「元の木阿弥」とは?
読み方と意味
まずは読み方と意味を確認しておきましょう。この言葉は『元の木阿弥』と書いて「もとのもくあみ」と読みます。
一時よくなったものが再び元のよくない状態に戻ること、せっかくの苦労や努力が無駄になるという意味の言葉です。
「元の木阿弥」の由来・語源
『元の木阿弥』は実在の人物に由来しています。
時は戦国時代。大和国(奈良県)に筒井順昭(つついじゅんしょう)という大名がいました。彼はわずか2歳の子(のちの筒井順慶)を残して死の病に伏してしまいます。筒井家の居城である郡山城の周りには、天下を狙う松永氏をはじめとした敵ばかりで、幼子が家督を継いだとなれば、攻め落とされることが予想されました。
そこで、子が成長するまでの時間稼ぎとして、順昭は自分に似た「影武者」をこっそり用意することにしたのです。
その人物こそが木阿弥(もくあみ)だったのです。

影武者としての木阿弥
木阿弥は盲目の僧でしたが、その姿や声など、非常に筒井順昭と似ていました。そのため、順昭の影武者に抜擢され、城主としての人生を歩むことになりました。今までにない贅沢な暮らしが用意され、皆に大事にされる日々を過ごしたのです。
その後息子の順慶が成長し、家督を継ぐと、木阿弥は元の立場に戻りました。贅沢な暮らしから一変、ただの僧侶、「元の木阿弥」に戻ったことから、「一度良くなったことが元に戻る」ことを表す故事成語ができたのだと言われています(他にも諸説あります)。
奈良市にはその昔、木阿弥と縁の深い寺がありました。その寺では「元の木阿弥」は「物事が成就し、成功して原点に返る」という良い意味のことわざとして伝えられていたそうです。
使い方を例文でチェック!
では、『元の木阿弥』の使い方を例文でチェックしていきましょう。

1:せっかく痩せたのに、休みの間にリバウンドして元の木阿弥になった。
ダイエットした努力の甲斐なくリバウンドしてしまったときには『元の木阿弥』と言えそうです。
2:雨漏りがする屋根にビニールシートをかけておいたが、台風が直撃し、元の木阿弥になってしまった。
補修した意味がなくなってしまった屋根も『元の木阿弥』と言えます。
3:掃除するたびに部屋を整理しても、しばらくするとまた元の木阿弥になってしまう。
完璧に整理できたと思っても、すぐに『元の木阿弥』になってしまうこともあります。
4:残業して作った企画書のデータが消えてしまい、元の木阿弥になった。
積み上げてきたものが一瞬で『元の木阿弥』になってしまう可能性があるのが、データの怖いところです。
類語や言い換え表現は?
では、『元の木阿弥』を別の言葉で言い換えたい場合、どのような表現を使うことができるのでしょう。『元の木阿弥』に似た表現を探してみました。

1:白紙になる(はくしになる)
『元の木阿弥』と同じく、それまで積み上げてきたものが元に戻ってしまう様子を表す言葉です。
2:水泡に帰す(すいほうにきす)
「水の泡」とも言われ、『元の木阿弥』と同じく、泡のように何もなくなってしまうことを表す言葉です。
3:リセットされる
ボタンひとつで初期状態になってしまう「リセットされる」という言葉。『元の木阿弥』と同じく、それまで築いたものがゼロに帰することを表した言葉です。悪いことが帳消しにされて、よい意味でやり直す意味にも使われます。
4:振り出しに戻る(ふりだしにもどる)
ゲームの双六でも見かける「振り出しに戻る」という言葉。ゴール直前でスタートに戻ってしまうことから、『元の木阿弥』と同じく、がっかりする表現です。
対義語は?
では、『元の木阿弥』の反対の意味に当たりそうな言葉には、どんなものがあるのでしょうか?

1:実を結ぶ(みをむすぶ)
努力が報われる様子の「実を結ぶ」。元に戻ってしまう『元の木阿弥』とは逆の意味と言えそうです。
2:日の目を見る(ひのめをみる)
埋もれていたものや、隠れた努力が世に知られる意味の「日の目を見る」。誰の目にも触れない状態に戻ってしまう『元の木阿弥』とは逆の言葉と言えるかもしれません。
3:立身出世(りっしんしゅっせ)
努力や才能によって社会的に高い地位を得て、世に認められる「立身出世」。こちらも『元の木阿弥』とは逆に、自分の力量が認められて地位を得る様子を表す言葉として、ここに挙げてみました。
英語表現は?
では、『元の木阿弥』は、英語ではどのように言い表すことができるのでしょうか。最後に『元の木阿弥』の英語表現と言えそうな言葉をご紹介します。

1:The wheel comes full circle.
直訳すると“車輪は一巡する“。『元の木阿弥』と同じく事態が元に戻ってしまう様子を車輪に例えた言葉です。
2:Be back to square one.
、『元の木阿弥』と同じく、“元の状態に戻る“という意味の言葉です。
3:Come to naught.
“無駄になる”という意味の言葉で、こちらも『元の木阿弥』と同じ状態と言えそうです。
「元の木阿弥」の意味と由来を知って、正しく使いましょう
実在した人物がモデルと言われている『元の木阿弥』という言葉。使う際は、由来も思い出してみると、落ち込む気持ちも薄れるかもしれません。
あなたにはこちらもおすすめ
構成・文/kidamaiko