WBCで大谷選手が仲間に伝えたあの言葉こそが『ペップトーク』。思春期に向かう子どものやる気を引き出す魔法の言葉かけとは?

アメリカのスポーツシーンで生まれた、選手のやる気を引き出す【ペップトーク】を知っていますか?
『思春期の子どものやる気を引き出す 実践 ペップトーク読本』の著者である理学療法士のさいとうさんは、思春期の3人の子どもを育てています。仕事と子育てに多くの共通点を見出し、仕事と同じように子育てをしていました。ですが、子どもたちが思春期に入ったころ、次第にギスギスした親子関係になっていることに気づいたのだそう。そこでペップトークを学んで実践してみたら子どもとの関係が改善したといいます。
今回は本書を参考に、ペップトークの特徴や子育てシーンで実践したい言葉のかけ方をご紹介します。

WBCで優勝に導いた大谷選手のペップトーク

2024年3月、アメリカで行われたWBC日本対アメリカの決勝戦が行われる直前の日本チームのロッカールームにて、大谷選手がチームメイトに話した言葉を覚えていますか?

「僕からは一個だけ、憧れるのはやめましょう」

この語りかけから始まった短いスピーチは、野球の聖地にやってきたチームメイトたちが、憧れのメジャーリーガーとの決戦を前に、緊張に飲まれることなく普段通りの実力を存分に発揮できるよう、大谷選手が考えて伝えた言葉でした。その言葉の力もあって、侍ジャパンは奮起し、優勝を勝ち取ることができました。

本書によるとその言葉がまさにペップトークなのだそうです。

まず知りたい「ペップトーク」とは?

ペップトークはアメリカのスポーツシーンで生まれました。「ペップ」は元気・活気を意味する英単語、「トーク」は話すこと。「ペップトーク」は「激励演説」として辞書に掲載されているそうです。

先ほどの大谷選手の言葉のように、選手が持っている力を発揮できるように、または不安や迷いを打ち消すために監督やコーチが話す短いスピーチをペップトークといいます。

この、「相手に合わせた言葉がけで本領を発揮させる」ことこそがペップトークの持つ力で、それはスポーツだけでなく、子育てにもぜひ取り入れたいと本書ではすすめています。

ペップトークの4つの特徴

ペップトークには、次のような4つの特徴があります。

①短い
②分かりやすい

③肯定的な言葉を使う
④心の状態を最適化する言葉かけ

大人への声かけも上記の4ステップは大切ですが、子どもに実践する場合は、①短い②分かりやすいということがより必要であることは理解できます。そしてペップトークの目的である「やる気を引き出す」という意味でも③肯定的な言葉を使うことは当然あると思いますが、④心の状態を最適化する言葉かけという点が、ペップトークの大きな特徴です。

心の状態を最適化する言葉かけというのは、子どもの置かれた精神状態によって必要に応じて話のトーンを変えて思いを伝えるということなのだそう。肯定的な言葉を用いるのはもちろんですが、その言葉をかけるときの相手の気持ちや状況までも慮ることが必要だと言えそうです。

子どものやる気を引き出すときの4つのステップ

また、4つの特徴があるペップトークには、さらに4つのステップがあり、それは【受容】【とらえかた変換】【してほしい変換】【激励】といった内容で構成されています。

今回は子どもとのやり取りのシーンを想像しながら親側の心の中を紐解いてみましょう。

夜更かしする子どもにイライラ……

思春期になると子どもの寝る時間が遅くなり、親はイライラしてしまいますよね。そんなときに「早く寝なさい!」とか「明日起きられなくなっても知らないよ!」といった言葉をかけてしまってはいないでしょうか。

親の本音としては、「早く寝ないと、明日が辛くなってしまう」「遅刻をしたら子どもが先生に叱られてしまう…」という本来子どもに向けた優しい気持ちであるはずなのに、なぜか口から出た言葉は違った表現になっていませんか?

そんなときは、まずは「子どもが今何をしているか」、「寝られない理由があるのか」といった状況を受け止める必要があります。【受容】

そのうえで、親の気持ちである「体調が心配である」ことや「遅刻して先生に叱られたらかわいそう」という思いを伝えてみてはいかがでしょうか。【とらえかた変換】

さらに、夜更かしする原因を別の時間に移すことはできないかといったことを子どもに提案したり、子どもと話したりしてみます。【してほしい変換】

生活習慣にもなれば、一度伝えたところで簡単に夜更かしを直すことは難しいかもしれません。それでも何度もこういった声かけを続けながら、子どもが話を聞いてくれた、実行しようとしてくれたことにはきちんと感謝を伝え、そして頑張りや行動の変化を見守っているということを、親は子どもに言葉にしてきちんと伝えられたらよいのではないでしょうか。【激励】

ペップトークは誰かに向けるためだけでなく、自分にも向けてほしい

親子の関係性がギスギスする要因はいろいろありますが、その一つに親自身に余裕がないからということはないでしょうか。毎日仕事が忙しい、帰宅が遅くていつも時間に追われている、子どもには栄養のある食事を手作りしなくてはならない、家の中をきれいに保ちたい、子どもの宿題や勉強を見てあげたい……。挙げればきりがありませんが、子育てをしているパパママは本当に頑張っていますよね。

自分自身へ向けたペップトークを「セルフペップトーク」と言います。もし子どもについ辛い言い方をしてしまう、すぐにカッとなって叱りつけてしまうということがあったら、子どもに向けてだけでなく、まずはパパママがセルフペップトークを試してみてはいかがでしょうか。

セルフペップトークの方法は簡単で、「自分に前向きな言葉をかける」だけでいいのです。独り言でも、心の中のつぶやきでもかまいません。「今日買ったお惣菜が安かった。私、ついてる!」「適当に作ったおかずがおいし過ぎる。天才かも!」など。

ペップは「元気」「活気」を意味します。難しく考えず、前向きな言葉の力でパパママ自身がより前向きになれたら、子どもにもペップな言葉をかけてあげられ、その言葉をいっぱい浴びた子どもは、前向きに大きく育っていくのではないでしょうか。

思春期の子どものやる気を引き出す 実践ペップトーク読本

ペップトークの基本、そして思春期ならではのアプローチ法を分かりやすく解説している本書は、「思春期子育て・あるある」で使えるペップな言い換えを楽しく紹介しています。

著者のさいとうさんは、思いがあるからこそついわが子に言ってしまうあんなことやこんなことを、【ペップな言葉かけ】に変えるだけで、子どもに寄り添う気持ちが届き、子育てが劇的に変わると言います。子どものやる気を引き出したいとき、トゲトゲした空気を変えたいときに、ぜひ続きを読んでみてくださいね。

さいとうさん メイツ出版 1,892円

思春期の親は、日々葛藤中。「このままだと心配」「やればできるはずなのに」

そしてつい言ってしまう「どういうつもり?」「そんなことだから××なんだ」
どう言えば子どもに響くのか。そんなときに試してほしいのが、ペップトークのスキル。

どんよりした空気を変えるための【ペップな言葉を生むヒント】【ペップな言葉がけ】をわかりやすく紹介します。

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