担任の先生と合わず不登校に。学校との話し合いで気をつけたこと
――息子さん(ソウくん)いつ頃から不登校になったのでしょうか?
川口さん:4年生のはじめ頃です。担任の先生が児童に対して強めに注意するタイプのほうだったのですが、それが息子には合わなかったようで、次第に休みがちになりました。そして、ある時みんなの前で理不尽に大声で怒られたのをきっかけに不登校になりました。あくまできっかけの一つではありますが。
息子に限らず、先生と合わないことがきっかけで不登校になるというケースは少なくないと聞きました。
――突然のことに川口さんも戸惑われたのではないでしょうか?
川口さん:不登校の子は周りにもいましたし、話も聞くことがあったので、まったく偏見はなかったんです。でも、いざ自分の子が不登校になったらびっくりしましたね。こんなに大変なんだと。私自身はどちらかというと学校をサボりがちだったので、息子も同じタイプの子なら驚かなかったかもしれません。でも息子はそれまで学校も先生も、勉強も好きな子だったんです。なので、学校に行けなくなって息子も私も落ち込んでいましたね。
――そこから、学校と話し合いをされたのですね。
川口さん:学校の先生に話をするのは正直に言うと気が重かったですね。だから「もう、学校ではなくてフリースクールに行けばいいのかな」と開き直っていたんです。でも、書籍のお仕事でご一緒させていただいた教育専門家の先生とお話したときに、「学校に行くか行かないかは子ども自身が決めることだから、 子どもが自分で答えを出すまでは学校と話し合って居場所を作ったほうがいい」と言われたんです。
それで、子どもの選択肢を減らしてはいけないと思い、学校と話し合うことを決めました。はじめはモンペ(モンスターペアレント)と思われるのではないかという不安もありましたが、「子どものことを本気で考えて、悩んで、解決法を探っている時点でモンペではないです」と励まされて、勇気が出ました。
――学校と話すときに気をつけたことはありますか?
川口さん:教育専門家の先生には「感情的にならず、とにかく冷静に話すこと」「すぐに対応してもらえると期待しすぎず、まずは伝えてみること」が大切だと言われました。学校としては親の意見があってはじめて動けることもあるので、話し合い自体がマイナスになることはないとわかりました。
ですから学校側の事情も聞きつつ、折衷案を探ったりと、冷静に話し合うように気をつけました。また、夫に一緒に行ってもらうこともありました。聞きたいことや要望、提案をメモしておくのもよかったです。
――言える範囲で構いませんが、学校にはどんな要望を伝えたのですか?
川口さん:担任の先生の大きな声が苦手で、たとえ自分に向けられたものでなくてもダメージを受けてしまうと伝えました。ほかには例えば、学校のプリント類を近所の友達が届けてくれていたのですが、他の子を巻き込みたくないのでこちらが取りに行きたいということや、少しだけ学校に行けるようになると先生から「もう1時間頑張ったら?」「給食を食べたら?」と言われることがよくあったのですが、それは言わないでほしいということもお願いしました。
私の場合はまず担任の先生と話し合いましたが、息子の行きしぶりが始まった頃から教頭先生が心配してくださっていたので、教頭先生と話し合うことが多かったです。話し合いをするなかで、先生の仕事の多さや大変さ、不登校の子どもへの対応まで手が回らないという学校の現状も知ることができました。
罪悪感を捨てて親子で時間を楽しむことが、心の傷を癒すきっかけに
――漫画には「学校に行かなきゃ行けない」という価値観を壊すことに苦労されたと描かれていましたね。
川口さん:最初は私の中に「学校に行かないと将来困る」「幸せになれない」という考えがあったと思います。私は真面目なタイプでもないのにそう思っていたんですよね。これを抜け出すのは大変でしたね。無意識に信じ込んでいた価値観って、変えることが難しいです。
でも、外に出ることもできず、心が傷ついてしまった息子を見て、まずは私が「学校という概念を無くそう」「学校のない世界を作ろう」と考えたんです。私はもともとゲームが好きなので朝起きてから息子と一緒にずっとゲームをしたり。ちょっと元気になってきてからは、朝起きて「どこに遊びに行こう?」と話してあちこち出かけたり。息子が小さい頃に好きだった科学館やプラネタリウムには何回も行きましたね。
そのうち私の行きたいところに付き合ってもらうようになり(笑)、その頃から息子が目に見えて元気になってきたんです。そんなふうに小4の9月くらいまでは本当にたくさん遊んで、しっかり休んだ感じです。
周りの視線を気にしたり、罪悪感を感じて遊んじゃダメ、楽しんじゃダメと思ってしまう方も多いと思うんです。SNSとかで不登校の親が批判されているのを目にすることもあります。でも、振り返ってみると、私は開き直って親子で一緒に楽しんだあの期間がすごく大きかったと思っています。
SNSの情報に助けられたことも。不登校に関する発信活動をする理由

――川口さんの漫画はとても反響が大きかったと思います。今も精力的に発信する活動をされていますね。
川口さん:私は息子が不登校になる前から、SNSで不登校の子どもを持つ親の投稿をよく見ていたんです。その中で「不登校の子どもを無理やり学校に連れて行ったのを後悔している」「無理に学校に連れて行ってから子どもが体調を壊すようになった」という言葉が印象に残っていて…。そのときは当事者ではなかったですが、「それはやったらいけないんだな」と知ったんです。
私はそのおかげで息子を無理に学校に連れて行くことがなくて、結果的に息子の心の回復につながったと思います。のちにカウンセラーさんにも伺ったのですが、子どもを学校に連れて行ってしまうことって親なら1、2度はみんなやってしまうのだそうです。それは仕方ないことなのかもしれませんが、子どもの辛い気持ちを無視して何度もそれ繰り返してしまうと子どもは壊れてしまうのだと。そうすると回復には時間がかかるし、大人になっても治らないこともあると言われました。
子どものためを思ってやったことが子どもを傷つけてしまうということは親が一番望んでいないことだと思います。
私もそうですが、どんな子でも不登校になる可能性があり、だからこそ不登校に関する情報を他人ごとと思わず知っておくことは大切だと思っています。なので、私は自分自身の経験を漫画などを通して積極的に発信しようと思っています。
川口さんの体験談 note「【漫画】子どもが不登校になったのでいろんな人に頼ってみた。」
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note 川口真目(Masami Kawaguchi)
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文・構成/平丸真梨子