一緒に「楽しいね!」が子どもの言葉を育てる――親子で楽しむ『はじめてのひらがなずかん』の使い方を言語学者 川原繁人さんに訊く

前半のインタビューでは、タッチペンシリーズの最新刊『はじめてのひらがなずかん 英語つき』の監修者、慶應義塾大学言語文化研究所教授の川原繁人先生に、主に本のテーマやコンセプトについて話していただきました。後半では、実際に本で遊ぶときの注意ポイントを伺いました。

子どもの行動や気持ちに寄り添いながら、一緒に遊んであげてください

前編はこちら>>

–では、実際にこの本で遊ぶとき、家庭で気を付ける点がありましたら教えてください。 

川原:子ども同士でも、子どもと大人とでも構いませんので、できるだけ「誰かと一緒に遊ぶように配慮」していただきたいですね。前半のインタビューでも述べましたが、ひとりで遊ぶより、他者と遊んだほうが子どもの言語学習は促進されます。

また、お母さんやお父さんなど、大人がお子さんと一緒に遊ぶときは、お子さんの行動に対して、すぐさま反応してあげることも心がけていただきたいと思います。

例えば、一緒に遊んでいてお子さんが楽しそうな様子なら、「楽しいね~」と声をかけてあげたり、お子さんがクイズに失敗してがっかりするようなことがあったら「残念だったね。今度は一緒にやってみようか」などと言ってあげたりと、お子さんに寄り添ってあげてほしいのです。

人とこのような対話を乳幼児期に繰り返し行うと、言語能力や社会性が育まれることが、これまでの研究で明らかになっています。心理学用語では、これを「社会的随伴性」または単に「随伴性」と呼んでいて、子どもの発達に不可欠なものだと考えられています。母子愛着形成に重要だ、とする研究もあります。

人とのふれあいが子どもの言語能力や社会性を育み、学ぶ意欲にもつながります

養育者の語りかけは、言語の習得に限らず、子どもの社会性やコミュニケーション能力の育成にも大きな影響を与えているのですね。

川原:例えば、お母さんやお父さんがこうした反応をお子さんにするときは、自然にお子さんの目を見て身ぶりや手ぶりをしながら話し、声のトーンや表情が変わりますよね。そういった刺激を受けることが乳幼児の発達には大事なのです。

–本で遊ぶとき、ほかに気を付けてほしいポイントはありますか?

川原:できれば、お子さんの「言葉の言い間違いを指摘して直さない」でいただけたらと思います。このことは、2人の子どもを育てている私と妻の子育てに対する方針ですので、「絶対にそうしてください」とは言えないのですが、「子どもの言い間違い」は、口や喉などの構造が大人に近づくにつれて、多くの場合は直ります。いずれ大人の発音になる可能性が高いのだから、親としてはかわいい幼児発音を堪能したほうが〝お得〟ではないかと思っているんですよね。もちろん、言い間違いがあまりにも長く続くようであれば、言語聴覚士に相談していただきたいと思います。

人が話せるのは〝偉大な〟こと。親子でたくさん会話を楽しんでください!

川原:人間が話をするときには、何かを伝えたい想いがあって、そのためにどういう単語を使っていくかを考えます。そして、実際に話すためには、横隔膜や肋骨の間にある複数の筋肉をうまく働かせながら肺にためた空気を送り出し、声帯を振動させることで音を作りあげます。その上で、さらに口や舌をいろいろな形にすることで、ようやく言葉を発することができるのです。このように人間が言葉を話すしくみというのは複雑で、とても偉大なものと私は思っています。この偉大さを、私は多くの人に伝えて、人と人の会話を大事にしてほしいと願っています。

近年『生成AIを搭載した子ども向けのおしゃべりアプリ』が開発され、普及し始めていますが、幼児が生成AIと会話をすることは、果たして人間の健全な成長という観点から「安全」なのか、言語学者としてだけでなく、ふたりの子どもを持つ親として、私は大いに疑念を抱えています。このテーマにご興味のある方は、近著『言語学者、生成AIを危ぶむ 子どもにとって毒か薬か』(朝日新書)を読んでいただけたらと思います。

生成AIの進歩は日進月歩。ですから、私が心配に思っている問題点は、今後消失していくのかもしれません。しかし、生成AIが子どもにどのような影響を与えるかは、2025年現在、その詳細はわかっていません。

しかし、「保護者の声が、子どもにとってご褒美」であることは、間違いない事実です。今回監修をさせていただいた本の巻末には「ひらがなさがし」や「ことばつくり」「しりとり」などができる機能が搭載されていますが、収録されているデータには限りがあります。

この本で遊んだことをきっかけにして親子で言葉遊びをしてもらえたらうれしいですね。この本をツールにして、親子でたくさん話していただけましたら幸いです。

編/小学館はじめてずかんチーム 監/川原繁人 6578円(税込)

『タッチペンで音が聞ける!はじめてずかん1000』を卒業したお子さんにおすすめ。小学校入学まで使えます。プレゼントにもピッタリ!

お話を伺ったのは

川原繁人(かわはらしげと)

慶應義塾大学 言語文化研究所教授。2007年にマサチューセッツ大学で博士号(言語学)を取得し、ジョージア大学・ラトガース大学で教鞭をとった後、現職。専門は音声学で、義塾賞(2022)、日本音声学会学術研究奨励賞(2016、2023)などを受賞。

現在は慶應義塾大学や国際基督教大学などで教えながら、「日本語ラップ×言語学」「ポケモン×言語学」などの斬新なテーマで研究・発信を続け、言語学の裾野を大きく広げている。書籍のほか、TV・ラジオへの出演も多数。

編集部おすすめ

関連記事