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病気の相談よりも「育児相談」〜20万件の相談で見えてきた「本音」〜
RISU代表 今木 智隆(以下、今木):よろしくお願いします。まずは、Kids Public(キッズパブリック)のサービス概要を教えてください。
株式会社Kids Public 代表取締役 / 小児科医 橋本直也 氏(以下、橋本):Kids Publicは、スマートフォンから産婦人科医、小児科医、助産師に直接相談できるオンラインサービスです。
自治体の住民支援、企業の福利厚生や商品・子育て世代向けアプリへの付帯サービス等、として展開されており、利用者は基本的に無料で相談可能です。「こんなこと聞いていいのかな?」というような、ちょっとした不安や気になることでもOK。 24時間365日、気軽に専門家のアドバイスを受けられます。
今木:ありそうでなかったサービスですよね。どんな相談が目立ちますか?
橋本:いちばん多いのは、ジャンルでいうと育児相談ですね。
今木:発熱とか病気系の相談ではないんですね。
橋本:そうなんです。もちろん病気の相談もくるんですが、いちばん多いのは「育児相談」です。たとえば「赤ちゃんが生まれたけど、犬も飼っていて同じ部屋で犬が鳴いているが、同室で子育てしてよいか」とか、「うつ伏せ寝が危険と言われているけど、24時間見続けないといけないのか」など、身近な「育児相談」が圧倒的に多いです。
今木:誰に聞いたらいいのかわからないことかもしれませんね。意外と身近に聞ける人・教えてくれる人がいないんでしょうか。
この時期のママさんは、子どもにつきっきりで人間関係が希薄になりやすい印象がありますね。そうした「親子の孤立」について注目されたきっかけがあったんでしょうか。
「親子の孤立を防ぎたい」子ども病院での原体験が原点

橋本:子ども病院で働いていたとき、虐待を受けたお子さんを診察したことがありました。お母さん本人が連れてきて、「自分で子どもをケガさせてしまった」と。
そのときに「病院ってすごく受け身の施設だな」と感じたんです。だったら、もっとこちらから手を差し伸べる仕組みが必要だと強く感じました。その最初の一歩が、スマホという身近なツールを使用したオンラインでのサポートでした。
今木:児童虐待も小児科医の範囲なんですか。
橋本:そうですね、育児不安への寄り添いや虐待予防は小児科医の重要な役割です。
子どもを診るだけでなく、親の孤立にも気づける存在に
今木:親目線でいうと、熱を出したとか吐いたときにどうしたらよいかなど、診察目的のイメージが強いです。
橋本:実は、乳児健診で小児科に行くと思いますが、もちろん発達状態を見るだけでなく、服が清潔か、お風呂は入れてもらってるかとか、変なアザがないかなども確認したりしています。
そのときに違和感がある場合は、行政につないだり、再受診を促したり、配慮するケースがあります。なので小児科といっても病気だけでなく、俯瞰的な目線で診ることがありますね。
今木:追い詰められてからでは、手遅れになるケースがありますからね。思い詰めたり、そしてそのときに相談先がわからないってことは往々にしてありますよね。
橋本:まずはその場合、大切なのは一次予防で、そもそも孤立させないことが大切です。健診の場で「あ、この保護者少し心配だな」と感じたら、より注意深く関わるようにしています。
今木:メンタリングに近いですね。相談できる場が「ある」だけでも親は安心します。
橋本:小さな不安も、積み重なると爆発してしまいますから。
今木:勉強でいうと、成績だけ見て思い詰める親もいます。
橋本:そもそも、源泉は「愛」ですからね。
今木:責任感が強いからこその空回り…。でも、だからこそ「支え」が必要ですね。そういう場があると知っているのと、知らないのとではすごく大きいですよね。親としてはすごく気持ち的に救われますよね。
橋本:ありがとうございます。そういうときに、私たちが「選択肢のひとつ」になれたらと思っています。
「何科に行けばいいの?」親の“ちょっとした迷い”に応える存在

今木:これまでのお話から、よろずご相談のイメージが強いですね。あとは、親の立場でいうと、これどうしたらいいのってシーンが日常的にあります。
たとえば、ちょっとした湿疹って、小児科?皮膚科?近所の薬局? とか迷いますよね。
橋本:鼻水だったら耳鼻科なのか小児科なのか、肌荒れは皮膚科なのかアレルギー科なのかなど、親御さんが迷うケースはたくさんあります。症状をうかがった上で、病院探しのコツをお伝えすることもあります。たとえば、専門医という記載の有無や、症状によってはアレルギーを得意とする医師がよいとか、見つけ方のコツや基準などですかね。
今木:医師側だと、こういう話って逆に言いにくい部分もありますよね。けれども第三者的な立場だと、それが言いやすいというか。
橋本:そうですね、中立の立場で第三者的にアドバイスできるという点が大きなメリットですね。
同じ「オンライン」でも異なる役割 〜地方と都市部で違う「”孤立”のかたち」〜
今木:行政と連携されることも多いんですか?
橋本:はい、大きくは2つのケースがあります。 まず地方では、そもそも産婦人科医、小児科医、助産師が少ない現状や、いない地域もあり、妊娠・出産に関する初期相談の場が不足しています。だからこそ地方は「まずはオンラインでつなぐ」という発想が必要なんです。
一方、都市部では「誰が隣に住んでいるかもわからない」という孤立の課題があります。こちらもオンラインで「最初のつながり」をつくることが求められています。
今木:地域ごとの課題、ありますよね。たとえば地方だと、祖父母と一緒に暮らす戸建の家庭もあれば、都市部では引っ越したばかりで周囲に知り合いがいない、ママ友がいないマンション暮らしの家庭もある。家族構成や住環境によっても、サポートの形が変わってきますね。
橋本:そうなんです。しかも地方の場合、「みんな顔見知り」という環境が逆に相談しづらさを生むこともあります。行政の職員さんも知り合いだったりすると、ちょっと相談しにくいですよね。
今木:わかります。変なこと言ったら噂になるとか、ちょっと浮いてしまうかも、みたいな不安はありますよね。
橋本:だからこそ「関係ない誰か」に話を聞いてもらいたいってニーズもあるんです。
今木:地域コミュニティが濃すぎると、かえって相談できないってこともありますよね。全員が子どもの同級生の親とか。
「こんなことまで聞いていいの?」という迷いに寄り添う医療相談のかたち

今木:医療機関が選べる状況、常に近くにあるのは恵まれていることなんですが、実際にうまく活用できているかというと難しいですよね。
橋本:誰かが俯瞰して「こうすればいい」と決めてくれるわけでもないですしね。
今木:「気軽に相談してください」とは言われても、日本人って奥ゆかしいところがあって、「これくらいのことを聞いていいのかな?」とためらってしまいます。どの程度の内容なら、相談してもよいのでしょうか?
橋本:医師に相談しにくいということで、心の悩みや不調は、助産師さんに相談される方も多いです。
また、育児相談としては、「足が冷たい気がするけど、靴下を履かせたほうがいい?」「指しゃぶりが続いているけど大丈夫?」「離乳食で白米を食べない」とか、逆に「にんじんしか食べない」など、そういった日常の些細なことでも構いません。トイレトレーニングのことや、保育士さんに相談されるような内容でもOKです。
今木:それは親として安心しますね。
橋本:小学生の不登校についても相談を受けています。
今木:それはかなり相談範囲が広いですね。具体的な相談内容はどんな感じでしょう?
橋本:不登校気味の子もいれば、完全に学校に行けなくなっているケースもあります。
「勉強はどうしたらいい?」「人間関係に悩んでいる」「学校に戻るにはどうしたらいい?」など、さまざまな内容が混在しています。一回の相談で終わるものではなく、時間をかけて話を聞いて、身体面や家庭・学校との関係などから糸口を探っていきます。
今木:なるほど、定期的なフォローとしてサポートを行うのでしょうか。
橋本:システムとしては、毎週更新される予約枠の中から医療者を選べる仕組みになっています。特にメンタル面の相談では、本人が自分の状況を話してくれないと、解決の糸口が見つけられません。どんなに優れた医師でも、相性が合わないと相談が進まないこともあるため、「あの先生よかったな」と思ったら、再度その医療者を予約できるように配慮しています。
実際に、不登校のお子さんが夏休み中に相談を受けて、休み明けには登校できるようになった事例もあります。
子育ては「ひとりで頑張らなくていい」

今木:子どもにとっての親、そして子育てをする保護者の方々に向けて、最後にメッセージをお願いします。
橋本:「子育てには村が必要」というアフリカのことわざがあります。 この言葉が示すように、子育てには心理的・社会的なサポーターの存在がとても重要です。支えてくれる人が多いほど、保護者自身の心と体が守られ、その先にいる子どもたちの健やかな成長にもつながります。
真面目な方ほど「自分が頑張らなきゃ」と思いがちで、保育園に預けたり、ベビーシッターを頼んだりすることに後ろめたさを感じることがあります。でも人は本来、助け合って生きていく存在。「なんで助けてくれないんだ」くらいの気持ちで、もっと気軽に頼ってほしいと思います。
医療は「最終手段」ではなく、「日常の関係」で支えるもの。そういう距離感で利用できる仕組みを作りたいと思っています。
今木:子育て全体としても、もっと選択肢があっていいですよね。
橋本:本当にそう思います。たとえば離乳食ひとつにしても、「自分で作らなきゃ」と思い込む必要はありません。にんじんは、誰が料理してもにんじんです(笑)。何を食べさせるか以上に、「誰とどんなふうに食べるか」に注目してほしいですね。
今木:素晴らしい発想のサービスですよね。子育てする保護者の絶対的な味方というか。
橋本:ありがとうございます。現在は個人向けには直接提供していないため、自治体や企業を通じてご利用いただく形です。現状、全国39都道府県・230自治体に導入いただいています。
その他、企業の福利厚生サービスや、商品・子育て世代向けアプリへの付帯サービスとして導入いただいております。たとえば横浜市では、2025年1月から導入いただき、市の子育て応援アプリ「パマトコ」にご登録の市民の皆様に、私たちの事業を無料でお届けできることになりました。
お勤めやご利用の企業、お住まいの自治体にて、Kids Publicの「小児科オンライン」「産婦人科オンライン」サービスがご利用可能かご確認ください。
現在類似サービスはまだ少ない現状です。より多くの人に知っていただき、安心の選択肢のひとつになればうれしいです。「相談すること」へのハードルが少しでも下がるきっかけになればと思っています。
※Kids Publicのサービスは現在、法人・団体経由で提供されています。
ご自身が利用可能かどうかは、お住まいの自治体、勤務先企業・利用中のアプリなどによって異なります。あらかじめご了承くださいませ。
対談者プロフィール
小児科医としての臨床経験から、子どもの健康に関する不安や現状に問題意識を持つ。その思いから、2015年12月に株式会社Kids Publicを設立。産婦人科医・小児科医・助産師にスマートフォンから相談できる「産婦人科・小児科オンライン」は230以上の自治体・企業に導入されている。
“子育てには村が必要”というアフリカのことわざをコンセプトに、インターネットという人々のつながりを活かして、「どのご家庭も子育てにおいて孤立しない」社会作りを目指す。
インタビュアー プロフィール
京都大学大学院エネルギー科学研究科修了。ユーザー行動調査・デジタルマーケティングのbeBitにて国内コンサルティング統括責任者を経験後、2014年、RISU Japan株式会社を設立。小学生の算数のタブレット学習教材で、延べ30億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムを考案。国内はもちろん、シリコンバレーのスクール等からも算数やAI指導のオファーが殺到している。
〈タブレット教材「RISU算数」とは〉
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協力/RISU Japan株式会社、 構成/HugKum編集部
