「子ども同士のもめごと、日本は親任せ」フランスで3児を育てる母が明かす“学校の対応差”。両方経験して感じた真逆の解決法とその善し悪し

子ども同士のトラブルは、どこに住んでいても避けられません。けれど、そのあとの「大人の対応」は、国によって大きく変わります。日本とフランスの両方で小学校に子どもを通わせながら、私は何度もその違いに直面しました。
今回は、そんな対応の違いを書いていきます。

日本の小学校は「親同士で解決してください」

長男が日本の小学校に通い始めたばかりのころ。彼に持たせていたGPSが故障してしまいました。まだ買ったばかりなのに、おかしい……そう思って彼に尋ねると「同じクラスの〇〇くんに、水たまりに投げられた」と打ち明けられました。

担任の先生へ電話をすると 「親御さん同士でお話しください。〇〇くんの親に電話番号を教えていいですか?」とのこと。電話を切り、机の上に置かれたGPSをしばらく見つめていました。

相手はおろか、クラスメイトも親の顔もほとんど知らない。そんな状況で「親同士で解決してください」と言われても、どうすればよいのか……。胸の奥に、不安と苛立ちがぐるぐると渦を巻いていました。

2時間くらいして、着信がありました。「一体どんな親なんだろう」と思いながら電話に出ると、相手のお母さんは、開口一番 「本当にすみません! うちの子が、GPSを壊しちゃったんですよね?」。最終的には弁償という形で収まりました。

けれど、いつもこうスムーズにいくわけではありません。

別の親御さんとは、解決しないまま一方的に話を終わらせられたこともありました。あいさつをしても返してくれなくなり、廊下ですれ違えば目を逸らされたことも。

「あなたの息子のことで苦情を出しています」

また、「実は小学校へ、あなたの息子のことで苦情を出しています」と突然言われ、驚いたこともありました。それなら直接言ってくれればよかったのに。というか、学校側も私に連絡をくれればよかったのに。

なぜ先生が、ここまで介入しないのか。ひとつに“モンスターペアレント”と呼ばれる保護者の存在があるのでは、と思います。親から先生の対応ひとつひとつに苦情が寄せられる。だから学校はできるだけ距離をとり、「親同士で解決してください」という姿勢をとらざるを得なくなったのでしょう。

フランスの小学校は「先生や校長が調整役として入る」

フランスでも、もちろん子ども同士のトラブルは起こります。学童から長男と長女を連れて帰ろうとしたとき、門の前にいた先生が、私を見るなり言いました。

「あなたの息子が、私の同僚を叩きましたよ」

その場に凍りついて、ゆっくりと長男を見ました。彼はすぐに「やってない!」と否定します。私は先生に「彼はそんなことをしていないと言っています」と答えました。次にどんな言葉が襲い掛かってくるんだろう、と身構えながら。

すると先生は肩をすくめて「でも、同僚はそう言っているから。あとで家でよく話をしておいてくださいね」と言うと、にっこり笑って「じゃあ、また明日!」と手を振ってきました。翌日には何もなかったかのように接してきて、こちらが拍子抜けしました。

フランス人は、言いたいことは言わなくては気が済まない。でも、言えば満足なので、その後の対応まで追いかけてくることはあまりありません。

お友達にお金を渡してしまった長女。そのときは…

ただ、もっと重たい出来事もありました。

小学1年生になった長女が、同じクラスの女の子に20ユーロを渡してしまったのです。「すごく怖い顔をしていて、断れなかった」と泣きながら話す長女から詳細を聞き、翌日、担任の先生へ相談しました。

先生は「そう。それはあってはならない出来事ね。校長先生に話すけど、いい?」と落ち着いて言い、その場では解散。2日後の朝に「校長先生も交えて、相手の親御さんと話し合いましょう」と、電話がかかってきました。

放課後の校門で、校長先生、担任、相手の親御さん、そして私が集まりました。張りつめた空気の中、校長先生は落ち着いた声で話しました。

 「人のお金を取るのはもちろん悪いことです。でも、学校にお金を持ってくるのもルール違反ですよ」

その言葉に、場の緊張がゆるむのを感じました。次に私と相手の親で、先生たちの前で話をすることに。向こうも子どもに「相手から物を取ってはいけない」と話すし、私も長女には「お金を学校に持って行ってはいけない」と話すことで合意しました。

学校が第三者として介入して、誰かを一方的に責めるのではなく、両方に非があったと整理する。感情的になりがちな親同士の関係に、冷静で中立的な視点が加わると、こんなにも違うのだと実感しました。

つながりを生む日本、安心感をくれるフランス

「親同士で解決させる」という日本のやり方にも、いい点はあります。GPSの件で知り合ったお母さんとは、その後に話がはずみ、親しくなりました。

長男がトラブルを起こして、私が謝罪する側にまわったときに「お互い様だよね」と許してもらえたのは、関係性が築けていたからだったと思います。問題をきっかけに、仲良くなることもある。その温かさは、日本ならではの良さでしょう。

この温かさは、フランスの解決法では感じません。親同士が話すのは校長先生や担任の前だけで、連絡先を交換することもなく、その場が終われば関係も終了。親同士の距離感という意味では、その冷たさに物足りなさを感じることもあります。

フランス住みの今、大きくのしかかるのは言語の壁

そして、私には、もう一つ別の問題がありました。

それは言語の壁です。話し合いの直前、ノートにフランス語のフレーズを書き出して準備をしましたが、いざとなると口からうまく出てきません。途中で相手の親や先生が英語に切り替えてくれましたが、フランス人の英語はたどたどしく、私の英語もうまく伝わらない。

結局フランス語に戻って、身ぶり手ぶりで場をしのぎました。 「このままじゃダメだ。もっとフランス語を勉強しないと……」そう思い知らされる、決定的な出来事でした。

事件のあと、長男と長女を連れて学校を出ると、どっと疲れが押し寄せてきました。ストライキで休校が続き、やっと明けたと思った矢先の出来事でした。その日は猛暑で、心身ともに限界に近かったのです。

「仕事は終わっていないし、語学はまだまだだし……何も成し遂げてないな。何やってるんだろ。フランスに来て」

そう暗澹とした気持ちを抱えていると、ふと、冷凍食品の専門店「picard」の看板が目に入りました。吸い寄せられるように入り、冷凍のピザを買って「もう夜ご飯はこれでいいか」と思っていると、長男がアイスをカゴに入れてきます。

「何してるの? 戻してきなよ」とイライラしながら言うと、彼はぽつりと言いました。

「ママ、疲れてそうだから。これ食べて元気出して」

あぁーーと私は思いました。子どもたちは近くで見ているんだ、と。

そのままレジに向かい、店を出て、子どもたちとアイスを食べました。口の周りにチョコレートをつけて笑い合う彼らを見ていると、胸の奥に溜まっていたもやもやが、ゆっくりとほどけていきます。

疲れる出来事も小さな幸せで満たしていける

日本でもフランスでも、子ども同士のトラブルは避けられません。小さなほころびはいつでも生まれ得るし、そこには親を不安にさせたり、苛立たせたりするものが、ぎっしりと詰まっています。

その隙間を完全に埋めることはできないけれど、一瞬の冷たさや甘さで、ひとまず満たしていくことはできるのかもしれません。

その味を「おいしい」と感じられるうちは、きっとまだ大丈夫。そう自分に言い聞かせながら、家路へ向かいました。

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この記事を書いたのは

綾部まと ライター・作家

三菱UFJ銀行の法人営業、ユーザベースのセールス&マーケティングを経て独立。ビジネスやマネーの取材記事から、恋愛小説まで幅広く執筆。2025年よりフランスに拠点を移し、フランス企業の日本進出支援(ローカライズ)やフィクションの翻訳にも携わる。3児の母。

X:@yel_ranunclus
Instagram:@ayabemato

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