核の保有が認められる国、認められない国があるって本当? 国際政治の二重基準を解説 【親子で語る国際問題】

今知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は、核をめぐる国際政治の二重基準について学びます。

核兵器の保有を正当化される国と、否定される国がある

核兵器をめぐる国際政治には、「二重基準」という問題が根深く存在します。これは、特定の国々が核兵器を保有することを認められ、正当化される一方で、他の国々が同様の権利を否定される状況を指します。

この問題の中心には、1968年に発効した「核不拡散条約」(NPT)があります。NPTは、核兵器の拡散を防ぎ、核軍縮を促進し、平和利用を保障することを目的としています。しかし、NPTは1967年以前に核兵器を製造した5カ国(アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス)を「核保有国」として認め、それ以外の国には核兵器の開発を禁止しています。この構造が、二重基準の根源とされています。

例えば、核保有国は自らの核兵器を「安全保障のために必要」と主張し、近代化や増強を続けています。一方で、非保有国が核開発を試みると、「国際の平和と安全に対する脅威」として非難され、経済制裁や軍事的圧力の対象となります。この不平等な扱いが、二重基準として批判されるのです。

二重基準の具体例

二重基準は、国際政治のさまざまな場面で顕著に表れます。以下に、代表的な例を挙げます。

イランとイスラエルの扱いの違い 

イランは、核開発疑惑を理由に国際社会から厳しい監視と制裁を受けてきました。国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れ、2015年のイラン核合意(JCPOA)で核開発を制限したにもかかわらず、米国による合意離脱や制裁の再開により、厳しい圧力に直面しています。

一方、イスラエルは核兵器を保有しており、核兵器増強を進めたとしても欧米などから圧力が強まることはありません。

インドとパキスタンの例外扱い 

インドとパキスタンは、NPTに加盟せずに1998年に核実験を行い、事実上の核保有国となりました。NPT体制ではこれらの国は「非合法」とされますが、特にインドは米国との戦略的パートナーシップを背景に、2008年の米印原子力協定で核技術のアクセスを認められました。

一方、イランや北朝鮮のような国々は、同様の核開発に対して厳しい制裁を受けています。この選別的な対応は、二重基準の典型例です。

NPTでは、核保有国が核軍縮に向けて「誠実に交渉する」義務を負っています。しかし、米国やロシアは依然として数千発の核弾頭を保有し、近代化を進めています。この状況に対し、非保有国は「核保有国は自らの義務を果たしていない」と批判し、不平等感を強めています。

二重基準がもたらす影響

核をめぐる二重基準は、国際社会にさまざまな悪影響を及ぼします。

NPT体制がゆらぎ、核開発を進める一因に

第一に、NPT体制への信頼がゆらぎます。非保有国は、核保有国が約束を守らない姿勢を見て、NPTの意義に疑問を抱きます。これが、北朝鮮のようにNPTを脱退し核開発を進める国を生む一因となっています。

国際的な緊張が高まる

第二に、国際的な緊張が高まります。イランのように制裁を受ける国々は、核開発を進める動機を強める場合があります。核兵器が「抑止力」として安全を保障すると考える国にとって、核保有国の優遇は不公平感を増幅し、核拡散のリスクを高めます。

不信感から国同士の協力が難しくなる

第三に、グローバルな協力が難しくなります。核軍縮や気候変動、テロ対策など、国際社会が一致団結して取り組むべき課題において、二重基準は不信感を生み、協力を阻害します。

核保有国がNPTの義務を果たす必要がある

二重基準を解消するには、核保有国が率先して軍縮を進め、NPTの義務を果たす姿勢を示すことが不可欠です。そして、非保有国に対する技術支援や平和利用の機会を拡大することで、NPT体制への信頼を回復できます。

核をめぐる二重基準は、国際政治の複雑な力学を反映しています。すべての国が公平に扱われる世界を実現するには、対話と信頼醸成が欠かせません。核兵器のない世界を目指すためにも、この問題に真剣に向き合う必要があります。

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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバルサウスの研究に取り組む。大学で教壇に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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