思春期の子どもへの声かけは「CCQ」。おだやかに (calm)、子どもに近づいて(close)、小声で(quiet)を意識して。待つことが何よりも大事です【思春期のプロ・土井高徳さんに聞く】

思春期を迎え、いったいこれが、あのあどけなかった我が子かと思うほどの変わりよう。でも、戸惑っているのは子どもも同じです。長年、里親として多くの思春期の子どもたちとくらしてきた、治療的里親の土井高徳さんに具体的な対処法をうかがいました。

大事なのは安心して生活できる環境を整えること

子どもが思春期になると、親にも変化が訪れます。父親は会社で責任のある立場になったり、専業主婦だった母親もパートの仕事を始めたり。家族関係にも変化が表れる時期です。
そういうときに基本となるのが、安心して生活できる環境を整えること。子どもが帰ってきたときに、ホッとできて、居場所のある家庭を用意してください。
何に安心を感じるかは、子どもによって違ってきます。スキンシップを喜ぶ子もいれば、鬱陶しいと思う子どももいます。その子の安心感がどこから発生するのか風呂なのか、食事なのか、家族との会話なのかを見極めましょう。なかでも食事は重要ですね。心を満たす前に、まずおなかを満たしてやることは、成長期の子どもにとって大事なことです。

言葉遣いは「CCQの原則」で

そして、思春期の子どもと向き合うときに、してはいけないことがいくつかあります。子どもと一緒になって感情的にならないこと。大人として我が子に接することが大切です。

言葉遣いは、「CCQの原則」で。おだやかに (calm)、子どもに近づいて(close)、小声で(quiet)で話しましょう。思春期の脳は、いわば沸騰状態です。そこに不要な刺激を与えたら、ますます沸き立ってしまいます。

思春期の子どもとの関わり方の5つの大原則をお伝えします。

1 対等になって衝突しない

子どもが母親に向かって罵詈雑言をぶつけてきたとき、カチンとくるのは、親が子どもと同じ精神年齢になっているからです。子どもと同じレベルに下がると、衝突や対立が起きてしまうので、同じレベルにならないためにカチンときたら、深呼吸をするなどして自分を落ち着かせましょう。

2 傷つける言葉を使わない

暴言は、「母親にこれくらい言っても受け止めてもらえるだろう」という甘えの裏返しです。子どもにいろいろ言われて傷ついた
から、あなたも傷つきなさい」とやり返すのは、大人のすることではありません。
今の子どもたちの多くは、壁に粘土を叩きつけるような荒い言葉を吐きます。そういう言葉を聞くと、私は「家庭で荒い言葉しかかけられてこなかったんだろうな」と思います。大事にされなかった人は、相手を大事にすることができません。やさしい言葉をかけるようにしてください。

3 ガミガミ言わない

親は怒り始めると、ついつい過去にまで遡って怒ってしまいます。でも、それは逆効果。目の前のことだけに関して、短く諭すこと。説教もダメです。

4 子どもを追い詰めない

「ダメじゃないの」「何やってんの!」と叱るのではなく、「こうすればいいよ」「〜しようよ」と、肯定的な指示を出しましょう。
「自分の部屋を掃除しないから、今週はゲーム禁止!」と怒るのではなく、「早く掃除をしたら、そのぶん長くゲームができるよ」と言うと、子どもは行動に移りやすいのです。子どもの心の向きをちっと変えてやるような声かけが大事です。

5 子どもを突き放さない

昔から言われている、子育ての知恵をご存じですか。
「乳児は肌を離すな。幼児は肌を離して、手を離すな。少年になったら、手を離して目を離すな。青年期に入ったら、目を離して心を離すな」
子どもが思春期になったら、手は離して、でも、目は離さずに見守りましょう。体罰は論外です。

大事なのは「待つこと」

思春期の子どもに対しては「待ってやること」が大事です。

私は、子ども自身に立ち直る力があると思うんです。だから、つかず離れずの距離をとって、でも、「いつも見守っているよ」というメッセージは伝えてください。短い手紙やメモを渡したり、お弁当に子どもの好物を入れるのもいいですね。
子どもに話を聞いてほしいのであれば、親がまず、子どもの思いを聞いてやることです。子どもなりの葛藤や混乱の感情を全部引き出して、そのうえで話すと、最低ひとつは、子どもの心に入っていきます。親はいつも「受け」の態勢でいてください。

思春期における子どもの変化は非常に大きく、中学1年生と3年生では、体つきが全然違います。その変化にきちんと向き合うことで、親も親として、トレーニングされるのです。

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土井高徳さん|一般社団法人おかえり基金(土井ホーム)理事長
里親。学術博士。保護司。医師や臨床心理士などと連携して、国内では唯一の「治療的里親」として子どもたちのケアに当たっている。福岡県北九州市で心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。2008年11月、ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞を、2023年11月、「治療的里親」としての長年の貢献から「守屋賞」を受賞。著書に『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』『怒鳴り親 止まらない怒りの原因としずめ方』(共に小学館新書)などがある。

構成/HugKum編集部 写真/繁延あづさ

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