米国では若い世代ほど原爆投下に批判的
2025年、終戦から80年を迎える中、米国で行われた世論調査が注目を集めています。毎日新聞の報道によると、ピュー・リサーチ・センターが実施した調査で、米国人の若い世代ほど1945年の広島・長崎への原爆投下を「正当化できない」と考える傾向が強いことが明らかになりました。
この結果は、歴史認識や価値観の世代間ギャップを浮き彫りにし、現代の若者が原爆投下をどのように捉えているかを考える重要な手がかりを提供します。なぜ若い世代は、過去の世代と異なる見方を持つのでしょうか。
参考:ピュー・リサーチ・センターによる調査。若い世代で「正当化できない」が多数

ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、米国人の全体で35%が原爆投下を「正当化できる」と回答したのに対し、若い世代(18~29歳)ではこの割合が27%にとどまり、44%が「正当化できない」と答えました。
一方、65歳以上の高齢層では48%が「正当化できる」と回答し、世代間で明確な差が見られます。
ただ、10年前の2015年の調査では、56%が「正当化できる」と答えていたことから、全体的に正当化を支持する意見が減少し、特に若年層でその傾向が顕著であることがわかります。
若い世代の意識が変わった背景
なぜ若い世代は原爆投下に批判的になったのでしょうか。
要因1:歴史教育の変化
米国の歴史教育は、近年、より多角的な視点を取り入れるようになっています。米国の歴史教科書は、原爆投下の是非についても賛否両論を併記するなど、客観的なアプローチが採用されています。
若い世代は、原爆がもたらした壊滅的な被害や、被爆者の体験談を学校やメディアを通じて学ぶ機会が増えています。例えば、漫画『はだしのゲン』の英訳版や被爆者の証言活動が、米国での原爆のイメージを変える一因となっています。
要因2:さまざまな情報にアクセスできるようになった
インターネットやSNSの普及により、若い世代は多様な情報に触れる機会が広がりました。SNSを通じて被爆者の声や反核運動のメッセージが直接届くようになっています。これにより、かつて主流だった「原爆投下は戦争終結のために必要だった」という政府や軍の公式見解に対し、批判的な視点が広がりやすくなっています。
要因3:人権意識と平和志向の高まり
若い世代は、グローバル化や人権問題への関心の高まりから、戦争や暴力に対する倫理的な問題意識が強い傾向があります。原爆投下による民間人の犠牲や、長期的な放射能被害の深刻さを考慮し、「どんな理由があっても正当化できない」と考える人が増えているのです。
今回の調査で30歳未満の44%が「正当化できない」と回答したことは、この世代の歴史評価が変化していることの証左と言えそうです。
米国の原爆正当化論に陰り
一方で、高齢者層では「正当化できる」との意見が依然として根強いことも事実です。これは、第二次世界大戦を直接経験した世代やその影響を受けた世代が、「原爆投下が戦争を早期に終結させ、さらなる犠牲を防いだ」との認識を持つためと考えられます。

しかし、若い世代は戦争の記憶が遠くなり、直接的な体験よりも客観的な情報や倫理的判断に基づいて歴史を評価する傾向が強いです。
この世代間のギャップは、単なる意見の違いにとどまりません。米国で根強い原爆正当化論に陰りが生じている可能性が示唆されており、社会全体の歴史認識が変化しつつあることを意味します。若い世代の意識変化は、核兵器廃絶や平和構築に向けた新たな動きを後押しする可能性があります。
米国の意識変化が、核のない世界への一歩に
終戦80年という節目を迎え、原爆投下をめぐる議論は新たな段階に入っています。被爆者の高齢化が進む中、若い世代がその証言を受け継ぎ、核兵器の非人道性を訴える動きはさらに重要になるでしょう。米国での意識変化は、国際的な反核運動にも影響を与え、核なき世界をめざす一歩となるかもしれません。
この調査結果は、歴史認識が時代と共にどのように変化するかを示す好例です。若い世代が原爆投下を「正当化できない」と考える背景には、教育、情報、価値観の変化が深く関わっています。
皆さんにも、被爆者の声や歴史の教訓を次世代に伝え、平和への意識を高める努力が求められてくるでしょう。
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバルサウスの研究に取り組む。大学で教壇に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。
