石破首相がアフリカ支援の強化を発表
2025年8月20日から22日まで、神奈川県横浜市で第9回アフリカ開発会議（TICAD9）が開催されました。この会議は、アフリカの開発をテーマに各国首脳が集まる国際的な場で、日本が主導する重要なイベントです。石破茂首相は、会議でアフリカ支援の強化を発表し、日本とアフリカの協力関係をさらに深める方針を示しました。
1993年から始まったTICAD
TICADは「Tokyo International Conference on African Development」の略で、1993年に日本が初めて開催しました。当時、冷戦終結後のアフリカが国際社会からの注目を失いつつあったため、アフリカ開発の議論を活性化させる目的で始められました。
以降、3年ごと（当初は5年ごと）に開催され、国連やアフリカ連合、世界銀行などが共催しています。今年のTICAD9は、パシフィコ横浜で行われ、50カ国以上のアフリカ首脳や国際機関の代表が参加。「アフリカと共に革新的な解決策を共創する」をテーマに、社会、平和・安定、経済の3つの柱を中心に議論が進みました。
石破首相が発表した内容
石破首相の発表内容は、支援の具体化が目立ちました。
例えば、「インド洋・アフリカ経済圏構想」を提案し、日本企業がインドや中東とアフリカを結ぶ貿易ルートを強化することを強調しました。また、モザンビーク、マラウイ、ザンビアの3カ国を対象に、鉱物資源の輸送ルートである「ナカラ回廊」の開発を推進するプロジェクトを発表。日本の公私セクターが協力し、投資を増やす方針です。
さらに、55億ドルの低金利融資をアフリカ開発銀行と連携して提供し、債務軽減と持続可能な開発を支援します。これにより、アフリカのインフラ整備や産業化を後押しし、日本企業のアフリカ進出を促進します。
他にも、AI人材の育成で30万人を訓練する計画や、農業・健康分野での技術支援、気候変動対策のためのグリーン投資が盛り込まれました。これらの発表は、過去のTICADで約束された300億ドルの投資が十分に実現しなかった反省を踏まえ、貿易中心の「質の高い成長」を目指すものです。
今、アフリカが国際的に注目される理由
では、なぜ今アフリカが国際的に注目されるのでしょうか。
鉱物資源が豊富
まず、大きなところでは経済的な魅力です。アフリカ大陸は、世界の鉱物資源の30％を保有しており、コバルトで見ると世界の70％を保有しています。これらは電気自動車の電池や再生可能エネルギー技術に欠かせず、日本のような資源輸入国にとって、安定供給の鍵となります。
人口は14億人超え！ 若い労働力
加えて、アフリカの人口は14億人を超え、2050年までに世界人口の4分の1を占めると予測されます。平均年齢は19歳と若く、この若い労働力が、製造業やサービス業の成長を支え、巨大な市場を生み出します。
大国も積極的にアフリカへの関与を進める
大国の間でも、アフリカの重要性が高まっています。中国は「一帯一路」構想を掲げ巨額投資を行っており、欧米でも支援競争が激化しています。
日本も「アフリカ主導」の原則を掲げ、持続可能な開発を強調。今後、欧米や中国、ロシアなどはいっそうアフリカへの関与を強めるでしょう。世界がアフリカの可能性に強い期待感を抱いています。
一方で貧困や紛争などの課題も
一方で、アフリカには貧困や紛争、気候変動、債務問題といった深刻な課題もあります。IMFの2025年報告書でも、アフリカのGDP成長は低迷し、保護主義やインフレが貿易を阻害しています。日本は、これらの課題解決を通じて、アフリカのポテンシャルを引き出すパートナーシップを築こうとしています。
石破首相は演説で、「アフリカのダイナミズムが日本を含む国際社会を助ける」と述べ、相互利益を訴えました。また、気候変動対策としてアフリカの森林保全を支援し、日本の高齢化社会が直面する農業課題解決にアフリカの若手労働力を活用する可能性も示唆。こうした協力は、グローバルなサプライチェーンの安定化に寄与します。
アフリカを「支援」するのではなく「共創」へ
TICAD9の意義は、単なる支援ではなく「共創」にあります。横浜宣言では、アフリカの自由貿易圏（AfCFTA）の推進や、AI・デジタル技術の活用が合意され、民間セクターの役割が強調されました。
日本企業は、MUFG銀行などがアフリカの金融機関と提携し、リスク低減のための保険や融資を拡大。これにより、アフリカの現地産業が育ち、雇用を生み出します。一方で、日本はアフリカから学び、持続可能なビジネスモデルを構築します。
アフリカとのパートナーシップは、世界全体の安全にとっても重要
アフリカに注目することは、単なる資源や市場のためだけではなく、平和と安定の観点からも重要です。日本がアフリカの紛争解決のため平和維持活動を支援し、テロや感染症対策を強化することで、国際社会全体の安全は向上するでしょう。石破首相の発表は、こうした多角的な視点を反映しています。
TICAD9は日本・アフリカ関係の転機となりました。石破首相の支援強化は、アフリカの潜在能力を活かし、両者の繁栄を実現するものです。読者の皆さんも、アフリカのダイナミックな未来に注目してください。このパートナーシップが、世界の持続可能な発展にどう寄与するのか、引き続き見守っていきましょう。
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記事執筆／国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバルサウスの研究に取り組む。大学で教壇に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。
