【50歳で東大合格した主婦のその後】現在63歳にして再び大学に通い、クラブ活動も謳歌! 塾経営の傍ら、今後果たしたい究極の目標とは?

次男の東大受験のタイミングで「自分も」と猛勉強をして見事東大合格を果たした安政真弓さん。当時は「50歳の主婦が東大に」と話題になりました。63歳になった今、一段落してゆっくりされているのかと思えば、とんでもない! ますます精力的にたくさんのことに取り組んでいます。その年齢を超えたパワーに触れていると、私たちも元気になってきますよ! ぜひ安政さんの「今」について読んでみてください!

月1万円余の東大の寮で4年間暮らす。食事はほぼ学食

――安政さんはかつて10代のときに2浪して東大を受けて不合格、その後主婦になり、浪人中の息子さんが東大を受けるタイミングで文科三類を受験して合格されたのですよね。当時50歳でした。姫路市在住ですが、ご家族と離れて4年間上京されたのですか?

姫路を離れていたのは留学も含めて5年間です。合格後、上京しましたが、お金はかけられないので、東大の寮に入りました。家賃がすごく安いですから。13,000円くらいだったと記憶しています。 私は教養学部卒で、4年間駒場のキャンパスだったので、4年間、同じ寮で暮らしていました。食事は学食でまかなって、生活費を極力抑えていました。

東京での生活費には奨学金を借りました。全部で500万円。利子がつく分と無利子の分とあったのですが、利子がつくものは早めに返して、利子がつかない分は入学後13年たった今も返しています。

我が家では長男も次男も学費や生活費は一部奨学金に頼りました。それぞれが返すことにしましたから、私は自分の奨学金だけ返済しています。もうだいぶ返済も少なくなり、今はラクですね。

東大で思う存分、語学を勉強できる幸せにひたる

――大学時代に楽しかったことは?

よけいなことを考えずに勉強ができることですね。10代で大学に入ると、やれサークルだ、合コンだとかあって、だれかと付き合わないと大学生として乗り遅れる、みたいな焦らないといけない感じもあって。恋愛して就職とどう折り合いをつけるか悩んでいる女性も多くて、めんどくさそうだなぁと思っていました。

そんな「大学生らしくする」ことによけいな気を遣わないのが、この年齢で入学することのいいところです。なにしろ好きな勉強をするためだけに入学したので、勉強に没頭しようと決めていました

語学が大好きな自分にぴったりの「イタリア地中海研究コース」に進む

私は語学が好きなので、早稲田ではフランス語を学び、その後もフランス語検定1級をとりました。が、ちょうど2012年、私が入学した年に、東大では教養学部地域文化研究として、「イタリア地中海研究コース」っていうのが新設されることに決まったんですね。ギリシア、ラテン、イタリアといった地中海周辺の文化や歴史についても大きな関心を持っていたので、3年で専門の後期課程に入るときに選択しました。

安政さんが今も使っているラテン語の教科書

究極の目的はギリシア語やラテン語

若かりし頃の早稲田時代にもイタリア語を勉強しようとしたのですが、当時はいいイタリア語の辞書がなくて中途半端になってしまいました。その後イタリアブームが起こったときに、張り切ってイタリア語の勉強を再開したんです。でも、実は私の究極の目的はギリシア語やラテン語。「イタリア地中海研究コース」では、イタリア語やイタリア文化だけでなく、ギリシア語やラテン語も勉強できる、というのが大きな魅力でした。どちらの言語も独学で勉強するには少し大変なので、ありがたかったですね。東大ではインド古代語のサンスクリットなんかも勉強したんですよ。

夢だった留学も叶った

あと、私にはひとつだけ夢がありまして、「留学したい」と。東大には交換留学の制度があるというので応募して、フランスのストラスブール大学に1年間留学しました。勉強するためにも一番言葉が通じるのはフランスだと思ったんです。

留学中に遊びにきてくれた息子たちとドイツにも(安政さんFacebookより)

――語学に集中して勉強されたのですね。すごいです……。

ただ、苦手なものもたくさんあるんですよ。SNSが苦手、パソコンも苦手……。当時は携帯電話もガラケーでした。東大に入学したら学生の登録でもなんでもパソコンを使うので、ちょっとは慣れましたけれど。

2012年に入学、留学したので卒業は2017年でした。本当はその後も大学院に行きたかったのですが、そうなるとずっと院生を続けそうで。夫が「そろそろ帰ってきて」と言うので、よいタイミングかと思い、姫路に戻って独学で語学を勉強しながら、また塾の講師を続けています。

60歳を過ぎてもやりたいことだらけ! 塾経営、美術、語学の三刀流!

――では、今は比較的ゆっくりとお暮らしですか?

いやいや、忙しいんですよ! もともとやっていた塾は、自分が受験に合格したことによって、ますます身近に、そして熱意をもって取り組んでいまして。高校受験専門塾なので、塾生全員を第一志望の高校に受かるようにとミッションを掲げています。しかも、せっかくだったらひとつ上を狙ってそこへ行こう、と。少人数の塾なので、家庭教師的な個別対応ができるんですね、3学年あわせて10人超えることはめったにないので、きめ細かく教えてゴールを目指します。

安政さんの塾に通う生徒からの合格の声。美術などの副教科の支援もあって、ありがたいと評判

兵庫県の高校入試は内申点のウエイトが高く、とりわけ副教科重視です。なので、学校の定期テスト対策も十分にやりますし、副教科の内申点も可能な限りよくしようと。音楽や美術が苦手だと姫路市では1番や2番の学校に入りにくいので、夏休みには美術の指導もしています。

現在は姫路市の大学で木彫を学び、カメラや水墨画にもチャレンジ中

というのも、私は若い頃から美術が好きで、自分でも絵を描いたり陶芸をやったりしていました。姫路市には「好古学園大学校」がありまして、学習意欲の旺盛な60歳以上を対象に、市外の人にも門戸を開放する学びの場なんですよね。この大学校に入学しまして、今、木彫科の3年生ですクラブ活動もあるので、カメラと水墨画のクラブにはいっています。木彫と水墨画はまだまだなのですが、公募展には油絵と陶芸と写真作品を出しています。

超多忙な安政さんの手帳から。ずっと使っているという手帳でスケジュールを管理しています

語学については、ギリシア語とラテン語の勉強を独学で続けています。どちらも外国で出版された原語の教科書を翻訳しています。いつか勉強したい人の役に立つんじゃないかと思いましてね、形に残しておこうかなと思っています。目標を立てるのが好きなので、65歳までに週何ページと決めて、東大受験のときと同じタイプの手帳を使い、勉強の管理をしています

年齢なんて関係ない。好きなことを極めれば人生は楽しい

――のんびりしている暇はないんですね。

はい、時間がいくらあっても足りないです。本当はスポーツ観戦もすごく好きなんですが、いろいろ手を出すと語学も美術もできなくなるので、例えばサッカーに手を出すのはやめて、もともと好きだった体操と野球とフィギュアスケートをテレビで楽しむだけにしています。かつては音楽や書道もやっていました。音楽は、高校時代はブラスバンド部、早稲田大学時代は混声合唱団に所属し、子育て時代はPTAコーラス。書道は、子育て時代に次男と一緒に習いました。私は下手ですが、一緒に東大受験に挑戦した次男はなかなかの腕だったんですよ。

稲美町美術展で入選した作品。愛猫と次男を偲んで描いたそう(安政真弓さんInstagramより)

実は、次男は4年前、山で遭難して亡くなりました。彼が行方不明だった時期に絶望の中で油絵を再開したんです。当時は次男の生存への祈りを込めて、今は次男を偲んで、もっぱら次男を描いています

次男の書道作品をたくさん残しているので、彼の遺作と自分の描いた絵を組み合わせて親子展もやりたいなと思っています。次男は早稲田大学在学中に「早稲田大学書道会」に所属していました。その仲間たちももし開催するならぜひ観に行きたいと言ってくださっています。

――年齢を重ねるごとにパワーアップされているような。

といいますか、年齢なんて関係ないですよね。何歳になっても新しいことは始められると思います。「働いているから、子育てしているから時間がない」と追い詰められているときこそ、何か始めたらすごい息抜きになるし、達成感もあります。

「自分の好きなことばかりしているのは……」なんて躊躇しなくていいんじゃないですか。私も東大に行きたいという思いで勉強し、合格したから、こうやってメディアに出て本も出版することができた。私の姿を見た昔の友達が「刺激を受けた」と言ってくれて、大学院で一生懸命に研究して論文を書いて博士号を取ったんですよ。

―― 63歳にしてこのパワー! 子育てから解放されているとはいえ、仕事をしながら自分の「好き」を全うし続けています。みなさんも仕事も趣味も全力投球されたら、きっと人生がもっと楽しくなるのではないでしょうか。「もう歳だし」「子どもがいるからできない」などと言わず、自分の好きなことを少しずつ続けていきたいですね

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お話を伺ったのは

安政真弓(やすまさまゆみ) 塾講師

1962年、兵庫県姫路市出身。2浪の末に挑んだ東大に落ち、早稲田大第一文学部へ進学。卒業後に地元で結婚、専業主婦となったが、次男の中学進学を機に学習塾「安政ゼミナール」を開業。2012年に東大へ進み、教養学部教養学科・地域文化研究分科イタリア地中海研究コース専攻。在学中には仏・ストラスブール大へ1年間留学も果たした。著書に「普通の主婦だった私が50歳で東大に合格した夢をかなえる勉強法」(朝日新聞出版刊)

Instagram @yasuzemi

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取材・文/三輪泉

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