子どもの心をケアするアニメは「主人公が困難を乗り越え成長していく物語」
――子どもが怒られて元気がなくなったとき、没入できて心のケアになる、いまおすすめのアニメ作品について教えて頂けますか?
主人公が成長し、自己形成をしていく作品がおすすめです。子どもの自己肯定感を高めると考えているアニメは、『プリキュア』シリーズや『ベイブレード』シリーズです。どちらも、主人公が困難を乗り越えていく姿を通じて、子どもが自分の問題を解決していくヒントを得ることができます。
『プリキュア』シリーズは、友情や人間関係を通して絆を深め、成長していく物語なので教養的。シリーズ主人公には、それぞれパーソナリティーや弱点があって、子どもにも親にも受け入れやすい作品です。

――男の子には?
『ベイブレード』シリーズです。男の子はプライドが高めですが、ベイブレードで競争し合うとき、それぞれに戦うスタイルが異なり、自分にとって敵であっても褒めるんです。
固定観念に縛られず、一風変わった戦い方をしていく。周りの人と少し違っても、マジョリティーではない少数派でも、人それぞれちゃんと居場所がある、というメッセージが伝わってくる。子ども向けですが、分かりやすくて心に響きます。

「誰もがみな主人公」というメッセージ
――少数派にも居場所がある、とても大事なことですね。
全般的に、アニメの中にそういったメッセージは色濃くあります。
私も子どものころ、『美少女戦士セーラームーン』をはじめとしたアニメに救われました。理由は、作品を見て、少数派にも居場所があると知ったこと、イタリアのステレオタイプ的な男子ではない、少し変わっている自分でも主人公になれると分かったことだと思っています。
鑑賞後の子どもとのおしゃべりは家庭内「アニメ療法」
――令和の家庭で、アニメ療法的なことを家庭で応用するコツはありますか?
子どもと一緒にアニメを見た後、感想を話し合うことが効果的です。見終わった1話を振り返り、主人公の行動、たとえば、何か失敗したときにどんな対策をしたのか、周りでサポートしてくれた人がどんなことを言ったのか、おしゃべりするといいですよ。物語を振り返って話し合う、起きた出来事に対しての感じ方を話し合う、そこに効果があります。
たとえば1話について、「主人公が失敗したとき、こう感じて、こう考えたね。あなたはどんな風に感じて、どう考えた?」と子どもに問いかけ、おしゃべりをして話し合うのがおすすめです。
――子どもとの対話に、どのくらい時間をとったらいいですか?
できれば毎日15分か20分、必ず時間をとることが望ましいですが、それが難しければ、1週間の中で、土曜や日曜、まとまった時間をとって、おしゃべりをするとよいですね。
心の問題に向き合う、イチ推しの物語
――そのほかに、「心の問題に向き合う物語」のおすすめとして、いま、推しの作品はありますか?
推しは、心に悩みを抱える少年少女たちが“自己理解”を通じて心の敵(内なる悪)と向き合い、変身してヒーローとなる、というSFファンタジー・バトルアニメ風の物語『Lighters of the Radiant Burst』です。
実は、臨床経験や「アニメ療法」の発想をもとに私が執筆しました。小学校高学年から中学生のお子さんなどにぜひ読んでほしい。
書籍化とアニメ化を目指している小説でして、この物語を通して心のケアをする「アニメ療法」を実現化できると考えています。
大人のストレスやトラウマを解消するアニメ作品
――精神科医の先生が執筆された小説だから、悩みやトラウマの解消に役立ちそうです。さて、親がストレスやトラウマから子どもにうっかりきつい言葉を吐いてしまった……、そんなとき、大人の心をケアするアニメは?
『蟲師(むしし)』をおすすめします。漆原友紀氏による漫画、およびそれを原作にしたアニメで、不可思議な存在「蟲」と、それを扱う専門家「蟲師」をめぐる物語です。

人に霊体のような存在「蟲」がとりついたとき、それをきっかけに人生の意義をより深く考え、理解することで、「蟲」から自由になる、というストーリー展開。「蟲」は霊体ですが、人生の悩みやトラウマにたとえることができます。
私の立場で見ると、まるで蟲師が精神科医の役割で、医者のカウンセリングを俯瞰しているような感覚を覚えます。ストーリーに没入して鑑賞すると、心の浄化に繋がります。
自分の悩みやトラウマを解消しようとするキャラクターがたくさん登場するので、例も多いですし、分かりやすいですよ。直接的に、悩みやトラウマの話ではなくて、霊体のような「蟲」の話にたとえているので、感情移入しやすくて。
アニメのキャラクターのように間接的な例を見ると感情移入しやすい

私が治療にアニメを使っている理由は、たとえば「鬱病」や「精神疾患」という直接的な言葉を使うと、強烈な拒否反応を示されることが多く……。
人はみな、自分がそういったもの、病を持っているとは考えたくないからですね。でも、たとえを使うと、人は感情移入しやすい。比喩や例を出すと、ものすごく入りやすい。
具体的に説明すると、たとえば、アルコール依存症の場合。「お酒をやめなさい」と言われても、すぐ断酒することは難しい。でも、アニメで「魔法に依存していて、魔法を使いすぎちゃう人が出てくるストーリー」において、そのままやり過ごしていると体が壊れ、人間関係が壊れ……というストーリーを見ると、「ああ。こんな風に依存しているのは良くない……」ということが伝わります。
アニメ鑑賞で腑に落ちると、行動の変化に繋がる
――アニメで見ると、腑に落ちやすいということですか?
そうです。現実とワンクッションを置くと、客観的にとらえることができるから、納得しやすくなります。納得すると行動の変化に繋がりやすくなる、というところをアニメ療法として提唱しています。
――先生がいま、最も熱中して見ているアニメは、何ですか?
いま一番ハマっている作品は、『チ。―地球の運動について―』です。地動説を信じて、学問的な真実を追求する人々の熱いドラマで。

心が折れそうになるほど周りに何か言われても本質を追求する、何を言われても好きなことに没頭する、といったセリフにすごく惹かれて。
――「情熱」に共鳴ですね。情熱の焔を燃やし、「アニメ療法」で、引き続き、日本人の心のケアをお願いいたします!
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お話を伺ったのは…

1989年イタリア・シチリア島メッシーナ生まれ。サクロ・クオーレ・カトリック大学にてイタリアの医師免許を取得後、ローマ市内の総合病院勤務。日本政府の奨学金留学生として来日し、イタリア人で初めて日本医師免許を取得。筑波大学大学院博士号取得(医学)、慶應義塾大学病院の精神・神経科教室に入局。現在は、複数の医療機関で勤務する傍ら、アニメ療法に基づくエンターテインメント作品を開発中。好物は桜味の和菓子、とんかつ、納豆。
著書は『アニメ療法 心をケアするエンターテインメント』(光文社)、『イタリア人の僕が日本で精神科医になったわけ』(イースト・プレス)、『しあわせの処方箋』(あさ出版)ほか。
取材・文/伊藤菜朋子