便利なアプリは使ったもの勝ちなの? タクシー待ちで息子に言われて考えてしまいました【愛子先生の子育てお悩み相談室】

子育ては日々悩みの連続ですね。保育者歴半世紀あまり。常に子どもに寄り添い、ママたちからの信頼も厚い自主幼稚園「りんごの木」の柴田愛子さんが、豊富な経験を基に、悩めるお母さんにアドバイス。

4歳の息子とタクシーの長い列に並んでいたときのことです。なかなか空車がやって来ません。そんな中、私たちの後ろに並んでいたスマホをいじっていた20代の女性が突然列から離れて反対車線に来たタクシーに乗り込んでいきました。タクシーアプリを使ったのでしょうね。後ろに並んでいたお婆さんもあれ? という顔。待ちくたびれた息子から「ずるい、なんで?」と言われ、アプリのことを話すと「ママも使って」と言われてしまいました。そういうことが苦手な人もいますよね。便利なものは使ったもの勝ち、という風潮に疑問を感じています。息子にも私の気持ちをうまく伝えられなくてモヤモヤしています。

お子さんに自分に不便のない生き方をしてほしい? それとも、人の気持ちをわかろうとする人になってほしい?

本当に私も時代の流れについていけずに、こういう場面を目にします。特にスマホの進化は目まぐるしく、年寄りはオロオロするばかり。

子どもの頃から、比較的近くにあるタクシー会社は電話で予約ができていました。ところが最近予約は受け付けないので、時間間際に電話をくださいと言われました。アプリでの依頼のほうが優先になるそうです。病院通いが多くなっている兄や姉は、毎回ヒヤヒヤしています。

そういえば、先日、ラーメン屋さんに入りました。テーブルにタッチパネルが置いてあります。いっぱいメニューがあるだけでなく、麵が硬い・普通・柔らかいと聞かれます。さらに量は少なめ・普通・多めかと聞かれ、注文に行くまで手間暇がかかってしまいました。これって親切なのかしら? 「ラーメン一丁! 普通で」これだけで終わるのに。誰が助かっているのでしょう? お店の人件費? ほんとに人手不足なんですね。

こんなことだらけの日常ですが、人生は100歳時代。戸惑う年配者は当然多いはず。

便利さが進化する裏で失われているもの。それは…

実は進化につれて失っているものがあると思います。

それは、人とのコミュニケーションです。会話の量はずっと減っていると思いませんか? メールでのやりとりは私だって便利に使っています。けれど、その普及率とコミュニケーション力は反比例しているように感じてしまいます。なんでも人に聞かずに用がすんでしまいます。だんだん人に聞くのに勇気がいるようになってしまうと同時に、人の気持ちを感じなくなっていくのではないかと不安になります。

太古の時代から子どもの育ち方は変わっていません。なにもできない赤ちゃんには泣くだけなのに「どうしたのかしら?」と駈け寄り気持ちを察しようとします。人間の赤ちゃんは泣くと来てくれて、おっぱいをくれる人がいるから、安心して育っていけます。信頼できる人の中でこそ、安心して育っていけるのです。気持ちを察し合うことの感度は良好でした。

その力は退化していいものでしょうか? 人は群れて生きていく動物です。信頼し合える関係性をもってこそ、安心して暮らしていけます。便利でもカプセル状態で孤立して生きていくのは、苦しいでしょう。

どんな時代になっても、人が人の気持ちを感じる、信頼することができるのが基本の力だと思っています。

目には見えない気持ちを想像することが子どもの感性を育てるはず

さて、お子さんに自分に不便のない生き方をしてほしいですか? 自分とは違う人の気持ちもわかろうとする人になってほしいですか? もし、後者であれば、「タクシーを呼んだ人は急いでいたのかもしれないね。でも、ずっと並んでいる人はどんな気持ちかしら?」と問いかけてみましょう。「あの人は大きな荷物持って疲れているよね」「あのおじいさんも座りたそうだよね」「赤ちゃんが寝てしまって、お母さん重そうだね」などと、人々を観察しておしゃべりしてください。

「他の並んでいる人も、あなたのように“ずるい”と思ったかもね。サッサと乗っていった人は、知らないうちに並んでいる人の気持ちを傷つけているかもしれない。お母さんはちゃんと順番も守って、乗りたい。もし、事情があるなら並んでいる人が見えない場所でタクシーに乗るようにする」と、お子さんに話してください。目には見えない気持ちを想像することが、子どもの豊かさや温かさに繋がっていくと思います。

こちらの記事もおすすめ

息子は虫が大好きですが、親は生き物が苦手。子どもの興味関心は大切にしたいけど…。どうしたらいいですか?【愛子先生の子育てお悩み相談室】
私は生き物全般が苦手です。ところが息子は蝉を捕まえたり、ザリガニ、カブトムシや、カナヘビやダンゴムシなどが好き。園でお散歩に行...

記事監修

柴田愛子|保育者・自主幼稚園りんごの木代表

保育者。自主幼稚園「りんごの木」代表。子どもの気持ち、保護者の気持ちによりそう保育をつづけて半世紀。小学生ママ向けの講演も人気を博している。ロングセラー絵本『けんかのきもち』(ポプラ社)、『こどものみかた 春夏秋冬』(福音館書店)、『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)など、多数。親向けの最新刊に『保育歴50年!愛子さんの子育てお悩み相談室』(小学館)がある。

イラスト/海谷泰海

編集部おすすめ

関連記事