「不倶戴天」とは?
読み方と意味
まずは読み方と意味を確認しておきましょう。この言葉は『不倶戴天』と書いて「ふぐたいてん」と読みます。
生かしてはおけないと思うほど、恨みや怒りの深いことを意味する言葉です。
「不倶戴天」の由来・語源
『不倶戴天』という言葉は、中国、前漢時代の「礼記(らいき)」という書物にあるエピソードが元になっています。
「父の讐は倶に天を戴かず(ちちのあだはともにてんをいただかず)」という1文で、「父の仇とは殺すか殺されるかの関係で、一緒にはこの世に生きていられない」という意味があります。
現代では「同じ天の下には一緒にはいない、同じ天の下には生かしておかない」という意味で、深い恨みや憎しみを表すようになりました。

礼記は儒教の教えを説いた書物ですが、中でも『不倶戴天』が登場する曲礼(きょくらい)篇は、ちょっとした所作から日頃の心掛けまで、幅広く「礼」について解説しています。機会があれば、他のエピソードもチェックしてみてください。
主君の仇討ち物語「忠臣蔵」
日本には実際の仇討ちを元にした「忠臣蔵」という有名な作品があります。時代劇として年末に放送されることもあるので、名前を聞いたことがある人もいるかもしれません。
ことの発端は元禄14年(1701年)、赤穂(現在の兵庫県赤穂市)藩主の浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が、江戸城の松の廊下という場所で、吉良上野介(きらこうずけのすけ)に斬りかかった事件。
浅野内匠頭は切腹となり、領地も取りあげられてしまいます。そして斬られた吉良上野介には何のお咎めもありませんでした。
しかし当時は喧嘩は両方が悪い(喧嘩両成敗)とされていた時代。そのため怒った浅野家の元家臣たち47人が翌年吉良邸に乗り込み、見事仇討ちを果たしたのです。

主君を思う家臣たちの行動は庶民からも支持され、その後事件をもとにした数々の作品が生まれました。そして事件から47年後に、大坂・竹本座で初演されたのが、『仮名手本忠臣蔵』です。
以来、現在に至るまで「忠臣蔵」の人気は高く、歌舞伎や舞台などでも多くの作品が生まれました。それらは「忠臣蔵もの」として親しまれています。
参考:文化デジタルライブラリー
使い方を例文でチェック!
では、『不倶戴天』の使い方を例文でチェックしていきましょう。
1:身内を失った遺族にとって、犯人は不倶戴天の相手だ。
過失であれ故意であれ、身内を死に追いやられた恨みの深さは、まさに『不倶戴天』と言えます。
2:父をリストラしたあの会社は、私にとって不倶戴天です。
父親をクビにした会社に家族が抱く感情は『不倶戴天』と言えそうです。
3:不倶戴天の敵に復讐をする機会がいよいよ巡ってきた。
復讐してやりたいと思うほど憎い相手との関係は『不倶戴天』と言えます。
類語や言い換え表現は?
では、『不倶戴天』を別の言葉で言い換えたい場合、どのような表現を使うことができるのでしょう。『不倶戴天』に似た表現を探してみました。
1犬猿の仲(けんえんのなか)
『不倶戴天』と同じく、お互いの仲が非常に悪いことを表す言葉です。

2:目の敵にする(めのかたきにする)
憎んで敵視する様子の「目の敵にする」。『不倶戴天』と同じく、険悪な様子を表しています。
3:恨み骨髄に徹する(うらみこつずいにてっする)
『不倶戴天』と同じく、恨みが骨のしんまでしみとおる、という意味の深い恨みを表した言葉です。
4:怒髪天を衝く(どはつてんをつく)
『不倶戴天』へと発展しかねないくらい、怒りで髪の毛が逆立つほど激しく怒っている様子を表す四字熟語です。
対義語は?
明確な対義語は存在しませんが、『不倶戴天』の反対の意味に当たりそうな言葉にはどんなものがあるのでしょうか?
1:相思相愛(そうしそうあい)
互いに慕い合い、愛し合っていることを表す「相思相愛」。『不倶戴天』とは真逆の意味の言葉といえそうです。
2:昵懇の仲(じっこんのなか)
親しく打ち解けてつきあうことや様子を表す「昵懇の仲」。こちらも『不倶戴天』とは逆の感情を表す言葉です。
3:報恩謝徳(ほうおんしゃとく)
受けた恩に感謝し、その恩に報いようとする心を表している「報恩謝徳」。『不倶戴天』とは逆の意味の言葉です。
英語表現は?
では、『不倶戴天』は英語ではどのように言い表すことができるのでしょうか。最後に『不倶戴天』の英語表現と言えそうな言葉をご紹介します。

1:sworn enemy
“敵対関係“という言葉で、『不倶戴天』と同じ関係を表しています。
2:mortal foe
“あなたを殺したがっている敵“という意味で、憎しみの度合いが『不倶戴天』に似た表現です。
3:Fight like cats and dogs.
“犬と猫のように喧嘩する”という意味で、仲が悪いことを表す言葉です。『不倶戴天』の相手と言えそうです。
「不倶戴天」の意味と由来を知って、正しく使いましょう
日ごろ使うことは少ない『不倶戴天』という言葉。忠臣蔵のエピソードを見聞きする機会があれば、思い出してみてください。
あなたにはこちらもおすすめ

構成・文/kidamaiko