「特別な才能はない」“トイレ愛”で東大推薦合格! その背景には“トイレ1000個調査”など地道な研究が…8年も続けられたワケ、両親の教育方針は

中3のときに日本中1000カ所のトイレを「自由研究」として足で調査。研究を続けるために自ら応募してアメリカ留学、そして学校推薦型選抜で東京大学に入学した原田怜歩(らむ)さん。そのバイタリティと実現力に脱帽です! 優秀すぎてマネできない? いえいえ、お話を聞いてみると、子どもたちにも参考になる、「自由研究するためのマインドやノウハウ」がたくさんあります。ニコニコと語る原田さんのお話を聞くと、一過性ではない、研究の楽しさや喜びもたくさん味わえますよ!

アメリカのトイレは素っ気ない。でも「いいトイレ」もある

――原田さんは、トイレを自らの研究対象とし、その研究を続けて公費留学を実現、東大に学校推薦型選抜で入学した方として知られています。なぜトイレを研究しようと思ったのですか?

原田さん きっかけは、中3のときにアメリカに語学留学したときの現地のトイレでした。フロリダ州に2週間留学し、当地ではとても楽しくて、日本食が恋しいとか家族に会えないなどというホームシックはなかったのですが、ただ、アメリカのぬくもりのないトイレに衝撃を受けました。防犯のために下のほうが開いていて足が見えるようになっていて落ち着かないし、雰囲気も素っ気なく冷たくて。

現地のホストファミリーにその話をしたら、「でも、アメリカにもなかなかいいトイレがあるよ」と、オールジェンダートイレ(性別による利用制限がなくだれもが利用できる)を教えてくれました。こんなトイレもあるんだって、また衝撃でした。

トランスジェンダーの友達のためにもトイレを研究したい

原田さん 過去を振り返ると、小学校の頃にトランスジェンダーをカミングアウトした友達がいたんです。遊びに行くときに「外のトイレを使いたくない」とよく言っていました。使えるのは公園のトイレか車椅子の方も入りやすい多機能トイレしかない、と。日本にはオールジェンダートイレはあるのだろうか、あるとすればどれくらいあるのか。調べてみたくなりました。

アメリカで撮影したオールジェンダートイレ(本人提供)

原田さん 少し調べると、オールジェンダートイレはトランスジェンダーの方だけでなく、女の子をお父さんがトイレに連れて行くときや、女性のトイレばかりが混んでいるときなどにも使いやすいですし。もっと普及してもいいのではと思いました。が、実際にはまだまだ当時の日本には少なかったですし、当事者にどれくらい認知されているのかも気になりました。

同時に、多機能トイレについても興味を持ちました。車椅子の方は使いやすいのか、使える場所を認知しているのか。マイノリティの視点で、トイレを研究してみようと思ったのです。

都内の駅や空港などのトイレを1000カ所を訪ねて調査

原田さん 帰国するとトイレの実態を調べ、研究を始めました。都内の駅や空港などの公共のトイレを中心に1000カ所くらい回りましたね。どこのトイレにどんな機能が備わっているのか、バリアフリーの設備も含めて、写真を撮ってメモしたものをまとめました。

中学校時代のトイレ研究ノート。「日本全国トイレの旅」と題し、1年で1000カ所ものトイレを調べたと言います(本人提供)

親も学校も本人のやりたいことを自由に応援する方針だった

原田さん だれに言われたわけでもなくて、自分で始めました。うちの親は「子どもは自由にやりたいことを」という方針ですし、私は中高時代、横浜の公文国際学園で寮生活をしながら学んでいました。公文国際は「本人のやりたいことは自由にやりなさい、応援するよ」という姿勢だったので、トイレの研究の背中を押してしてくれました。

びっしり調査メモが書かれたノート(本人提供)

文部科学省の留学プログラムでアメリカへ行きトイレ研究を

――そして、そのトイレ研究を動機として、文部科学省の留学プログラム『トビタテ! 留学JAPAN』に応募。見事留学を勝ち取り、アメリカ・アラバマ州へ1年間の予定で留学したのですよね。

原田さん アメリカではオールジェンダートイレは学校にもありますし、ごく普通に使っています。日本より圧倒的にサンプルも多いです。トイレの環境を知るためには現地で研究をしないことには……、と思い、いろいろ調べて文科省の留学プログラムに応募したんです。留学費用は出してもらえますし、親にも迷惑をかけないかなと。

アメリカ留学を視野に、トイレ機器やサービスを提供する企業、TOTOやLIXILにも協力していただきました。

トイレ機器の企業をいきなり訪ねて担当者に会う

――当時、まだ中学3年生ですよね!? どうやって企業とコラボしたのですか?

原田さん 「研究」といっても自力だけでは、と思い、現地のトイレ状況をきちんと知るため、また現地の研究したいところにつないでいただくために、日本の本社からアメリカの支社や販売会社などに私の研究を紹介していただこうと思ったのです。

今思えばずうずうしかったですが(笑)、本社にいきなり行って受け付けの方に「私はこういうことをやりたいのですが、一番合いそうな部署を教えてください」と言って社員の方に会わせていただいたり、ホームページのお問い合わせページに立て続けに現地でのおつなぎのお願いを訴えたり。中学生ですとSNSの企業のアカウントに連絡することもできず、そんな突撃、みたいな方法しか思いつきませんでした。

原田さん でも、あたたかく受け止めてくださり、現地のご紹介もいただいて、本当にありがたかったです。

――1年間留学するとなると、帰国してから1年遅れになるのでしょうか。

原田さん 友達と一緒に卒業したかったので、単位の交換ができる学校を選ぶなど、そこは学校にお願いをしました。勉強の不安もありましたが、渡航までの3~4カ月、先生方が夜10時、11時まで居残りをして、留学中の日本の勉強を教えてくださったんです。寮生だからできたとはいえ、本当に先生方には感謝です。アメリカ滞在中も日本の勉強を少しやっていたので、わからないところを電話で聞いたりしていました。

ただ、留学中にコロナ禍が広まり、10か月の留学で帰国しなければならなくなって。最後の3か月でいろいろやることを考えていたので、心残りもありました。

帰国後はトイレを起点にジェンダーを考える団体を発足

――帰国してからは……。

原田さん 当時は緊急事態ということでどこにも行けなかったし、学校も休校でした。動きもとれなくて。学校の先生方にも協力してもらって、トイレにおけるジェンダー課題を解決する『Plunger』(トイレが詰まったときに吸い出す器具の英語名)という団体を作りました。そこで仲間と話し合い、「SDGsを漫画で学べるトイレットペーパー」を制作することにしました。

SDGsの17個のゴールには、「5. ジェンダー平等を実現しよう」「6. 安全な水とトイレを世界中に」が含まれています。こうした社会課題をより広く知ってもらうには、毎日使うトイレットペーパーをメディアにして漫画で学べるといいのではないかと考えました。資金はクラウドファンディングで集めたんです。クラウドファンディングは学生でも挑戦できますし、担当の人もついてくれるので、トライすること自体は難しくないんです。

実際に制作した「SDGsを漫画で学べるトイレットペーパー」

原田さん 200万円の資金を集めてトイレットペーパーを制作し、全国の小中学校や公共施設などに寄付し、たくさんの人に届けました。最後まで残るものより使い切ったら終わりというもののほうが自治体なども受け入れやすかったのだと思います。特に鎌倉市は積極的に受け入れてくれました。鎌倉駅のトイレに設置するとTwitterでバズったりしたこともあって、海外からの観光客にも話題になりました。

このプロジェクトを始めた頃は4人だったけれど、この頃にはメンバーが40~50人になりました。年齢もジェンダーもバラバラです。また、LGBTQ+のコミュニティの方々とも知り合いになり、30~40くらいのコミュニティと交流し、話をするようになりました。

やりたいことは人に伝え、仲間を作って実現していく

――中3のときに「オールジェンダートイレを自分なりに研究してみよう」と思い立ってから2~3年でこんなに大きなことができるなんて、さすがです。

原田さん 自分にすごい能力があったわけじゃないんです! 研究を広げるにあたって、「これやりたい、あれやりたい」って周囲に躊躇なく伝えていたところが大きいと思っています。ひとりで考えるのは限界があります。3人4人で考えればどんどん大きくなり、その仲間が仲間を広げてくれます。まず周りの人に「これ、研究したいんです」って言ってみる。アイデアだけでもいいと思うんです。

原田さん 集まって来てくれた人たちは、単純に「おもしろそう!」と興味を持ってくれたり、「怜歩がやっていることにできる範囲で協力してあげたいな」みたいな、軽めの気持ちがスタートだったと思います。こちらもあまり重荷と感じるところなく意見としてもらう、というように、ゆるさも持ちながら付き合っていくことが、継続のポイントかなと思います。

――やりたいことを思いついたとしてもどうやって広げ、どう結論づけるのか、親子で悩んでしまいがちな自由研究。でも、原田さんのようにしっかりと続けていくには、そのときどきの状況で変化を受け止めていくこと、うまくいかないときには躊躇せず方向転換すること、そしてお互いに気楽に付き合える研究仲間を増やすこと、なんですね! 後編は、その研究を東大の学校推薦型選抜合格に結びつけたいきさつを伺います。

後編はこちらから

8年間トイレ研究を続けて東大推薦合格! 「高卒でもよかったけど…」原動力はトランスジェンダーや車椅子の友達の存在【東大生 原田怜歩さん】
前編から読む 大学に行かずに起業するのもひとつの道だと思った ――原田さんは中学3年から高校3年まで、オールジェンダー...

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お話を伺ったのは

原田 怜歩(らむ)さん

2003年生まれ、東京都出身。公文国際学園高等部在学時に「トビタテ!留学JAPAN」代表留学生として渡米。コロナ禍により10カ月間のアメリカ留学となったが、アメリカにおけるジェンダーフリートイレの普及状況調査を行った。トイレにおけるジェンダー課題を解決するためのチーム「Plunger」を立ち上げ「SDGsを漫画で学べるトイレットペーパー」を製作、「日本トイレ大賞2021」を受賞。東京大学に学校推薦型選抜で合格、経済学部で「トイレと経済性」について学ぶほか、2024年には株式会社UN&Co.を設立。

取材・文/三輪泉 撮影/五十嵐美弥

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