なぜトランプ大統領は選ばれたのか? 池上彰さん・増田ユリヤさんの筑波大学附属中学校での特別出張授業をレポート! ニュースの“その先”を考える

2025年7月10日、筑波大学附属中学校で特別授業「池上彰・増田ユリヤ 出張講義」が行われました。講師は、鋭いニュース解説で信頼を集めるジャーナリスト・池上彰さんと、現場主義の取材で社会の今を伝えるジャーナリスト・増田ユリヤさん。『池上彰と増田ユリヤのYouTube学園特別授業 ドナルド・トランプ全解説:世界をかき回すトランプ氏が次に考えていること』(Gakken刊)を参考書籍に、同校の中学2年生約200名と保護者約50名とともに、アメリカ政治の本質について真剣に語り合いました。

「なぜトランプは選ばれたのか?」

授業は、池上さんの問いかけから始まりました。

池上彰さん(左)、増田ユリヤさん(右)。テレビで見ていた池上彰さんの登壇に、会場の熱は一気に高まりました。

「この人たちの共通点は何ですか?」
「この人たちの共通点は、何だと思いますか?」

スクリーンに映し出されたのは、歴代のアメリカ大統領やキング牧師の顔写真。静まり返る会場。生徒たちの目が、写真の一枚一枚に注がれていきます。

やがて明かされた答えは――「銃撃されながらも、一命をとりとめた人物たち」。レーガン大統領とトランプ前大統領です。池上さんは、アメリカ大統領選の取材を毎回行っていることに触れながら、「選挙の前、“まさかトランプが勝つはずがない”という声が圧倒的でした。でも、結果は違った。なぜ多くの人が予想を外したのでしょうか」と問いかけます。

ここで増田さんが、「隠れトランプ」という言葉を紹介しました。

「当時、“トランプ支持”と表立って言うのは恥ずかしい、と思われていました。でも、実際には心の中で支持している人がたくさんいたんです。私たちが“正しい”と思っていたオバマ大統領に不満を抱いていた人たちの声を、取材現場で強く感じました」

その後、支持層の背景、宗教観、産業構造、地理的格差、ポピュリズムの浸透など、多角的な視点からの講義が続き、「トランプ大統領がなぜアメリカ大統領に選ばれたのか」の解説に、生徒たちは真剣に耳を傾けました。

白熱する質問タイム

事前学習を経て準備した質問を、池上さんに自らの言葉でぶつける筑波大学附属中学校の2年生

講義のあとは、生徒たちの事前質問に答えるコーナーへ。会場の熱気はさらに高まります。
最初に取り上げられたのは、AIが考えた、関税交渉を和やかに進めるためのダジャレへのコメントを求める、ユニークな質問でした。

生徒:日本の自動車に関税をかけると、アメリカにも被害が及ぶと思います。いい未来はくるまい、と思うけど…?

池上さん:あなたたちには“いい未来はくるま(車)い”が、アメリカには“カー(car)っと”いい未来がくるんだよ。

質問には「ダジャレで返してください」とまではありませんでしたが、池上さんはなんと即興でダジャレ返し。
見事な切り返しに、会場から大きな拍手と歓声があがりました。「池上さんがNHKのキャスターをしていたとき、ニュースの最後にダジャレを言っていたんですよ」と増田さん。池上さんも「言いやすいニュースを選んだりしてね(笑)」と場を和ませます。

ニュースの疑問点を池上さんにぶつける

「SNSを使った選挙活動の影響は?」生徒の問いに、情報発信の“ねらい”を見極める視点から答える池上さん

政策的な視点からも鋭い質問が挙がりました。

生徒:今朝、「トランプ政権が、国外から輸入する医薬品や医薬品の原料に対して200%という極めて高い関税をかける」というニュースを見ました。アメリカの国民の反応はどうですか?

池上さん:海外の工場を閉鎖し、国内に戻せば関税は回避できます。つまり、雇用創出につながるという側面から、支持する層も多いのです。

アメリカ国内の雇用と保護政策のバランスについての丁寧な説明に会場もうなずきます。

数字操作についての質問も飛び出しました。

生徒:ニュースで「関税が24%に上がる」と思ったら、次の日には30%になっていたり、しばらくして25%になったりすることもあります。なぜこんなふうにコロコロ変わるんですか?
(※記事は2025年7月10日時点の取材に基づくものです。その後、8月7日には、トランプ米政権が日本への「15%の上乗せ関税」の発動を発表しました)

池上さん:これは交渉術なんです。トランプ大統領は、まず高くふっかけておいて、あとから譲歩してみせることで、相手に“得した”と思わせる。
ウォール街のトレーダーの間では、“TACO(Trump Always Chickens Out)”という言葉も使われています。「トランプはいつもチキって〈おじけづいて〉退く」という意味で、無理な要求を出しておきながら、最終的にはそれを引っ込めたり、先送りにしたりする――そんな交渉スタイルを皮肉った表現です。
でもこれこそが、彼の戦術。アメリカ国民の多くも、もうそういう手口には慣れっこなんですね。

SNS時代における情報の見極め方についても質問します。

生徒:SNSで政治メッセージを発信する政党が増えています。私たちはそれをどう受け取ればよいのでしょうか?

池上さん:SNSは手軽な情報源ですが、発信者の意図を見極める必要があります。一つの情報だけを信じるのではなく、複数の視点から比較する習慣を身につけてください。SNSは“入口”に過ぎません。

やりとりを聞いていた生徒たちは、真剣な面持ちでメモを取り続けていました。

ある生徒は、再生可能エネルギーと風力発電について自ら計算して仮説を立て、質問に盛り込み、また別の生徒は「パリ・コミューン」といった難解な用語を使い、歴史的な視点から現代の政治についての質問を投げかけました。

「ニュースの見方が変わった」

授業の熱気そのままに、全員でパシャリ。笑顔で記念撮影する筑波大学附属中学校の2年生のみなさん

生徒たちは、講義後にこう感想を述べています。

「実際のアメリカの事情を初めて自分ごととして考えられた。日本と違う価値観の中で、トランプさんを選んだ人の思いが少し分かった気がします」

「トランプさんのことを“変わった人”くらいにしか思っていなかったけれど、支持される理由があると分かってびっくりしました。アメリカの人たちの不安や怒りの背景に、少し近づけた気がします」

「風力発電の話をしたとき、“仮説を立てたことがすごい”と言ってもらえてうれしかったです。授業で学んだことを、自分で調べて考えることって、意味があるんだと思えました」

「ニュースの見方が変わった。誰が何を言っているかだけじゃなく、背景に何があるのかを考えてみたい」

保護者からは「家庭で選挙や政治の話をするきっかけになりそう」「中学生にここまで本質を問う授業があることに驚いた」といった声も聞かれました。

「正しさ」を疑って、「なぜ?」を持ち続ける

講義後、増田さんは生徒たちを称えるように語りました。

「皆さん、本当にいい子たちで、質問を一生懸命考えてきたことが伝わってきました。日本や世界のことを真剣に考えている、その姿勢に胸を打たれました」

池上さんは、「実は私は小学生のときにこの学校を中学受験したかった。当時の担任の先生に止められてかなわなかったけど、今日、その夢がかないました」と生徒たちに微笑みかけ、講義の感想を「どの質問も印象に残っています。一生懸命自分の頭で考えて仮説を立てたり、歴史的な知識を掘り下げたりしている姿に感動しました。正直、私もパリ・コミューンについては一瞬焦りました(笑)。でも、それくらい皆さんが真剣に準備してきてくれたんですね」と話します。

最後に池上さんは、「私たちが“正しい”と思っていることも、世界のどこかではまったく通じない。だからこそ、“なぜ?”と疑問を持ち、情報を自分で取りに行くことが何よりも大切です。それは子どもたちだけでなく、私たち大人にとっても難しい課題。今日の講義や拙著がそのきっかけになればうれしい」と語りました。

この日の模様は、「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」で公開中です。知的好奇心のあふれる特別授業の空気を、画面越しにぜひ、体感してみてください。

お話を聞いたのは

池上彰 ジャーナリスト、ニュース解説者、大学教授

1950年、長野県松本市生まれ。1973年にNHK 入局。報道記者としてさまざまな事件、災害、消費者・教育問題などを担当。1994年よりNHK 「週刊こともニュース」に出演、ニュースをわかりやすく解説するキャスターの先駆けとして脚光を浴びる。2005年よりフリーのジャーナリストとなり、テレビのニュース解説者や大学教授としても活躍を続ける。角川武蔵野ミュージアム館長。『歴史で読み解く!世界情勢のきほん 中東編』 (ポプラ社)、『知らないと恥をかく世界の大問題』 (KADOKAWA)など著書多数。

お話を聞いたのは

増田ユリヤ ジャーナリスト

1964年、神奈川県横浜市生まれ。27年にわたり高校で社会科講師を務めるかたわら、NHK のリポーターとして活動。現在はジャーナリストとして取材、執筆のほか、テレビ朝日系列「大下容子 ワイド!スクランブル」にコメンテーターとして出演。これまでの取材で45の国と地域を訪れた。『揺れる移民大国フランス』『チョコレートで読み解く世界史』(いずれもポプラ新書)、『ニュースがわかる国境学』(KADOKAWA)など著書多数。

池上彰 増田ユリヤ Gakken 1760円(税込)

ジャーナリストの池上彰と増田ユリヤが、現代の世界を取り巻くさまざまな問題をわかりやすく読み解くYouTubeの人気コンテンツ「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」から生まれた本書は、トランプのアメリカと世界をめぐる、書籍版の「特別授業」です。
再びホワイトハウスに戻ったトランプと、揺れ動く国際社会。はたして彼は世を混乱させるトリックスターなのか? それとも平和の救世主か? その正体と本音をどこよりもくわしく、わかりやすく解き明かします!

こちらの記事もおすすめ

なぜアラスカ? 4年ぶりの米露首脳会談は「多くの点で合意」と語るトランプ氏。具体的な成果は何?【親子で語る国際問題】
ウクライナ侵攻以来初の対面会談 2025年8月15日、米アラスカ州アンカレジのエルメンドルフ・リチャードソン統合基地で、米国のドナル...

取材・文/黒澤真紀

編集部おすすめ

関連記事