「賽は投げられた」とは?
読み方と意味
まずは読み方と意味を確認しておきましょう。この言葉は『賽は投げられた』と書いて「さいはなげられた」と読みます。物事がすでに開始され、もはや決行するしかないことをたとえた言葉です。
「賽」は「さい」と読み、サイコロを意味します。もうサイコロを振ってしまったから、どんな目が出たとしても後には引けないという意味で、強い決意を表す言葉です。
「賽は投げられた」の由来・語源
『賽は投げられた』の由来は紀元前の古代ローマ時代にあります。
紀元前49年、ガリア(北イタリアと、アルプス山脈の北側)の総督だったカエサル(Gaius Julius Caesar)は、対立するポンペイウスと勝負するため、軍隊を率いてローマに向かいました。

当時の法律では、ローマの北方を流れるルビコン川を軍隊を引き連れたまま渡ることは禁じられていました。しかし、カエサルはそれを無視してルビコン川を渡り、進軍を続けます。そのときに発した言葉が『賽は投げられた』だと言われています。
どんな目が出るかは、サイコロを投げた瞬間にはわかりません。しかし法律を犯してまで戦いを始めてしまったからには、最後まで戦い抜くしかない、という強い決意を示したのです。
その結果、カエサルはポンペイウスを滅ぼし、各地の内乱を平定して、独裁官となりました。
「皇帝」の語源にもなった古代ローマの有名人カエサル
カエサル(英語ではシーザー)は古代ローマでいちばん有名な人物としても知られています。
カエサルの後に続いたローマ皇帝たちは皆、カエサルの名を冠していたため、次第に皇帝を指す言葉として「カエサル」が使われるようになります。後にドイツ語のKaiser(カイザー)やロシア語のцарь(ツァーリ)など、皇帝を表す言葉の語源ともなりました。
カエサルは優れた文筆家としても知られています。『賽は投げられた』の言葉が生まれたガリア遠征の記録をまとめた『ガリア戦記』なども執筆し、これらは当時を知る貴重な文献として、現代でも読まれています。
さらに現在の暦の元となる太陽暦に、自分の名前を付けて導入した(ユリウス暦)のもカエサルです。

絶世の美女として有名なクレオパトラに魅了されてしまった、というエピソードもあるカエサルですが、その後反対勢力に妬まれ、暗殺されてしまいました。その際に放ったと言われる「ブルータス、お前もか!」という言葉も、のちにシェイクスピアの戯曲で広まり、「信頼していた相手に裏切られたとき」の比喩として使われています。
後の世にもたくさんの影響を与えたカエサル、気になる方は伝記や著書もチェックしてみてください。
使い方を例文でチェック!
では、『賽は投げられた』の使い方を例文でチェックしていきましょう。

1:コンクールを前にして辞退者が出たが、賽は投げられたのだから、残ったメンバーで当日を迎えるしかない。
すでに出場が決まったコンクールやスポーツ大会では、直前に見舞われた想定外の出来事を前にして『賽は投げられた』を実感することもあるでしょう。
2:新事業のために借金をして土地を購入した。もう賽は投げられたから後戻りはできない。
うまく行くかわからない新事業を興す際には『賽は投げられた』と感じることも増えそうです。
3:巨額を投じてプロデュースした新人アイドルのデビュー曲が発売された。賽は投げられたからあとは売れるよう祈るだけだ。
デビュー後の売れ行きに関しては『賽は投げられた』という考え方もできそうです。
類語や言い換え表現は?
では、『賽は投げられた』を別の言葉で言い換えたい場合、どのような表現を使うことができるのでしょう。『賽は投げられた』に似た表現を探してみました。

1:あとは野となれ山となれ(あとはのとなれやまとなれ)
自分はできるだけのことをしたから後のことは知らない、という心境の「あとは野となれ山となれ」。『賽は投げられた』と同じくもう物事を止められず、自分の力が及ばない状況を表した言葉です。
2:伸るか反るか(のるかそるか)
運を天にまかせ、思い切って物事を行うことを表す「伸るか反るか」。『賽は投げられた』と同じく、神頼みの様子を表しています。
3:乾坤一擲(けんこんいってき)
一か八かの勝負を表す「乾坤一擲」。『賽は投げられた』と同じく、結果がどうであれ勝負に出るという覚悟を表しています。
4:背水の陣(はいすいのじん)
『賽は投げられた』と同じくもう後には引けず、もし失敗すれば滅びる覚悟で事に当たる様子を表す言葉です。
対義語は?
では、『賽は投げられた』の反対の意味に当たりそうな言葉にはどんなものがあるのでしょうか?
1:石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる)
物事に対して慎重な様子を表している「石橋を叩いて渡る」という言葉。すでに物事が動き始め、勢いで進む『賽は投げられた』とは逆の意味と言えそうです。
2:転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
何かが起こる前に、あらかじめ準備をしておくことで失敗や災難を避けることができる、という意味の「転ばぬ先の杖」。事が始まる前に焦点を当てているという意味で、始まった後に焦点を当てた『賽は投げられた』とは対照的な状態と言えるでしょう。
3:反古にする(ほごにする)
約束や契約を破ったり、無効にしたりすることを表す「反古にする」。こちらは、物事が始まってしまう『賽は投げられた』とは逆にゼロに戻ってしまう様子を表す言葉です。
4:逃げを打つ(にげをうつ)
「逃げを打つ」は、不都合な状況や困難な事態から逃走を選ぶことを意味します。最後まで突き進むことを余儀なくされた『賽は投げられた』とは逆に、解決策として逃げることを選ぶ状況は対照的と言えますね。
外国語での表現は?
では、『賽は投げられた』は外国語ではどのように言い表すことができるのでしょうか。最後に『賽は投げられた』の各国語での表現をご紹介します。

1:Alea jacta est.(ラテン語)
この言葉が初めて登場したラテン語での表現です。『賽は投げられた』が初めて登場したのはローマの歴史家スエトニウスが著した『皇帝伝』。ラテン語で書かれていたものが、のちに各国に翻訳されました。
Āleaは「賽、さいころ」という意味の言葉。jacta は「投げる」を変化させたもので、日本では『賽は投げられた』と訳されました。
1:The die is cast.(英語)
“サイコロは振られた”という言い回しで『賽は投げられた』の英語表現です。
3:Le sort en est jeté.(フランス語)
当時のガリア国があったのは主に現在のフランスに当たる地域。フランス語では、このように表現されます。
「賽は投げられた」の意味と由来を知って、正しく使いましょう
思い切って前に進む際に使われる『賽は投げられた』という言葉。意味や由来を覚えて使ってみてください。
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構成・文/kidamaiko