子どもたちには“アートって面白い”を感じてほしい
アートって「正解が1つじゃない」から面白い
──「芸術をもっと身近に」というコンセプトで活動されていますが、子どもたちにとってのアートの入口はどんなところにあると思いますか?
真田さん: 今の時代、誰でも美術館にも演奏会にも行けるはずなのに、そこに至るまでの敷居がまだ少し高いというか…。学校の美術や音楽の授業があまり面白くないと感じる子も少なくないんですよね。算数や国語みたいに答えが一つに定まるものではなく、自分なりの正解を導き出して相手に伝えることを楽しめるジャンルなので、その「答えが一つじゃない面白さ」を、僕たちが楽しみながらものを作ったり演奏したりする動画で発信することで、少しでも背中を押せたらと思って活動しています。
おばんさん: YouTubeというプラットフォームを通して、誰でもスマホさえあればアクセスできるところに、僕たちがコンテンツを発信することで、美術館に実際に行ってみたい、ライブやコンサートに行ってみたいという意欲をかき立てる。生の体験への橋渡しになれたらという気持ちもあります。

子ども時代、「怒られない」からずっと続けられた、もっと深く入り込めた
──お二人は子どものころ、どんな遊びに夢中になっていましたか?
おばんさん: 家族がそもそも音楽好きで、父がギターを弾き、兄がドラム、姉は歌を歌っていました。弟心として兄のものを使いたくなるんですが、最初はゲームをこっそり取ったりしていたら怒られて。でも、家の電子ドラムを叩いてみたら、それだけは兄に怒られなかった。だから、ずっと続けた、という感じ。記憶のないころから段ボールを叩いていたとも親に言われましたが、真偽は親のみぞ知る(笑)。
例えばゲームを好きになれるのって、まず何であっても1つのものに没頭するということができるからですよね。僕の場合は好きなアーティストの音楽を聴きながらドラムを叩いていると、自分もその一員にいるみたいな没入体験ができて、それがたまらなくて。気づいたら1日の4分の1ぐらいがドラム練習になっていました。
真田さん: 僕は段ボールを叩かず、基本的に段ボールの中に入っているタイプでした(笑)。コピー用紙と鉛筆を渡しておけば黙ってずっと何か塗ったり書いたりしているような子で、体を動かした痕跡が線として残ることにずっと面白さを感じていて。
収集癖もあって、石を集めて骨に似たパーツを組み合わせ、恐竜の骨格模型を作ったり、鉄くずのネジをはめてロボットを作ったり。川に入って魚を捕って、それをスケッチするような子どもで、そういうことが知らないうちにトレーニングになって積み重なっていったんだと思います。

──子どものころを振り返って、今の表現活動につながっていると感じる体験はありますか?
おばんさん: 小学生のときに、四コマ漫画を量産してました。全部爆破オチなんですが、ちょっとずつ、なんで爆発するかが違うんです(笑)。そのせいで、いろんなものを爆弾に見立て始めたんですよ。ヨーグルトを開けたらフタの裏に小さい玉みたいなのがついているじゃないですか。あれは実は爆弾なんじゃないかって(笑)。人を笑わせたい、喜ばせたいという気持ちが原動力になり、そのための努力を怠らないことが昔から楽しかった。今でもアートゥーン! のメンバーをどうやって笑わせようか、ずっと考えています。

真田さん:僕は絵本の上に座るという赤ちゃんでした。読み聞かせてもらっているとき、絵本の上に座ることで、その世界に「入ったことにする」という。
おばんさん: 子どものころって、何とかして創作物の中に入り込もうとしますよね。
真田さん: そうそう。段ボールの中に入るのも同じ感覚で。自分の行動によって新しい世界観を作り出すことに、ずっとワクワクしていたんだと思います。
両親は僕たちを「放っておいてくれた」・「一緒にやってくれた」
──ご家族はお二人がのめり込んでいることに、どんなふうに関わっていましたか?
おばんさん: 単純に音が大きいので「時間は守れ」とは言われていました。でも、辞めろとは言われなかったし、辞めろと言われてもやっていたと思います。ありがたかったのは、ドラムスティックが折れたって言うと「しゃあないな」って買ってもらえたこと。あとは親も音楽が好きだったので、○○のライブの何年のとき…、みたいな会話を親子でずっとしていて。音楽が共通の話題だったのは大きかったですね。
真田さん:僕の親は、描いている最中は放っておいてくれました。完成品を見せたら褒めてくれる。だから黙々と描いて、見せて、褒めてもらって、また黙々と描く、の繰り返し。画材もあまりこだわらなくて、その辺に転がっている鉛筆やシャーペンで。家に新しい家電が届いたら、梱包の段ボールを使って何か作るような子どもでした。

「上手・下手」という評価ではなく、選び取ったことや過程を面白がってあげて
──子どもが絵を描いたり、ものを作ったりするとき、親はどんなところを見てあげるといいでしょうか?
真田さん:上手い・下手を評価するポジションって、どうしても先生的になってしまいがち。どちらかといえば、同じ目線に立って創作物にコメントする、仲間みたいな意識で関わってくれるほうがありがたいですね。例えば、「この線が面白いね」「なんでこの色を選んだの?」「お父さんも真似していい?」のように、手法や動き自体を面白がってくれる関わり方はおすすめです。
最初にパッと絵を見たときの「上手い・下手」って、けっこう偏見ベースだと思っていて。その子が選び取ったことへの評価を積み重ねることが大事だと思います。小学校のスケッチ大会で、みんなが桜の木を描いている中で僕は風に舞っている花びらだけを描いたことがあって。先生が「絵の具がついちゃった感じ?」と聞いてきたから「風に舞ってるやつを描きたくて」と答えたら、「めっちゃいいじゃん!」と言ってくれて。「桜を描きましょう」の答えが木じゃなくてもいい。そういう自由な発想を肯定してもらえたのは、今もずっと心に残っています。
雨の日に活躍! 家にある身近なものでアートに触れる遊びを
ボウル、お椀、ラップ、箸。家にあるものは、全部楽器になります
──楽器がなくても、家庭でできる音遊びはありますか?
おばんさん: 打楽器のいいところって、固体でも液体でも音が鳴るところなんですよ。普段、お椀をお箸で叩いたら怒られるじゃないですか。それをちょっと容認する日を作ってあげるだけでも楽しいと思います。
他には、ペットボトルにパスタを折って入れると、振るだけでシェイカーになります。振る向きや持ち方によって音が変わるし、カシシという打楽器と同じ原理の、割と本格的な楽器が作れます。しかもパスタはその後茹でれば食べられます(笑)。



それから、グラスやボウルにラップをとにかくピンと張る。コツは対角線どうしで引っ張って、ボウルの縁にしっかりくっつけることを繰り返すだけ。これ、ドラムのチューニングとまったく同じ要領なんです。こうしてできた「ラップ太鼓」を指やお箸で叩くと、意外といい音が鳴るんです。ボウルやお皿に料理を入れたままでこの太鼓にすれば、料理から音を出すことに成功します(笑)。このことを発見し、興奮して昨日、真田に電話してしまいました。

おばんさん: あとはボウルに水を張って、お椀を底が上になるよう浮かべて叩くと、低音が出ます。これはウォータードラムという、アフリカを中心に発展した楽器と同じ原理です。叩くものをお箸から綿棒や割り箸に変えるだけでも音が変わるし、シンプルなようで奥深い。固体さえあれば演奏できるのが打楽器の魅力なので、ぜひおうちでいろいろ試してみてほしいです。
100均でそろう! おうち遊びは「デカルコマニー」と手で描く絵の具遊びを
──外に出られない日に、家でできる表現遊びのアイデアを教えてください。
真田さん: 紙を半分に折って、片面に絵の具を置いてから折り返して開くと、偶然の模様が現れる遊びはおすすめです。「デカルコマニー」という技法で、転写シールのデカールの語源にもなったフランス語なんですが、狙い通りに描けなくても開けてから「これ何に見える?」と一緒に楽しめるのがいい。今日の実演ではカブトムシみたいな模様になりましたよ。

あとは、筆や鉛筆もいいけれど、紙の手触りや絵の具の感触や摩擦の感じを体で覚えるには、直接手で描くのが一番だと思っていて。100均にある絵の具で十分なので、ちょっと汚れてもいい環境をつくってあげると、遊びの幅がぐっと広がります。



親が詳しくなくても、できることは山ほどある!
親子で一緒にライブや美術館へ行こう
──親自身がアートや音楽に詳しくない場合でも、子どもと一緒に楽しむためのコツはありますか?
おばんさん:リズム感は、幼少のころから体で感じることがとても大事だと思っていて。リトミックってあると思うんですが、体を使ってリズムを把握する。ワルツのような横に流れるリズムなのか、ロックやポップスのような力強いビートなのか。そういう体感を幼いうちにやっておくと、大人になってライブに行ったときに、音楽を体から楽しめるようになる。だから、リズム感を幼少期から養っておくことはとてもいいことだと思います。僕はその代わりに段ボールを叩いていたわけですが(笑)。
親子で一緒に演奏してみるのもおすすめ。難しい楽器でなくても、さっきのラップ太鼓やシェイカーで十分です。何をすればいいかわからない状態より、複数人で一つのものに向かっていく、作り上げる感覚を経験するのは、子どもにとって楽しいものですから。ライブや生演奏を一緒に聴きに行くのもいい。大きな音を耳だけじゃなく体で聴く感覚は、生演奏でしか味わえないものなのでイチオシです。
真田さん:美術館も、中学生以下は無料のところが多いので、気軽に行ってみてほしいです。見ることと描くことって同じくらい大事で、作家によっては「見ることが9割、手は1割」と言う人もいるくらい。世界の捉え方の手札をいろいろ持つためには、名画を見る経験がすごく重要なトレーニングになるんです。日本の美術館は画材持ち込み禁止なので、僕は子どものころ、名画をめっちゃ目に焼き付けて走って帰って真似する、ということをやっていました(笑)。最初は現代アートなどよりも、絵本の原画展のような表現の楽しいものから入るのがおすすめです。

親が楽しんでいる姿が、子どもの好きを伸ばす最高の環境に
──子どものころから美術・音楽を続けてこられた中で、今も印象に残っている大人からの声かけはありますか?
おばんさん:うちの父は、言葉で褒めない人で。でも、ギターを弾く「顔」で語ってくれていたというか。一緒に演奏すると、その楽しそうな表情が伝わってくるんですよ。言葉か非言語かの違いだけで、心から楽しんでいることが伝わったことが、いちばん大切だったんじゃないかなと思います。
真田さん:描いている最中は放っておいてくれたこと。完成品を見せたら、アプローチの面白さを一緒に面白がってくれたこと。親御さんが専門的な知識をもっていなくても、「この色の選び方いいね」という一言が、子どもにとっては次に描くモチベーションになるんですよね。
「好き」を続けることは、世界の見方や可能性を増やすこと
──子どもたちに、「好き」を持ち続けることについて伝えたいことは?
真田さん: いたずら心を忘れないでほしい、ということですね。ダメなことをダメと言うだけでなく、なぜダメなのかを説明した上で、他の方法を一緒に探してみる。失敗を恐れずに欲のままに進んでみて、ダメだったらそこから考える。その経験を積める期間って、親がサポートできる子どものうちだけなんです。子どもと一緒に、いろんな世界を見ておいてほしいです。
プロの表現者をプレイヤーと呼ぶのは、表現することが遊びの延長線上にあるから。例えば男の子がミニカーで遊ぶとき、車を実寸大の本物だと思って同じ目線で見ているじゃないですか。自分でアクションを起こして新しい世界観を作り出す。その連続の結果として、何かしらのプレイヤーになっていく。親御さんが、その世界観の中に一緒に入ってあげる声かけをしてもらえたら、子どもはきっとうれしいし、その経験は将来どんな仕事においても生きてくると思います。
おばんさん: 音楽って、一つの作品に複数人で取り組める面白さがあって。子どもにとって、何をすればいいかわからない状態よりも、複数人で一つのものに向かっていく感覚は、やっぱり楽しいんですよね。詳しくなくていいので、ぜひ一緒に入ってあげてほしいです。
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お話を聞いたのは
東京藝術大学出身の美術組4人、音楽組4人、計8名のメンバーによるアート系クリエイター集団。音楽や美術に関するコンテンツを発信中。
真田将太朗さん(左) 東京藝術大学美術学部芸術学科卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。在学中に、Art Olympia、藝大アートプラザ賞や東京藝大アートフェス優秀賞などを受賞。画家として個展を開催するほか、JR東日本の長野駅構内常設壁画なども手がける。
おばん(本多悠人)さん(右) 東京藝術大学音楽学部器楽科(打楽器)卒業。ドラマー・作曲家として活動し、国内外で演奏を行う。企業CMの楽曲にて演奏、各種展示会などへの楽曲提供なども行っている。中学校・高等学校教諭第一種免許(音楽)を所持。
この記事を書いたのは
子育てや教育、人物インタビュー、暮らしにまつわるテーマを中心に取材・執筆。子どもの小・中・高受験を通して、国立・私立・公立それぞれの学校生活も経験してきました。迷いや悩みも含めた子育ての実感を土台に、“今、知りたい”に応える記事を心がけています。
撮影/五十嵐美弥