【不登校支援】全国から参加できる無料フリースクールが成り立つ理由は? 子育てのラジオ「Teacher Teacher」の2人が切り開く次世代の学校のかたち

ポッドキャストで人気の、子育てのラジオ「Teacher Teacher」、そして不登校の子どもたちに向けた無料のフリースクール「コンコン」を運営するはるかさんとひとしさん。実際に子育てや教育について考え続け、不登校問題にも取り組むお2人に、現在の活動はもちろん、不登校に悩むパパママへ伝えたい事、そして学校に行き渋る子どもへのアプローチのヒントも伺いました。

無料のオンラインフリースクール『コンコン』

元小学校教諭で、長年不登校の課題に向き合ってきた福田 遼(はるか)さんと、彼の大学時代からの友人でポッドキャストプロデューサーの秋山仁志(ひとし)さん。2023年4月に始めた子育てのラジオ「Teacher Teacher」は、子育ての悩みに心理学的な考えも織り交ぜながら解決策を回答し、開始から1年足らずで「第5回 JAPAN PODCAST AWARDS」教養部門の最優秀賞と、大賞に選ばれました。

そして昨年、不登校の子どものためのオンラインフリースクール『コンコン』を開校。一般的なフリースクールが授業料平均3万3,000円/月と言われるなか、無料で通うことができるのが特徴です。

「第5回 JAPAN PODCAST AWARDS」の授賞式にて

――フリースクールを無料で運営している理由を教えてください。

Teacher Teacherの福田 遼(はるか)さん。小学校教諭を経て、世界各地の教育施設を訪問。

もうひとつは、公立の学校より有料で運営している民間の学校の方が良いとなった場合、質のいい教育ほど料金が高くなるとすると、教育格差が生まれてしまいます。無料にこだわることで、子どもの学ぶ権利は平等にしたいと思いました。

そして最も大きな理由は、お金をいただくことによって支援が歪むことがあるからです。知り合いで有料のフリースクールを運営していた方が、最初は純粋に支援したいと思っていたのに、不登校の子が入れば入るだけ収益が上がり、逆にやめると収益が下がって人件費が賄えないということが起きていました。その構造に歪みを感じて、無料でかつ卒業していくことを前提としたフリースクールがあっていいんじゃないかと考えたんです。

――とはいえ、フリースクールを無料で成り立たせることは可能なのでしょうか。

ひとしさん まだ成り立っているとは言いがたい状況ですが、僕らの活動に共感してくださった個人と法人の方に月額のスポンサーになってもらうことで運営しています。今後もこういった支援に頼りながら続けていくのか、何か別のビジネスで成立させるのか、考えながらやっているところです。

Teacher Teacherの秋山仁志(ひとし)さん。ポッドキャストプロデューサーとしても活動。

一番困っているのは「家から出られない子たち」。だからオンライン形式に

『コンコン』は、教室に見立てたメタバース(インターネット上の仮想空間)で活動しているのも特徴。「一番困っているのは家から出られない子たち」という想いから、全国どこからでもアクセスできるようにし、探究学習や教科学習を行います。
また、月額のスポンサーが、ボランティアとして参加しているのもこのスクールならでは。支援者たちは『ティーチャーティーチャー村』というコミュニティのなかで、チャット機能も活用しながら生徒や教員と交流し、スクールを支えています。

メタバース上にある教室には、全国どこに住んでいる子もアクセス可能

――スクールの支援方針や大切にしていることはどんなことですか?

はるかさん 『コンコン』という名前の由来は、“ともに”という意味の“com”と、方位磁針のコンパスの“com”を合わせ、“ともにコンパス持って、進むべき方向見つけて歩み出そうよ”っていうメッセージなんです。ここにいればOKというよりもここで頑張りたい方向を見つけて、踏み出すまでのお手伝いをする卒業前提のフリースクールというのが大きな方針です。

目指すのは子どもたちの社会的自立で、そのために何が好きでどっちの方向に行きたいのかを対話的に考える。歩み出すために、生活習慣を整えたり、学ぶ力をつけたり、自分の気持ちを主張する力をつけ、不安があるときはカウンセリングで不安を解消するお手伝いもしています。

いろんな大人と交流できるオフ会

――子どもたちと実際に会うことはありますか?

ひとしさん スクールはオンラインですが、教員から声をかけたり、親御さんの発案で実際に会ったりしてコミュニケーションをとることも多くあります。リアルな場で子どもたちに会って一緒に運動をしたり、ゲームなどの趣味でつながったりして、元気になっていく姿を見るのはすごくうれしいですね。

はるかさん 1つの視点で否定され続けていた子も、いろんな大人から違う角度でいいところを見つけてもらうことで自信を取り戻したり、価値観が形成されたりしていくのを見て、いかにいろんな大人と交流するかが重要ってことに気づいて。散歩やピクニックをしたり、料理をしたりするなどのオフ会も活発に開催されています。

ーー学校に行けない子の受け皿になるだけではなく、その先の未来に向けた支援をされているのですね。

オフ会ではいろいろな大人と直接接して、自分の良いところを見つけるきっかけに

教育のユートピアはない。海外の教育現場で感じたこと

ーーはるかさんは教員を退職した後、海外の教育現場へ出向いて勉強をされてきたとのことですが、どんな学びがありましたか?

はるかさん ホームスクーリングなど多様な選択肢があるデンマークは、不登校支援について理想的な国として取り上げられることが多いです。しかし、訪れてみるとデンマークでも不登校で困っている家庭はあって。つまり、制度さえ整えればいいわけではなく、どんな環境でも子どもたち一人ひとりに諦めずに向き合い続けるしかないなと。“ユートピアはない”と思ったのが大きな収穫でした。

ブルガリアのオルタナティブスクールの子どもたちと

ーー印象的な国はありましたか?

はるかさん バリ島にある『グリーンスクール』は印象的でした。先生に授業の裁量があって、川にかかった橋の上で授業をしている様子も。学校という固定観念が壊れましたね。

バリ島のグリーンスクール。自然から多くのことを学べる環境

――日本の教育現場の見え方や考え方に変化はありましたか。

はるかさん 客観的に比較すると、実は日本の教育現場のレベルは相当高いなと思いました。授業に一体感があり、子どもたちみんなが参加できるように設計されています

また、子どもが給食当番や掃除などの係を持ち、役割を果たせるのも海外から見たらすごいこと。子どもだけでなく、先生たちにとってもかなり負荷の高いことをしているんだなと改めて感じました。

――入学当初、子どもに疲れが出やすいのも当然なのかもしれませんね。昨今は、先生方の負担が大きすぎることも課題とされていますね。

はるかさん 教員の経験から、学校現場を変えるのは簡単ではないと思いますが、民間や地域の人が学校現場に入っていき、新しい風を吹かせることはできるかもしれません。

不登校の解決につながる、1日3分のコンプリメント

現在発売中のお2人の著書『先生、どうする!? 子どものお悩み110番』には、ポッドキャストで回答したお悩みへの答えが多数掲載。その中に「息子が学校へ行きたくないと言っています」というお悩みがあります。今回は、悩んでいる方の参考になればと、その内容も抜粋してご紹介します。

コンプリメント(褒め言葉)で自信の種をまこう

子どもが「学校へ行きたくない」ときの対処方法として紹介しているのは、長年不登校支援に力を入れているスクールカウンセラーの森田直樹さんが提唱する『愛情と承認のコンプリメント』というアプローチ方法。          

不登校の真の原因は、学校生活におけるストレスを“乗り越える自信がないこと”と考える森田さん。コンプリメントとは“褒め言葉”のことで、1日3分のコンプリメントで、自己肯定感と自己効力感が育まれ、不登校が解決するとしています。

褒める際の公式

愛情のコンプリメントなら「子どもの行動+うれしいな」。例えば「朝から〇〇くんの元気な姿が見られてうれしいな」など、主語を親自身にして伝えるのがポイントです。
承認のコンプリメントなら「子どもの行動+力があるね」。「君にはこんな力があるね」と投げかけて承認していきます。例えば「前に話したことを覚えていたね。〇〇ちゃんには言われたことを身につける力があるね」など。これらは実際にはるかさんも試したことがあり、続けることで子どもが変わっていくと言います。

ただ、上記の方法は学校に対して不安や明確なトラブルがない場合の話。もし学校でなにかしらのトラブルがあって心の状態が不安定な時期には休養を優先するのも重要な視点だそうです。

不登校の原因や責任が家庭にあるわけではない

――これまでの経験をふまえて不登校に悩む親御さんに伝えたいことはありますか?

はるかさん まず、不登校の原因や責任が家庭にあるわけではないと伝えたいです。不登校の児童の数は急増していて、これが家庭の責任だとしたら説明がつきません。家庭も学校も、社会の変化に追いつけていない状態があると思っています。
現在はスマホに付随したSNSのトラブルがあるなど、子育てが複雑化しているのを感じます。
学校の存在意義や価値が社会的に下がってきている背景もあり、不登校になるのはある種の自然な現象。親御さんもそれを認識することで、あまり自分たちを追い込まないようにしていただきたいです。

また、不登校の情報を発信している方の中には、『子どもの意思を尊重しましょう』『愛情を注ぎましょう』、と親御さんに頑張れと言うことが多く、それによって傷ついている方も多い印象。親と子に変な上下関係が生まれているようにも思います。

子どもが学校を休むと言ったとき、親御さんは仕事を犠牲にして子どもの面倒を見る状況がありますが、僕は対等に議論していいと思うんです。お互いがしたいことの中間をとる。お互いにちょっと我慢するけど、納得できるようなポイントを見つけるのが大切で、親だけが我慢せず子どもに気持ちを伝えていくのも重要かなと思います。

支援を必要とする子どもと親御さんをなくしていきたい

――最後に今後の展望を教えてください。

はるかさん 不登校支援の先行事例として、『コンコン』が無料でしっかり成り立つようにして、不登校の子たちを支援する方々の希望になりたいなと思っています。

僕らはノウハウをどんどん公開していくので、どんどん真似してもらって、僕らみたいな存在がいらなくなるのが1番ハッピーというか。現在、フリースクールにアクセスできず、相談も指導も受けられない子たちがいるので、その状態をなくしたいですね。

ひとしさん 親御さんが困ったときに、『自分が何に困っているかもわからない』っていうフェーズがあることに気づいたんです。『どういう目的でカウンセラーさんに話しに行ったらいいんだろう』と思ったときに、何に困ってるのかを明確にし、一緒に考える。そこから伴走することもできたらいいのかなと思っています。

TeacherTeacherの今後の活動に期待!

ポッドキャストでのやりとりも今回の取材でも、ほんわかと親しみやすい雰囲気のお2人ですが、心のうちには不登校支援への強い情熱を感じました。
ポットキャスト番組でのお悩み相談も、『コンコン』の運営方法や方針も、常に困っている子どもたち、そして親に寄り添っていて、多くの家庭の救いになっているのだと思います。今回のお話のなかで出た「不登校は家庭のせいじゃない」というはっきりとした言葉。そして、行き渋りがある子どもへのアプローチ方法など、今悩んでいる方の心が少し軽くなるお話をたくさん聞かせていただきました。

今後の活動が楽しみなお2人。Podcastもぜひ聴いてみてください。

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福田 遼 (著), 秋山 仁志 (著) PHP研究所 1,500円(税別)

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子どもにガミガミ怒ってばっかりの自分に、ドンヨリ。 うちの子の将来、このままでだいじょうぶかな、と不安になる……。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えるすべての親御さんに届けたいーー。
元小学校教師のはるか氏と、友人でラジオ番組プロデューサーのひとし氏の二人が、子育てに悩める親御さんの気持ちに寄り添い、「明日やってみよう」と思える、22の「神回答」をお届けします。

取材・文/長南真理恵 構成/HugKum編集部

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