反抗期とは?
※以下、さわ先生談話)私が臨床で扱う「反抗期」とは、子どもが成長の中で自我を育み、親に対して自己主張を始める自然な発達プロセスととらえています。
そのため、普段は「反抗」というとらえ方はしておりませんが、今回は、わかりやすく「反抗」という言葉を用いて説明をしていきます。
反抗期には一般的に大きく2つの時期があるといわれています。
第一次反抗期(2~4歳頃)
いわゆる「イヤイヤ期」と呼ばれるものです。
自分の意思と他者の意思を初めて区別し始める時期です。「イヤ!」という自己主張が多くなるのは、健全な成長のサインです。
自分の意思で何でも一人でやりたいという気持ちが芽生える一方で、思うように自分一人でできないということに葛藤が生まれるのが特徴です。
第二次反抗期(12~16歳頃/思春期)
自分で考え、行動しようとする自己確立の時期です。親への反発も、親離れと自立に向かう準備段階と考えることができます。
ただし、すべての子どもがこのパターンをたどるわけではありません。「反抗期がない=問題」とは限らず、個々の発達特性や家庭環境によってさまざまです。
第一反抗期・第二反抗期がない原因

第一反抗期と第二反抗期がない原因もさまざまなものがあります。例えば、次の原因が考えられます。
第一次反抗期がない原因
・親が子どもの欲求を先回りして満たし、葛藤の機会が少ない。
・子どもの順応性が高く、穏やかな気質を持っている。
・家庭内で意見表明の自由が保障されず、自己主張を抑制している。
・親が子どもの「イヤ!」を反抗ととらえず、成長の一部として受け止めている。
・知的な発達に遅れがあったり、発達の特性があったりする。
第二次反抗期がない原因
・親子関係が非常に良好で、葛藤が表面化しにくい。
・内向的で自己主張が苦手な気質である。
・家庭内で子どもの意見が日常的に尊重されており、対話が多い。
・親の期待に沿おうとする「いい子」傾向が強い。
・親を失望させたくないという心理的プレッシャーがある。
原因は一つとは限らず、複数重なり合うことで生じていることもあります。
反抗期がないことのデメリット
反抗期がないことのデメリットを挙げるとすれば、次のことがあります。
第一次反抗期がない場合
・自己主張や欲求表現が苦手になりやすい。
・他者に合わせすぎてしまい、自分の気持ちを抑えがちになる。
・「嫌」と言えずストレスを抱えやすくなる可能性がある。
第二次反抗期がない場合
・自立の準備が遅れ、社会に出た際に困ることがある。
・親の期待に応え続け、自己肯定感が低下しやすくなる。
・内面に葛藤をため込み、成人後に燃え尽き感や抑うつ症状が出ることがある。
反抗期がないときのチェックポイント

続いて、反抗期がないときに、保護者がチェックしておきたいポイントを解説します。
第一次反抗期がない場合
□「イヤ」と自己主張できる場面があるか。
□ 親が先回りしすぎていないか。
□ 子どもが親の顔色を過度にうかがっていないか。
□ 好き嫌いを表現できているか。
□ 生活の中で、子どもが自分で選べる場面があるか。
第二次反抗期がない場合
□ 自分の考えや好みを表現できているか。
□ 親の期待に過剰に応えようとしていないか。
□ 友人関係に極端なストレスや孤立がないか。
□ 気分の落ち込みや不安が強くないか。
□ 親への軽い不満や意見を言えているか。
これらのいずれかに思い当たる節があれば、反抗期がないことに関係しているかもしれません。もし不安がある項目があれば、保護者自身の課題としてとらえておくことが大切です。
反抗期がないときの保護者の受け止め方と対処法
わが子に反抗期がないとき、保護者はどうすればいいのか、迷うことでしょう。そこで私自身がおすすめする、受け止め方と対処法をご紹介します。
第一次反抗期がない場合
反抗期が見られなくても、心配しすぎる必要はありません。大切なのは、日常の中で「自己主張の機会」を自然に増やしていくことです。
例えば「どの服にする?」「どのおやつにする?」など、子ども自身が選択できる場面を意識的に作るとよいでしょう。叱るよりも「選ばせる・認める・共感する」関わりが、健全な自我の形成を促していきます。
第二次反抗期がない場合
表面的に反抗がなくても、内面に葛藤を抱えている可能性もあります。思春期は葛藤があって当然の時期ですので、「反抗がないこと」を一概によいことととらえず、日頃から本人の本音や悩みに耳を傾ける姿勢が大切です。
「いつでも本音を話していいよ」と安心感を伝え、時には親から「あなたの意見を聞きたいな」と声をかけてみるのも有効です。無理に反抗を引き出す必要はありませんが、対話の積み重ねが親子関係の信頼を深めます。
反抗期と発達障害の関係性

発達障害のあるお子さんでは、反抗期の現れ方が一般とは異なることがあります
例えばASD(自閉スペクトラム症)では、こだわりや感覚過敏から、反抗的に見える行動が出やすい一方、他者に対する興味関心が乏しく、その結果、反抗が見られない場合もあります。
またADHD(注意欠如多動症)では、感情コントロールの難しさや衝動性の強さから、反抗というよりも感情の不安定さとして表れることがあります。
いずれの場合にせよ、ASD、ADHDであっても皆、特性は違うので、上記のような反応にならないケースもあります。どちらにせよ「反抗がある・ない」よりも、子どもの“心の安全基地”が育っているかどうかを重視して見ていくことが大切です。
特に子どもにとって「わが家」は心の安全基地であってほしいと思います。
子どもはまだ、自分の考えを言語化する力がありません。そのような中、何か言葉を発したり、行動や態度で示したりしたら、まずは「受け止めてもらえた」という安心できる経験を与えてあげてください。そんな風に、親が自分のことを無条件に受け入れてくれ、そばで穏やかに笑っていてくれることで、親が寄り添う家庭が“心の安全基地”となり、心のバランスが取れるものです。
発達障害のお子さんに限らず、反抗期がなかったとしても、このことは皆さんに意識してほしいと思います。
子育てが不安なときは
反抗期がないわが子を持つ保護者が知っておきたい、基本的なことを教えていただきました。反抗期がないことに不安を感じていた方は、ぜひ参考にしてください。
さわ先生の著書
『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』

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お話をうかがったのは
医療法人「霜月之会」理事長。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。発達障害の娘の育児に苦労しながらも、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、2021年3月名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。著書に『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)がある。
構成・文/石原亜香利
