子どもの習いごとを増やしたら、セルフイメージが下がりそうに…

『12歳までに伸ばしておくべき5つの非認知能力』の著者で、非認知能力開発専門塾「Five Keys」を運営する井上顕滋さんは、長年企業の経営者やアスリート向けに研修事業を行ってきました。その過程で、ビジネスやスポーツの世界で成果を出す人と出せない人の違いが見えてきたと言います。
「成功者に共通する資質が、今でいう非認知能力です。具体的な能力としてはいろいろありますが、たとえばコミュニケーション能力もその一つ。実は、長男が小学生だった頃、ゴルフと剣道をやっていたところに、コミュニケーション能力を高めたいと、サッカーも加えたんです。でも当然ながら、一つのスポーツに集中的に取り組んでいる子と実力差が開いてしまって…。
このままだと『がんばっても勝てない』とセルフイメージが下がってしまうかもしれないと思い、話し合った末にサッカーはやめました。コミュニケーション能力は大事ですが、習いごとだけですべてを得ようとするのは無理なんですよね」(井上さん)
そのときの葛藤から、ほかの方法で成功者に共通する資質を培うことはできないかと模索し、大人向けの研修内容を子ども向けに組み直して、2011年に非認知能力開発専門塾「Five Keys」を開講。当時はまだ非認知能力という言葉は知られておらず、「こども成功塾」という名前でスタートしたそうです。
成功は偶然ではない、成功者に共通する5つの能力とは?
「非認知能力という言葉は範囲が広すぎるんですよね。非認知能力という、なにか特殊な能力があって、それさえ伸ばしておけばいいと思われがちですが、実際は非常に幅広いさまざまな能力の総称で、一言で語れるものではありません」(井上さん)
数ある非認知能力のなかでも、井上さんが大事だと考え、塾でも教えているのが「子どもが社会で成功するためにとくに必要な力」。具体的には次の5つです。

1つ目は、「ビリーフ・セルフイメージ」。ビリーフとは信念で、自分が正しいと信じてしまっている考え方(無意識の決めつけ)やものの見方。セルフイメージとは自分のことをどう認識しているかです。
2つ目は「考える力」。これは「脳のスペック(性能)」つまり認知能力と「考える力を支える力(非認知能力)」の掛け算で決まります。
3つ目が「目標達成能力」。「目標を達成すると、コツをつかめるだけではなく、自己効力感が上がるんです。『自分はできるタイプだ』と腹の底から信じられるようになる。勝ち癖って、本当にあるんですよ。成功者が別の事業に挑戦してもうまくいくのは、コツを知っていることに加えて成功するまで諦めないからです」と井上さん。
4つ目は「コミュニケーション能力」。これは、おしゃべりが上手といった意味ではなく、相手と信頼関係を築き、論理と感情をかけ合わせながら、対話を通じて新しい価値や納得解を一緒につくっていく力です。
そして5つ目が「愛される人格」。キャリアの成功だけでなく、人生の幸福度・健康・寿命を大きく左右します。周囲から好かれる人には多くのチャンスが巡ってくるものです。
「5つの力はバラバラに存在するのではなく、相互に複雑に絡み合い、ときに爆発的な相乗効果を生み出します。この5つがそろった人を想像してみてください。人から愛されて、自信があって挑戦できて、協力者を巻き込めて、目標達成のコツをつかんでいて、考える力も高い。そんな人がいたら成功すると思いませんか?」(井上さん)
AI時代に光る「考える力」と「愛される人格」
AI時代、認知能力の差はAIで埋められ、非認知能力が与える影響は大きくなっています。なかでも「考える力」の在り方が少し変わってきていると言います。
「たとえば『マグカップに何かを足したら、どんな新しいアイデアが出るか』といった発想のフレームワークがあるのですが、こういうアイデア出しはAIが得意。でも、そのなかからどれを選ぶかという感性やセンスは人間が担う重要な部分です。そして、AIに模倣も代替もされない領域こそが、愛される人格だと思います」(井上さん)
なぜ、12歳までに非認知能力を伸ばしておくべきなのか
井上さんの書籍のタイトルは『12歳までに伸ばしておくべき5つの非認知能力』。なぜ「12歳まで」かというと、11~12歳のピークを境に、脳が大人仕様へと近づいていくから。子どものうちに、どのような脳の回路を頻繁に使うかが、大人になってからの脳の基本スペックに影響を及ぼすそうです。
「思春期に入ると親の言うことは響かなくなったり、他人の目が気になって全力でやるのが恥ずかしくなったりするんですよね。それ自体は健全な反応ですが、子育てを“親が子どもに影響を与えること”だと定義すると、親としては子どもの世話はできても、子育てはできなくなる感覚だと思います。親の言葉が届きやすい12歳頃までの関わり方で、その後の伸び方が大きく変わってきますよ」(井上さん)
親が肩の力を抜けば、子は伸びる

非認知能力を育てるために大事なのが、「子どもが安心して失敗できる『安全基地』をつくる親の声かけや態度」と井上さん。親の関わり方について、最近、過保護・過干渉が気になっているそうです。
「サッカーの指導者に話を聞く機会があるのですが、試合でゴールを外すと、まず親の顔を見る子が少なくないそうです。これはミスをすると親に叱られるという恐怖や親からの評価を過剰に気にしての反応ですが、そういう子はあまり伸びないそうです。
親が短期的な結果に意識を向けすぎず、失敗を学びの機会として歓迎する姿勢が重要です。子どもを目先の失敗や痛みから守ろうとしすぎて、子どもが学ぶ機会を奪ってしまっている場面が増えている気がしますね。本来、子どもが失敗して落ち込んだときが親の出番。親は『どうして失敗したと思う?』と話を聞き、子どもは『次はどうすればいいかな』と考えることで前を向ける。その積み重ねが自己効力感を育てます。
親に支えられた成功は、本当の成功体験ではありません。失敗から得られるものは本当に大きいです。親御さんには子どもが失敗することを恐れず、『この経験から子どもはどう成長できるだろう?』とワクワクしてほしいですね。親が肩の力を抜けば、子どもはのびのび挑戦でき、子どもが挑戦して成長すれば親の笑顔も増える好循環が生まれます。
子どもはあっという間に大きくなりますから。ぜひお子さんに本当に大事な力を見極めて、親としてできることをやってみていただきたいですね」(井上さん)
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AIの進化により社会の変化が加速する中、「子どもに本当に必要な力とは何か」が改めて問われています。小学生から高校生を対象とした非認知能力開発専門塾「Five Keys」の代表 井上さんが、AI時代を生きる子どもたちにとって重要となる非認知能力(主体性・やり抜く力・思考力など)について、心理学・脳科学の知見と教育現場での実践をもとに解説。家庭で実践できる声かけや日常の関わり方のヒントが具体的に紹介されています。
お話を聞いたのは
子ども向け非認知能力開発専門塾「Five Keys」代表。2004年Result Design株式会社を設立。非営利型一般財団法人 日本リーダー育成推進協会 特別顧問。心理学・脳科学をベースに、20年以上にわたり子どもから経営者まで「人の可能性を引き出す指導」を行っている。子ども向け非認知能力開発専門塾「Five Keys」創設者として、延べ6万人以上の子ども、保護者を指導。
最先端の心理学および脳科学を体系的に学び、それらを融合させることで独自の能力開発メソッドを確立し、これまでに3,000社以上の企業で経営者・経営幹部への指導・研修を実施。エグゼクティブコーチ、メンタルトレーナーとしてオリンピック出場の日本代表選手や 世界一に輝いたプロスポーツ選手のサポートも行っている。
この記事を書いたのは
通信会社に約6年間勤務した後、ライターに転身。旅行、IT、
