います。
ーー自由研究には、他にも、自由に仕事を選んだ結果、農業など人々が生きていくために不可欠な仕事をする人が減ってしまうことや家事や子育てなどお金にならない仕事をしたくない人が増えてしまうことへの危機感がしっかりと文章で表現されていました。また、資本主義の本を読んで、労働者ではなく資本家ばかりに富が集中して貧富の差が出ることなどが、資本主義の課題として書かれていました。
将来の夢とやってみたいこと
ーー将来の夢やこれからやってみたいことはありますか?

善示さん:今ははっきりと職業としての夢はまだないのですが、ミリタリーや鳥、社会の政治経済の分野に特に興味があります。それから宇宙、古代文明、歴史なども好きなので、調べたり描いたりしたいです。好きなことをして、災害や飢えなどにも遭わず、最後の一日まで健康に生きたいです。
これからも、興味を持ったことは、ジャンルを問わず、楽しんでどんどんやっていきたいです。
小学3年生で取り組んだ自由研究も実はペンギンだった!

今回のインタビューで、善示さんの過去の自由研究についても見せてもらいました。実は、一年前の研究テーマは「ペンギン」。

このときは「理想のペンギン館」をつくるという設定で、どんなペンギンを住まわせたいか、どんな配置の館にするかなど、実際にペンギン館を開くなら、という設定で考え抜いた作品でした。
お母さんに聞いた、子どもの興味に寄り添う自由研究のサポート法

「喫茶人鳥」の開店は夏休み中の約2週間。家族全員のイベントとして一緒に楽しんだという善示さんのお母さん。具体的にどのようなサポートをされたのか、お話を聞きました。
ーーお子さんの自由研究で「やってみたい!」という気持ちを具体的にどのようにサポートされましたか?
お母さん:親は相談相手に徹するようにしました。「喫茶店をやってみたい」というふわっとした考えが、本人の中で具体的になるよう「喫茶店を開くには何が必要かな?」「実際のお店ではどのくらいの価格なんだろうね?」など、相談のたびに質問を繰り返しました。
それから、喫茶店を開くには決めることがたくさんあったのですが、大人が口出ししすぎずに、最終的に判断するのは本人になるように心がけました。ネットでも簡単に調べられる時代ですが、図書館で「カフェの開き方」の本を探したり、実際のカフェに出かけて視察に行こうと提案したりもしました。
ーー30枚におよぶレポートはとてもよく書けていて驚きました。研究をまとめる際にはどのようなアドバイスを送りましたか?
お母さん:例えば、値段を決定する際に、何を分析するとよいか相談に乗ったりしました。ドリンク、トースト、デザート、スナック、スペシャルの5種類の売り上げの割合を一目で見ることができるようにしたい、という相談があったので、スプレッドシートでグラフを作ることができることを教えたりもしましたね。
あとは、資本主義についてや感想などの文章はなるべく訂正しないようにしました。うまい文章を書くより本人の考えたこと、今感じる気持ちや勢いを大事にしたいと思ったからです。
ーー善示さんに取材をさせてもらって、とても受け答えがしっかりされていると感じました。普段はどんなお子さんですか。
お母さん:いろいろなことを疑問に思うようで「知りたい」という気持ちが強いです。観察したり、調べたり、話し合うのが好きですね。ただ「めんどい」と言いがちなのですが、私からすると船や宇宙ステーションの絵の細部を描くのは面倒なのでは、と思いますけど、そこは好きという気持ちが勝って頑張れるようです。
本人も話していましたが、常に何か設定を作って、その設定のなかでの生活を家庭の中で楽しんでいます。いわゆるごっこ遊びの延長なのですが、設定を描くのが趣味で、とことんやってみたい性分。親もそれを一緒に楽しみながら見守っている感じです。
子どもを子ども扱いしない親子関係が興味や好奇心を育てる

今回、大塚さん親子にお話を聞いて印象的だったのが、お母さんが善示さんを子ども扱いしていないことでした。必要以上に手を貸すことなく、子どもから相談されたら考えを伝える。また、答えではなく方法や選択肢を提案して、体験と経験につながるよう導く。このような子育ては、意外に難しいものですよね。
「喫茶店は家族のイベントとして楽しみました」というお母さんの言葉に、善示さんもうれしそうでした。大塚さん親子のように、親も一緒に楽しみながら子どもの興味や好奇心を育んでいきたいですね。
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文・構成/HugKum編集部