初めは日本が嫌いでした…
--アンさんが永住資格を取得されたのは、二度目の来日の際と伺いました。初来日の日本の印象はどんなものでしたか?
アンさん:私が初めて日本を訪れたのは、1997年です。当時お付き合いをしていた彼(現在の夫)が、英語教師として日本に赴任することになったので一緒に来日しました。ですが、当時は日本語もわからない、文化もほとんど知らないままに来てしまったので、つらくてよく泣いていました。

試験勉強だけではコミュニケーションは難しい
--日本でつらい思いをしていたのに、日本語を学びたいと思うようになったきっかけは何ですか?
アンさん:日本でのつらい暮らしの中でも、徐々に日本語を学びたいと思うようになりました。きっかけは、カラオケです。とても楽しくて大好きになりました。
一度帰国をし、オールド・ドミニオン大学で応用言語学修士の学位を取得。そのときにも、日本人の留学生と仲良くなり、J-POPをよく聴いたり歌ったりしていました。
その後、再び来日することになり、オールド・ドミニオン大学の姉妹校である北九州市立大学に採用され、国際環境工学部の語学教師として仕事をしました。語学教師をしながら日本語検定1級も取得しましたが、流暢に日本語を話せるようにはなりませんでしたね…。
英語も同じだと思います。英検などの資格試験の勉強をしても、実際に流暢にコミュニケーションを取るのは難しいと思います。
“興味”や“好き”が、学ぶ意欲!

アンさん:私は以前、摂食障害で悩んでいた時期があり…でも二度目の来日のときに出会った日本人の友達から、「いただきます」や「ごちそうさま」などの食事に感謝をする日本文化を学んで、日本の料理を教えてもらううちに、摂食障害を克服することができました。そして、もっと日本のことを学びたいと思っていきました。
その、日本の食文化のことを教えてくれた友達が、全く英語を話せなかったのも、私が一生懸命に日本語を学ばなければと思うきっかけにもなったかもしれません。
そのうちに、日本語でブログを書いてほしいと頼まれたり、テレビ出演や講演のお仕事をいただいたりするようになりました。初めは上手に文章が書けないので話し言葉で書いていましたが、仕事でメールのやり取りをするようになり、徐々に文章も書けるようになっていきました。
日本人は「間違えたくない」「恥ずかしい」という思いが強い国民性だと思います。でも、間違えた先に成長があります。初来日のころ、日本語がわからないなりにも近所の人にあいさつをしようとして、怪しい人だと勘違いされたこともあります(笑)。たくさん間違えて恥ずかしい思いをたくさんしてきました。だからこそ、成長できたと思っています。
「聞き取れないことは言えない」もっと聞く時間を大切に!

--大学で学生たちに言語を教えている立場で感じる、日本の英語教育の改善点はどこにあると思いますか?
アンさん:30代・40代のお父さんお母さんたちが受けてきた英語教育よりも、今の日本の英語教育はだいぶ良くなったと思います。でも、まだ足りないのが“聞く”時間だと感じています。英語に限らず、言語を学ぶ上で“聞く”ことはとても大切です。人間は「聞き取れないことは言えない」のです。
同様に、「言えない音を聞き取ることも難しい」ので、小学生の間は発音トレーニングにも力を入れてほしいです。発音重視は、聞く力にもつながります。
小学校での英語学習は、英語で歌ったりゲームをしたり、楽しく学べるようになっていますよね。ですが中学生からは受験英語にシフトしてしまって、“楽しい”要素がだいぶ減っています。
だから、たくさん歌を聞いたり、映画を観たりすることから始めてみてください。英語には20個の母音があるので、それらを聞き分けるためにも、フォニックスを学ぶのもおすすめです。聞き取りや発音はだいぶ楽になりますよ。
エンタメを英語に! きっかけは“好き”なことから
アンさん:親子で英語を学びたいと思ったら、家の中でエンタメを全て英語にすることをおすすめします。今は誰でもYouTubeで動画を観ることができます。映画や音楽、テレビゲームも身近ですよね。そういうことを英語で楽しむようにしてみてください。

アンさん:たとえば私はカラオケが大好きで、『Kiroro』の歌を上手に歌いたくてたくさん練習をしました。今思うと、それが日本語のリスニングとスピーキング、リーディングの勉強にもなっていたと思います。
また、私には3人の娘がいますが、子どもたちは日本で生まれ、日本の学校で日本の教育を受けていたので、私と夫は家庭内では英語で会話をすると決めていたんです。家でのエンターテインメントは全て英語にして、外では日本語、家庭の中では英語とバランスを取った結果、バイリンガルに成長しました。
でも、一番下の娘は韓国アイドルが大好きで、歌を聞いたりドラマを観たりしていたので、いつのまにかトリリンガルに! 今は韓国アイドルが好き過ぎて、アイドルの練習生です。

アンさん:友達のご家庭でも、テレビや動画、絵本を全て英語にしただけで、バイリンガルになったという話も聞いています。子どもはそれだけ吸収が速い!
日本では、普通の生活をしていて英語が必要な環境があまりありません。だから言語を学ぶ理由が検定や試験の勉強に偏ってしまうのだと思っています。でも、試験勉強するよりも、興味を持ったものや好きなものがきっかけの方が、学び続けるポジティブな理由になりませんか? そして、好きなことをやった方が絶対に楽しい!
AIを使っても“心のコミュニケーション”は取れない
--「AI時代に言語学習は必要?」という意見もありますよね。
アンさん:AIはとても便利なものだと思います。海外旅行やちょっとした滞在では苦労しないかもしれません。でも、私が日本語を学ぶ上で感じたことは、AIを使っても“心のコミュニケーション”はとれないということです。
仲良くなりたいと思っている友達と親しくなれるか、その国の文化を理解できるかと考えると、言語を学ばないと深い理解は得られません。AI時代においても、言語学習というのは絶対に必要なものだと私は考えています。だからこそ、好きなことを軸にして、楽しく学び続けてほしいと思います。

アンさん:そして、私は24歳で日本語を学び始めて、ここまで日本語ができるようになりました。言語学習に“遅い”はないと思います。身近に英語を話す人がいなくても、英語を使う環境がなくても、おうちで映画や動画、音楽を英語で楽しむことは誰にでも簡単にできます。
「自分は英語が苦手だな」と思っている自信のないお父さんお母さんも、ぜひお子さんと一緒に楽しく英語を学べる環境を整えてみてください。
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お話しを伺ったのは

アメリカ・バージニア州出身。教育者、TEDXFukuoka スピーカー、ライター、ブロガー、YouTuber、ラジオパーソナリティ、むなかた応援大使。文章を書くことは生き甲斐だ。アメリカ系日本人。著書『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)、『ネイティブが教えるアメリカ英語フレーズ1000』(コスモピア)ほか多数。
文・構成/鬼石有起