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友だちとのトラブルを保護者に相談されたとき、先生は…!?
新しいクラスになって、担任がもっとも気を使うのは、やはり子どもたち同士の人間関係です。「AさんとBさんはいつもふざけているな」とか、「CさんとDさんはすぐに揉めてしまうな」とか、「Eさんはいつもクラスの中心にいるな」といったことは、なるべく把握するようにしています。
そんな中で、放っておくとまずいかもと思えるようなこと、例えば、AさんがBさんに対して、ほかの子に対するよりも強い口調になっているなと感じたら、2人ができるだけ関わらないように配慮することもあります。物理的に距離が取れるように席を遠ざけてみたり、グループ授業で違うグループにしてみたり、役割が重ならないようにしてみたりなど手だてを打ちます。あるいは、どうしても顔を合わせなくてはいけない場合は、私の目の行き届くようにするなど、とにかく深刻な状況に陥る前に回避できるような対策を講じます。
こうした手だてを行わなければ、子どもの行動はエスカレートし、いじめへと発展しかねません。いじめはほんの些細なことからでも起こり得ます。深刻なトラブルは、起きてから対処していては手遅れになってしまうこともあるのです。
しかし、100%そうするかといえば、そうではありません。回避するだけが指導ではないし、子どもたち同士の関係で乗り越えていくことも必要だからです。注意することは、いじめに発展したり、被害者が増えたりすることです。そうならない手だてを考えて、実行します。

家での子どもの様子を見て
とはいえ、1クラス最大35人に対して、先生は1人。どんなにがんばって子どもたちを見ていても、見きれない部分はどうしても出てきてしまいます。それは、どんなに優秀な先生でも同じです。
そこで、保護者の方にお願いです。おうちで「おかしいな」と感じたら、「何かあった?」などと声をかけてみてください。話してくれるなら話を聞き、先生に相談したほうがいいと判断すれば、迷わず相談してもいいと思います。
クラス内でのトラブルは、当人同士だけで済まないことがあり、ほかの子にまで影響を及ぼすこともあります。ですから、先生は保護者から相談を受けたことで、当事者たちに視点が向きますし、問題の解決と関係づくりに力を注げるようになります。さらには、先生自身の視野も広がるので、保護者から言っていただくことは、教師の立場として大変ありがたいしうれしいことでもあるのです。
子どもの話の中から、事実だけを見極め、先生に伝えることが重要

子どもは保護者に伝える際、自分にとって都合の悪い事柄は伝えない傾向にあります。また、語尾や口調で自分を守ろうとするし、自分をよく見せたい意図ももっています。これは子どもの防衛本能が働くからで、親に「叱られたくない」「褒められたい」という気持ちがそうさせるのであり、どの子にも備わっているものです。
ですから、子どもから聞いたことを、すべて鵜呑みにしないこと。子どもの話を「そうなんだ」と受け止めることは親としてもちろん大切なことですが、一方で客観的に見る目も必要です。子どもの語尾や口調に惑わされず、いかに事実だけを抜き出すかが大きなポイントになります。
例えば、子どもから「Aさんに叩かれた」と聞いたとします。
「何回叩かれたの?」「2回」
「どこを叩かれたの?」「ここ」
「どうやって叩かれたの? 同じようにお母さんを叩いてみて」
「肩をドンって押されたのね。2回って言ったけど、両手でドンと押されたのね」
「ドンと押されたとき、何か言われたの? 同じように言ってみて」
「それじゃ、なぜAさんは、あなたをドンと押しちゃったんだろう。あなたはそのとき、どうしていたの?」
このように、そのときのことを子どもに細かく尋ねながら検証していくと、感情的なことは削ぎ落とされ、事実だけが浮き出てきます。
「それなら、肩をドンと押されたことは事実なんだね」と、抜き取った事実をもとに先生に相談するとよいでしょう。そうすれば、先生は感情を除いた事実をもって、さらに当人たちに詳しい話を聞くことができるのです。
先生に相談する前に、まずは連絡帳などでアポ取りをしよう!
先生とコミュニケーションをとる方法としては、連絡帳、電話、対面です。相談する内容にもよりますが、特に人間関係のトラブルでしたら、やはり先生と対面で相談するのがよいでしょう。というのも、保護者側の熱量やもっとも問題としているところなどが、すぐに先生に伝わりますし、どうしたらよいか具体的に話し合うことができるからです。もちろん、対面だと話しにくいという場合は、電話でも構いません。

先生と会って話したい場合は、まずアポイントを取りましょう。アポイントは急ぎでなければ、連絡帳を使うとよいでしょう。連絡帳に「相談したいことがあるので、お時間をいただけますか」と簡潔に書くのがポイント。加えて、希望日時をいくつか挙げる、対面または電話など、具体的な希望があれば添えておきましょう。
人間関係のトラブルでは、個人名が出てくることがありますね。子どもが読んでしまうことがあるので、連絡帳にはアポイントの用件のみでとどめておきましょう。
急ぎの相談でしたら、放課後の時間帯に電話しても構いません。ただ、先生側の状況によっては電話に出られない場合もあります。
要望は「提案」としてお願いしてみよう
例えば、AくんとBくんは顔を合わせるたびに、お互いにやり合ってケンカへと発展してしまったとします。にもかかわらず、Aくんの保護者は学校にやってきて、「うちの子は被害者なので、Bくんの席を離してほしい」と一方的に要望する。このような保護者は少ないものの、ときどき見受けられます。
子ども同士がお互いにやり合っているにもかかわらず、Aくんの保護者は、Bくんが悪いと思っている。実際は、Bくんだけが悪いわけではないので、先生はAくんの保護者の要望を「わかりました」と受け入れることはできません。席を離すだけでは、なんの解決にもならないからです。

もっとも、ちゃんとした理由があれば、引き離すことも一つの案として考えますし、両者の話を聞いて判断することはできます。先にも述べましたが、子どもの話を鵜呑みにせず、事実をしっかりと聞き取ることが大切です。その結果として、「こうした方がいいのでは」といった案があれば、先生に「期限付きの提案」をしてみるとよいでしょう。
「うちの子とBくんの席が近すぎるということはありませんか。しばらく席を離して様子を見てはどうでしょう」と提案すれば、先生もなるほどと聞き入れやすくなるのかなと思います。事実がはっきりしていれば、原因も突き止めやすいですし、子どもたちにとってどうするのがよいか、先生と保護者とで話し合うことができるのです。
担任が頼りないときは、学年主任や校長に相談してもいい?
保護者から友だちとのトラブルの相談を受けて、即モンペ(モンスターペアレンツ)だと思う先生はおそらくいないでしょう。先生側の思いとしては、保護者から相談を受けた時点で、自分の指導が悪かったなと思ってしまうことはあるにせよ、それでもどうしたら解決できるのかなと、保護者と一緒に考えてくれる先生なら希望は持てると思います。
ただ、先生も人間ですから、それぞれ性格や考え方も違います。何度相談しても、担任の先生では解決が難しいと感じたら、その先生には頼らないほうがいいと思います。その場合は、学年主任に相談しましょう。それでも解決が難しいようでしたら、教頭、校長でも構いません。
すべてはわが子だけでなく、さらには周囲の子どもたちを守ることが最大の目的です。どんな問題行動でも、誰かが怪我をしたり嫌な思いをしたりするリスクがあるので、できるだけ早く相談し、解決してもらうことが大切なのです。
お話しを伺ったのは

埼玉県公立小学校教諭。埼玉の教育サークルclover代表。イベントを数多く企画・運営し、価値ある教育情報を広めている。共著に『全単元・全時間の流れが一目でわかる!社会科6年 365日の板書型指導案』(明治図書出版)がある。
文・構成/天辰陽子